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わかりやすくいえばそれはういじんのようなもの

石造りの一室のベッドの上で、上沢優太は目を覚ました。彼は、上半身を起こし辺りを見回すと、何度も目をぱちくりさせた。ここがどこなのか、全く見当が付いていない様子である。

髪は短髪。顔は、凛々しくも逞しくもない、人生経験が足りなそうな童顔である。垂れぎみの二重の目。輪郭は、細い。体も細い。その体に、麻で出来た布の服を纏っていた。

彼は、軽く伸びをしたあと、再びベッドに体を横たえた。もう一眠りしよう、そんな魂胆である。

「優太隊長!敵襲です!敵襲です!」

けたたましく部屋のドアを叩く音が鳴り響き、同時に男の声がドア越しに聞こえてきた。

優太はベッドから飛び起き、

「嘘でしょ?」

と小声で呟いた。

「隊長!出陣を!姫が隊を率いて出ていかれました!共和国の連中と一戦交えるおつもりです!」

ドアを叩く音と男の声が響き渡る。

優太は、これが自分の作り出した世界だと勘づいた。自分が中世風の世界で帝国軍竜騎士団隊長として、弱小国の反乱軍を討伐し、竜騎士見習いの姫を補佐していると、そう願った通りに成っていると。

「隊長!隊長!」

相も変わらず声が響いている。

優太はにやりと笑い、

「今でるぞ!出陣だ!私の金竜を用意しておけ!」

と、格好を付けた調子でいい放った。

ベッドの横に飾り付けられていた帝国軍竜騎士団の戦闘甲冑に目をやる。黄金に輝いている。胸当てと小手、そして菱形の鍬形の付いた兜。それらを手早く装着する。そして、甲冑のすぐ横に据え付けてあった黄金の鞘に納まった太刀を手に取る。

「魔刀、龍神」

彼はにやにやしながら呟いた。その太刀には、古に討伐された魔竜の魂が封印してあり、斬られた者は魂をも引き裂かれる、そんな設定にしておいたのである。まさに、思い描いた通りであると、益々彼のテンションが上がった。

その刀を素早く腰に据え付け、ドアへ駆け寄り錠を外す。すると、すぐさまドアが開き、声をあげ続けていた主がそこにいた。

竜騎士団の甲冑を身に付けており、優太より背は高い。体つきはがっしりとしており、まさに戦士と言った風体である。顔は暑苦しい濃いめの顔。表情はまさに必死である。

「隊長!昼間から呑気に寝てる場合じゃないですよ!また反乱軍です!」

イヤミ混じりに優太に報告するこの男は名をタカと言い、竜騎士団の副隊長である。帝国騎士団の中で、天空竜以外の全ての竜に騎乗することのできるまれな人物である。人柄も相まってか帝国の人々からの信頼も厚い。ただ、優太には厳しく、先程のように嫌味を言うこともある。

「小言はいいから状況を報告しろ」

優太はかっこをつけてタカに促す。

「竜舎までの道中でお話しします!」

タカはそういうと背を向けて長い螺旋の回廊をかけ降りていく。

「まてまて!」

タカを追って優太も回廊をかけ降りていく。

「状況をお話ししますと、反乱軍どもが城壁外に約1000程、夜の間に展開したようです。壁外の町が2つ、他の100程の別動隊に占領されました。恐らく、最後の攻勢を仕掛けてくるつもりでしょう。やつらは竜が夜に強いことをよく知っている。間違いなく昼に我が騎士団と相見える算段です。ここはやつらが対抗手段を持たない天空竜で一気に叩くのが得策です。」

タカが早口で捲し立てる。

「ところが姫が重竜騎士達を引き連れて、城壁外の町を奪還しに進撃してしまったのです。国民思いなのは重々承知ではありますがこのままではやつらの思う壺です。私は姫の重竜騎士隊を援護しにいきます。隊長は天空竜隊で反乱軍の本隊を叩いてください。やつらは瓦解することでしょう。」

「おまえにまかせていいんだな?」

「私は町の占領は陽動であることは間違いないと思います。ただ竜騎士対策は万全にしてあるはずです。姫の部隊だけでは対処しきれないでしょう。私が行かないと姫の身が危ない。私にお任せください。」

優太は、少々気にくわなかったがタカの言うことは間違っているようには思えなかったので、渋々従うことにした。何せ姫とは、自分が恋の対象に選んだ人物に間違いなく、姫を自分が救援に行った方が好感度が上がりそうだったからである。

螺旋の回廊が終わり、次は竜舎へと続く通路を歩く。

「タカ」

「何ですか?」

「本隊をある程度叩いたら俺も姫の救援に行く」

「隊長、お気持ちは分かりますが本隊を徹底的に叩いてください。今日をやつらの最後の抵抗にしてやるのです。」

優太は舌打ちしたあと、

「わかった」

と返事をした。

竜舎に到着し、タカが扉を開く。先へ二人が進んでいくと、右手には重竜達の檻があり、待機の重竜が一頭いるだけであった。左手は駆竜の檻で、どうやら重竜騎士隊と何頭か共に出撃したようで本来の半分の20頭程しか残っていなかった。

さらに先へ進むと、堅竜、打竜、槍竜の檻があり、騎士たちが出撃の準備を整えていた。

「あいつらは城の防備に回すのだろう?」

優太がタカに尋ねる。

「はい」

タカは一言だけ返すと立ち止まった。

「隊長、金竜は万全です。ご武運を」

いかにも頑丈そうな扉の前でタカは優太へ先に進むよう促した。

優太は頷くと扉を開け放ち、その先へと歩みを進める。すると正面には、四頭の羽のはえた竜がおり、色は赤、銀、黒、緑で、それぞれ横に騎士たちが立っていた。

「隊長!お待ちしておりました!金竜も隊長を待っておりますよ。」

赤い竜の隣の騎士が言う。

「待たせてすまんな」

優太はかっこをつけて言う。

「優太よ、はようこっちへこい。こうも待たされては飛ぶ気もなくなる。反乱軍のやつら皆殺しにしてくれる。姑息な真似をしおって。ちょっと知恵のある猿ごときが私、帝国に牙を剥こうとはな」

低く、残響するような声がどこからともなく聞こえた。優太が声の主を探そうとしたとき、並んだ竜騎士達の奥から一頭の竜が現れた。

その竜は騎士たちの横の竜の5倍程の大きさで、金色の鱗に覆われており、他の竜よりも頭部の二本のツノが大きく長い。四足の脚は石畳を踏みしめており、大きなコウモリのような翼が二翼生えていた。また、他の竜には鞍がつけられているが、この金竜にはそれがなかった。

「やつら、初めから姫を狙っておる。防備の薄い町を狙い、野戦に誘い出す。初歩の初歩だな。まんまと姫はハマってしまった。大将をとられては戦にならん。姫の救援へ行くぞ」

金竜は語気を強めてそういうと、優太に向かって歩みをすすめ、背を向けた。

「待て、金竜。城の周りの敵兵は、どうする?」

優太は高揚する心を抑えて、震える声で言った。

「何、道中で軽く叩いてやる。後は守備隊に任せておけばいい。どうせ、奴らの頭も包囲軍にはおるまい。一晩二晩では城は落ちない。士気の維持だけ気をつけるようタカヘ言っておけ」

金竜の言葉にタカが顔をしかめた。

「タカはとっとと城の周りのハエを追い払いたいようだがな」

金龍はそれを知ったか知らずか続けざまに言葉を紡いだ。

優太はため息をつくと、

「わかった。タカ、よろしく頼んだ。金竜、行くぞ」

と言い、金竜の背をよじ登る。

「隊長!待ってください!我が隊も行きます。姫が心配でなりません!」

タカが早口で言ったが、おかまいなしに優太は金竜にまたがると

「ここは金竜の言う通りにしておけ。こうしてる間にも姫は孤軍奮闘している。お前だから任せられるんだ。姫がやられてしまっては、国が成り立つまい。頼む」

威風堂々と、決め気味に言った。

続けて金竜が言う。

「奴らが、なぜ今日ここに来たか?姫が亡き父に変わり女王となる前日だからであろう。賭けに出ておるのだ。奴らにも後がない。絶大な求心力のある姫が即位してからでは、大義も立つまい?これは王位の争いなのだからな」

タカは俯いていたが、顔をゆっくりあげて、

「ならば隊長、金竜、姫をよろしく頼みますぞ。準備は良いですな?」

と、やや声を震わせながら言った。

優太はニヤリと笑って、

「もちろんだ!行くぞ金竜!敵陣突破からの姫救援だ!」

と腰に据付けた剣を高く掲げた。これに金竜が、

「あまり調子に乗って私から落ちるなよ。お前より姫を優先させてもらうからな」

と4枚の翼をゆっくりと羽ばたかせながら応じた。すると、すぐさま天空竜騎士達が自らの竜へ騎乗し、各々の竜は2枚の翼を羽ばたかせ始めた。

「本当に頼みますよ隊長。よし!竜門開門!離陸準備だ!」

タカが雄々しく言うと、タカと金竜の眼前の壁がゆっくりと下がっていった。徐々に陽光が差し込んでくる。雲と青い空が広がっていた。

「各天空竜騎士隊、離陸準備は良いか!」

金龍が言うと、

「ハッ!」

と竜騎士隊は答えた。

「優太、出撃はお前が命令をだせ。お前の隊だ。戦闘指示も頼むぞ」

金竜はさらに翼を強く羽ばたかせて優太へ言う。優太は、生唾をゴクリと飲み込み、剣を開けた空へ向け、

「よし、城外周を索敵し、攻城兵器を破壊、敵の本陣を攻撃、離脱後南の街の姫を救援する。救出後、街へ陣を張る。外周の奴らを挟撃だ。守備隊長はタカだ。よく守られたし!」

優太は息継ぎなしに一気に言った。

「承知!御武運を!」

タカは優太に答えると低くしゃがんだ。優太が、剣を空へ向けて振りかざし、

「出撃!」

と気勢を上げた。

金竜が翼を下方に羽ばたかせ風切音がさらに大きくなると、その巨体は石畳の床を離れ徐々に浮いて行った。

そして耳をつんざくような咆哮をあげ、開けた空へ向かってゆっくりと向かっていく。それに同調したかのように、他の天空竜達も咆哮をあげて身体を浮かせた。

金竜は竜舎の外へ出ると、渾身の力で羽ばたき、一気に空へと上昇して行った。

それに天空竜たちも続いて飛び立って行った。

タカは、優太たちを見届けると、

「隊長は大丈夫であろうか?良いところ見せようとして失敗しなければ良いんだが」

とため息まじりに呟いた。




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