いつものこと。
「『君は古い古い祭壇の前に現れた。壁には一杯の象形文字が色彩鮮やかに描かれ、死後の世界とそこへの旅路を示している。』」
「光源は何?」
「『祭壇の周りに掲げられた冷たい青の松明と、白く輝く君の左手だ。』」
「つまり太陽を掴んで手に入れた、灼熱の手は使えるのね?」
「『ああ、この部屋で唯一熱を発しているのは君の左手だけだよ。』」
「明るいのに熱を廃した世界、そうか……!」
「『祭壇に祀られていたであろう古い包帯を巻いた、それがゆっくりと立ち上がり君に近づいてくる……!』」
「墓所をけがしたことを詫びつつ、左手の灼熱の炎を押し当てる!」
「『見事だ!君の思惑通り、純白の浄化の炎がミイラを燃やしていく……!』」
「眠りを妨げたことを詫び、その魂の昇天を祈るわ!」
「『その時新たな道が開く!まばゆい輝きとともに君の知るもっとも美しい異性が立っているよ。』」
「え!?」
「えっと……なんでそこに僕見たいなのが立っているのかな?」
「だ、だって、あたしの知る一番きれいな男性だって言うんだもん……」
「えぇ!?」
「そ、それで彼はなんて?」
「え、えと……『われは贖罪の神だ。お前の謝罪の祈りに応じ降臨した。』」
「神様、私は目を失いし獅子王のために探索の旅を続けています。その過程で心ならずも死者の眠りを妨げてしまいました。なにとぞ彼があるべき場所に行けますように。」
「えっと……『己の罪を欺くことなく死者のために祈るとは殊勝である。その祈りを叶え、そなたの旅路に加護を与えよう。もっとも低い能力を+10する。』……ってじゅう?!ほぼ倍になっちゃう!」
「やったぁ!神様ありがとう!」
「ほんとアヤセってば人たらしだなぁ……」
「あたしは誠実なだけですぅ!」
僕が翻訳した、残り5つのシナリオは一連のストーリーとなっていて、これまでのようにシナリオクリアごとに戻ってくることはない。
それだけに厳しい判断と確かなフォローが必要とされる、難易度が高いシナリオだ。
最初の部屋で、しゃべる獅子の像に【繰り抜かれた目】を取り戻すよう依頼されたアヤセは、炎渦巻く太陽の部屋で試練に耐え、白く輝く浄化の左手を手に入れる。
次なる闘神の廊下で次々とモンスターたちを屠り、祭壇の部屋でミイラ男を浄化、贖罪の神の審判を超えてようやく獅子王の瞳を取り戻した。
これを最初の部屋で獅子王に返せばいよいよクリアになる。
ようやく、ここまで来た、後の関門はただひとつ……!
「結城くん!」
「何、アヤセ?」
「楽しい、楽しいね!」
「ああ、楽しい……楽しいよ!」
「あたしね、あなたと一緒にいるときは本当のあたしでいられる気がする!男の子でも女の子でもない素顔のアヤセに。ただの織原綾瀬に戻れるんだ!
だから楽しい……!ありがとう私に冒険をくれて!本当の私を取り戻してくれて!」
曇りのない輝く笑顔で、そう伝えられる。
その言葉の、なんと尊いことか。美しいことか。
だから僕も答える。
「僕もだ。」
「僕も君といると楽しい。君と一緒に物語を紡いでいると、自分の胸の中に秘めていたものが開放される気がする。
だから楽しい……!ありがとう、僕をおりから解放してくれて!本当の僕をくれて!」
二人して真っ赤になってありがとうと伝え合う。
本の魔法のせいで大きさの違う僕達だから、交わし合うのは言葉だけ。
だけど、それだけの言葉が僕達を満たしてくれる。
君がいて、僕がいる。
言葉が二人を結んでいる。
それはどんな魔法の力より不思議で素敵なことだった。
「さぁ、始めるよ。」
「うん!」
「『君はようやく獅子王の部屋に戻ってきた。すべてが黄金で飾られた部屋の中で、誇り高き獅子の黄金像が君を出迎える。”よくぞ我が目を取り戻した。褒美に、我が贄となる栄誉をやろう!”』」
「魔法の銀の短剣を掲げ、浄化の左手を添える!そして告げる。”こうなることはわかっていました!戦士の誇りにかけてあなたを倒す。”」
「『戦闘開始だ!』」
それからどうなったかって?
いつものことさ。
『君はこの異世界での冒険を終えた。誇りと栄誉をもって幕を下ろそう。さぁ、あるべき世界へ帰り給え。』
万雷の拍手がファンファーレとなって君を送り出す、栄光ある未来へと。
そして僕と君は約束する。
「また明日。」って