通り雨の過ぎた後は・・
夕暮れどき、ここは都会の中にある大きな駅の一つ。
たくさんの仕事帰りの人々が帰宅の途につこうと、足早に改札口を抜ける。
私もそんな一人に過ぎない。
少し前に通り雨が過ぎ去り、少し濡れたアスファルトを街灯の光が照らし出す。
と、言ってもまだ五時過ぎ。まだほんのり明るさは残っている。
先程まで雨が降っていたせいだろうか?生温い空気が私の肌を包むようだった。
駅を出てすぐの所に一人の女性が座り込んでいた。
何をするでもなく、下を少し向いてただ黙ってそこに座っていた。
「誰かを待っているんだろうか?」
私は少し気になって足を止めていた。
少し、その女性を見ていたが特に動く様子はなくじっとうつむいたままだった。
「気分でも悪いのだろうか?」
私はさらに気になった。
その女性の前をたくさんの人が通り過ぎていく。
大きな駅の前だ。途切れることなく女性の前を横切いていく。
だが、誰も女性を気に掛けようとしない。
こんなご時世だ。しかも都会の人間は他人に気遣う人などいない。
とは言うものの少しは心配してもいいだろうに・・冷たいな・・。
そう思っている私も特に声をかけるわけでもないのだが。
次第に駅から出てくる人も少なくなってきて、女性も少し上を向きかけた。
そしてゆっくり首を振るように左右を見渡した。
「やっぱり誰かを待ってるのかな?」
しかし、女性の元に立ち止まる人はいない。
日は次第に暮れ始め、道路を走る車もライトを付け始めていた。
通り雨の過ぎた後は、独特の匂いがする。
湿度の変化によりある地層の土が匂いを放つためらしい。
私はこの匂いが嫌いではない。
女性はまだ、誰かを待ってるようだった。
不意に女性は立ち上がり私に気付いた様子で、こちらを見返していた。
そして小さく何かを囁く。
私に何か言っているようだった。
私は「え?」と耳を傾け女性の発する言葉を聞き返した。
「あなた、わたしが見えるの?」
「!!!!!」
その時、私は何かを悟った。
他の人が冷たいんじゃない。彼女はこの世の人ではなかったのだ・・・。