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また明日


 「……というわけなんだ。だから織原さんが元に戻るにはこの冒険をクリアする必要があると思う。」

 「……」

 (さすがにショックだよね……できれば僕が代わりたいけど……)

 「面白いね!」

 「……はぁ?」


 ショックで打ちひしがれる彼女を想像して身構えていた僕は思わずマヌケな声を出す。


 「だって、冒険を実体験できるんだよ!どんな遊園地でも再現できない体験なんだよ!」

 「いや、でも、失敗したら……!」

 「大丈夫だよ!失敗しなければいいんだもん!」


 僅かに頬を紅潮させ、目を輝かせる彼女はすっかりやる気充分といった風情だ。

 僕は拍子抜けすると同時にひとつ思いつく。

 僕はこの冒険の翻訳者なのだ。

 どの選択をすればどんな結果になるかわかってる。

 なんだ、正解の分かってるクイズじゃないか。

 そう思って胸を撫で下ろす。


 (なるほど、それで織原さんは安心してるんだ。)

 「それじゃ、次選ぶべき選択肢だけど、熱っ?!」

 「どうしたの、結城くん?大丈夫?」

 「いや、急に本が熱く……え?」


 見れば、あの第一の注意書きが赤く輝いていた。

 『ひとつ、文章の指示には公平に従うこと。』

 その文字は明々と輝き、チリチリという耳障りな音と立てていた。

 鼻を突く焦げ臭い香り……本が燃える!?


 「話さない、正しい選択肢は教えない!」


 僕のとっさの叫びに呼応するかのように、赤熱していた文字はその矛を収め、あたりには皮の焦げた臭いが残された。


 「……ごめん織原さん。裏ワザ使えなくなっちゃった。」

 「大丈夫!」

 「でも……」

 「大丈夫だよ!二人で遊んだのはまだちゃんと覚えてるもん!最後の脱出まで行ったじゃない、だから大丈夫!」


 僕を励ますかのように、あるいは自分を鼓舞するかのように、胸を張って宣言する彼女の姿はまるで本当のヒーローのようだった。




 「『ついに君は不気味に裂けた割れ目の前に到達した!』」

 「そのまま武器を構えて、心を落ち着ける!」

 「『ズルリ、ズルリと何かが這い出る音がする…』」

 「目を閉じて集中!タイミングを掴むよ!」

 「『不意に這いずる音がやんだ!』」

 「一呼吸おいて、全力で叩き切る!」

 「『お見事!君は大地を這いずる化け物蛇を斬り殺した!』」


 織原さんは、本当に本当に見事だった。

 異変が起きるまでに繰り返し発生したイベントをことごとくクリアして、怪物たちを叩き斬っていく。

 ときおり起こる地震にも完全対応し、こゆるぎさえしないその姿は、まるでダンスを踊っているかのように美しい。

 僕は彼女の奮闘から目が離せなくなっていた。

 真剣に敵を見つめ、困難を越えていくその強さたるや、ああその強さたるや!


 「結城くん、次は?」

 「あ、ごめん……『君はようやくすべての困難を打ち破った。部屋に残された金貨を好きなだけ持って行くがいい。』……」

 (まずい、これ、罠イベントだ、それも知力基準の!)


 知力の数値と同じかそれより小さい枚数でなければ、金貨に仕込まれた毒によって死亡する。

 なんて悪辣な、罠。


 「それじゃ2枚だけ」

 「え……?」

 「今日の冒険の記念品。あたしと結城くんで一枚づつ。」

 「『その時万雷の拍手が鳴り響く。身の程を知る、それ故に君ほどの賢者はいないと。彼は心から感服し、君の知性を3点増やした。』」

 「え……つまり?」

 「『君はこの異世界での冒険を終えた。誇りと栄誉をもって幕を下ろそう。さぁ、あるべき世界へ帰り給え。』おめでとう織原さん!クリアだ、冒険クリアだよ!」


 僕の宣言と同時に万雷の拍手が鳴り響く。

 それは彼女の勝利を告げるファンファーレで、冒険の終了を告げる鐘の音であった。

 そして再び、築40年の古ぼけた我が家を衝撃とまばゆい光が満たした。

 気づけば彼女、織原綾瀬は我が家に来た時と変わらぬ姿で、立ち尽くしていた。


 「結城くん……!」

 「織原さん……!」

 「「いぃやったァーッ!!」」


 彼女の両手を握ってひとしきり騒いだ後、ようやく勝利の興奮が冷めてきた。

 そして襲ってくるのは強烈な後悔。


 「ごめん、織原さん。」

 「ん?何が?」

 「僕があの時、もっと強硬に反対していれば、こんな変な目には合わなかったのに。」

 「ううん。」


 そう言って首を振る彼女。


 「楽しかった、とっても♪」


 そう言って笑う彼女の表情は穏やかで、そしてわずかに紅潮していて、僕の胸を高鳴らせた。


 「あ、そうだこれ!」


 そう言って彼女がポケットから取り出したのは大きな金色の塊。

 ちょっと歪だけど丸くて、誰かの肖像画が描かれたそれは間違いなく金貨で、僕は思わず目を丸くした。


 「はい、これ結城くんの。」

 「ありがとう、大事にするよ。」

 「うん、じゃあまた明日。」

 「え。」

 「また明日、続きをやろうね♪」


 そう言って綺麗に笑う彼女は、今日一番の爆弾を落とし、さっそうと去っていくのだった。




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