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ある皇太子の逡巡  作者: ねぎまんぢう
第1章 0~10歳編
5/27

第5話 ある皇太子の深淵







ねんがんの まほうを てにいれたぞ!






 ふーん きょうみないね

 たのむ!ゆずってくれ

>なんとしてでも ものにする













よくわからないうちに魔法の実践のお許しが出た。


まず、座学で先行して学んだことを掻い摘んでおさらいしよう。




1.何をおいてもまずは集中!

2.呪文はあってもなくてもいい

3.自分が出したい魔法をイメージする イメージは強ければ強いほどいい

4.目標をしっかり視認する

5.ト キ ハ ナ ツ!




…内心ではこんなまとめ方をしているとネクサス先生に知られたら、先生はきっと泣くな。


魔導理論は習ったが、中学高校の試験や受験を経験していると、どうしてもテストに出そうな要点だけ抑える癖がついてしまうな。



しかし、呪文はあってもなくてもいいというのは非常に助かる。

いかにも中二病丸出しな、絶対そんな風に読まないだろ!的なルビのふられたこっ恥ずかしい呪文を口にしなくて良いのだから。

精神衛生上、とてもよい。

それにあんなもの叫んでいたら相手に手の内が読まれるし、こっそり相手から隠れて使えない。

なのに、先生ときたら


「イメージの助けになる場合が多いので、唱えられる状況ならじゃんじゃん唱えましょう」


なんて言っていた。


分かってないな~先生! いや、異世界の人々!

技名を叫びながら技を繰り出すプロレスラーがいるか?

あれは解説屋さんのお仕事だ。餅は餅屋。素人がむやみに手を出すべきものではない。


でもなにか制約がないと悪用し放題じゃね?とか思うが。

1.の集中!がなかなかに厄介なのだ。


まずとっさには出せない。

ゲームなんかだと、詠唱時間という予備動作が必要になったりするが、まさにそれ。

集中時間という予備動作を求められるのだ。

大がかりな魔法では数十分必要なものもあるそうだ。


集中が途切れてもいけない。

集中中(しゅうちゅうちゅう)(変な言い回しだな)に何かに気を取られると、魔法は霧消してしまう。ファンブルというやつだ。

つまり、個人の性格で、落ち着いてるやつは向いてる、せわしない奴は向いてない、と適性が出てしまうのだ。



魔力量にも個人差があり、これは一種の才能といえるだろう。

一般の人は実用的な魔法を自力で発現できるほど魔力がない。

使えたとしても手をじんわり湿らせたり(手汗のように)、微風をおこしてスカートめくりするくらいしか出来ない。

だから、魔石を使うのだ。

魔石屋さんで魔力注入してもらい、使用する。

発動のオンオフぐらいなら、少ない魔力でも事足りるのだ。



魔力量の多い、才能がある人は国の魔導師団に入って魔導師になったり、街の魔導具組合に入って魔導具職人になったり、魔石屋さんになったりするのだ。

面白いのは魔力注入の行商がいるところだな。

彼らも魔石屋さんの一業種なのだが、街中では


「魔力注入~ 魔力注入はいらんかねぇ~ どんな魔石でも一定料金だよ~」


「魔石屋さーん! 一つお願いできるかしら?」


「へい!まいどぉ!」


なんてやり取りが日常である。まるでマグネタイト売りだな。



さすがに魔導師団員ともなればエリートだが、それ以外の魔法業者たちは才能があるからと言って特別扱いされるわけではない。

暗算が得意なやつ、とか、カラオケがうまい奴、とかと同じくらいの扱いだ。





ちなみに『魔導』というのはオフィシャルな、というニュアンスがある。

魔導師=国に仕官している 魔導具職人=組合からのライセンスがある

といった感じだ。


国や自治体に属してない魔法を放つやつは総じて外法使いとか、外術使いと呼ばれる。

ちょっとアウトローでダーティなイメージだ。実際、野盗とかやってることが多い。

ライセンスのない職人は、モグリと呼ばれて、うさんくさいイメージがあるな。


こうした魔法関係を生業としている人たちの総称が魔術士、魔法使い、というわけだ。


ちなみに私の魔力量は先生のお墨付き。十分に魔法が発現できるらしい。

その話をしたときに先生の顔が引き攣っていたように見えたのが気になるが。












△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽











「では、いよいよ魔法の実践に挑みましょう」



先生に連れられて、宮廷魔導師団の本拠地・夏砦内の訓練場へやってきた。

砲撃訓練場のような印象だな。

馬場のようなむき出しの土が広がり、建物の遠くのほうに盛り土がしてある。

そのさらに遠くに石造りの城壁が見えるが…霞んで見えるぞ。

今更だが、宮廷は広いな…。




「では、まずは殿下に宿った属性を調べましょう」


その人に宿る属性はほぼ先天的に決まる。

血筋とか、生まれた時の星とかで決まるわけではない。

完全にランダムだというのがこの世界での常識。

常識過ぎて、誰も研究したことはないらしい。この世界にメンデル先生はいないようだ。


大怪我をして昏睡状態に陥り、数週間後に奇跡的に回復すると、属性が変わっていたという事例が一つだけあるらしいが。



「では、あの盛り土のほうに向いてください。そうです。そのまま体の力を抜いて…自然体で立ってください」


先生の指示通りに立つ。

今日はピーカンに晴れているな。初夏の風は緑の匂いをはらんでいる。


「気持ちを落ち着けて…深呼吸しましょう。そうそう。ではそのまま目を瞑って、目の前にもう一人の自分がいることをイメージして…殿下が見ているもう一人の自分と、もう一人の自分が見ている殿下を思い描いてください」


瞑想…か。


「先生…ハンニャシンギョウを唱えてもいいですか?」


数瞬、先生は沈黙した。

目を瞑っているから、どういう顔をしているかはわからない。


「それは無しにしましょう。そのまま集中してください」


残念だ。











しばらくそうしていると、私とイメージ上のもう一人の自分との間に、なにかを感じる。

何かモヤモヤした感じの…いや違うな。これは…水面か?

揺らぐ水面のようなイメージが湧いてきた。


ということは、私は水属性…かな?




イメージが水面だと認識すると、水面はゆっくりと上昇して…。

そうか、これは水の中から水面を眺めているのだな。


そう認識すると、体も軽く感じてきた。

水中にゆらゆらと揺蕩(たゆた)って…







「こ、これは…!?」


バシャァァァァァ!!



先生の驚嘆の声に気を取られ、集中を途切れさせてしまうと突然頭上から水をかけられた。

目を開けると…全身ずぶ濡れ。

服の裾からはピチャッ…ピチャッ…と水滴が滴って、足元には結構な大きさの水たまりができていた。





「先生、私は水属性で…ッッ!?」


喋った瞬間、水が口に入ってきた。頭からずぶ濡れなんだから当然だな。


「しょっぱ!塩辛い!?  く、臭ッ! 生臭ッ!?」


いや…? この味、この匂い。覚えがあるぞ。

海の匂い!特にこれはタイドプール、つまり磯の匂いだ!


本来、海水には匂いはない。

しかし、水温や地形の関係で生き物の死骸が残って腐ったり、生えている海藻や生息している植物性プランクトンが匂い成分を出す種類だと匂いが発生する。

それが俗にいう海の匂いだ。












「殿下に宿っているのは…『海』属性のようですね」










ネクサス先生は噛み締めるように、ゆっくりとそう告げた。

なんだ海属性って。

異世界転生者の魔法属性って雷とか、氷とか、ちょい珍しいやつなんじゃないのか?

もしくは、四大属性のいくつかで、複数属性なんてスゲー!ってなるんじゃないのか?



「先生、海属性とは…一般的なものなのですか?」


「いや…。私の知る限り聞いたことないですね」


え。

126歳で、魔法に詳しいエルフで、国の魔導師のトップである先生が知らないって…。

レアどころかスーパーレア?むしろ超マイナー?あ、ユニーク?



「とりあえず、新種のようですから…色々試してみるしかなさそうですね」


新種!?先生今、新種って言った!?珍獣あつかい!?





先生は訓練場の盛り土よりずっと手前、ここから10メートルくらいの先に実験用の的を設置した。

案山子のような、木人(ぼくじん)のような形をしている。

用意している様子がなんだか楽しそうだったが…変なスイッチが入ったんじゃなかろうか。


先生が的を用意している間、砦の建物側に控えていた衛兵から「お召し替えを」と促されたが、めんどくさいので断った。

ここから後宮まで戻るのは大変めんどくさい。宮廷広すぎ。

今日は晴天だから、ほっときゃ乾くだろ、と思っていたが、乾いたら乾いたでカピカピして気持ち悪い。

横着せずに着替えるべきだったか?いや、また濡れるかもしれないしな。





「では、先ほどの要領で魔法を発現してみましょう。あの的に向かって、魔法でアレを壊すイメージを練ってください」


ぬう。さっきの感覚で魔法の発現はなんとなくわかったが、壊すイメージとな?

海の力で的を壊す?

荒波で揉み壊す…は、範囲広すぎか。鉄砲水…は川か。


海…壊す…海で、壊す…海で、破壊?…海の、破壊…?


なんとなくシャチがイメージされてきた。

海の壊し屋というところか。シャチは集団で獲物をいたぶるというしな。





的にシャチが突撃していくところを思い描いて…。

あとは集中!集中集中!




すると、私の眼前の空間が水面のように揺らめきだし、そこから一頭のシャチが雄々しく飛び出して…!









ベシャァ!   




びたん!びたん!びたんびたん!




「………」


「………」







地面の上でのた打ち回っている。








そりゃそうだ。

海の生き物を地上に出せば当然こうなる。


「どうやらこれは…召喚魔法のようですね」


「先生、召喚魔法とは?」


「祀られているような強力な精霊には、たいてい眷属がいます。風の精霊様ならフェアリー、土の精霊様ならノームのような。その眷属を呼び出し、助力をしてもらうのが召喚魔法です。効果は呼び出す眷属によって異なりますから一概には言えませんが…」


「精霊様の眷属が、そんなに簡単に人に従うものなのですか?」


「召喚された時点で、眷属は召喚者を助ける気持ちをもっているのです。逆に助ける気がなければ召喚に応じません。精霊様も眷属も基本お人よしですから、頼まれればそうそう嫌とは言いませんよ」


お人よしって…。精霊様って意外と人間臭いな。


「召喚魔法は珍しいのですか?授業では出てきませんでしたが」


「確かにちょっと珍しいですが、使用者がいないわけではありません。魔導師団にも何人かいますよ。授業でも来年か再来年あたりに出そうと思っていましたが、殿下が使用できるなら、すこし前倒ししましょう」


ふむ。他の召喚術士がいるのか。見てみたいな。

参考になるかどうかはわからんな…なんせ私のは海属性の召喚魔法だし。

  








「キュィュ~…」



いかん!

先生と魔法談義をしていたら、召喚しっぱなしだったシャチがぐったりしてきた!


「だ、大丈夫かシャチよ!? そ、送還送還!」


シャチの目が『殿の御為ならば此の命、何も惜しくはありませぬ。如何様にもしてくだされ』的な愁いを帯び始めていたので、慌てて送還した。


うろたえていたからどうかと思ったが、送還には集中は特にいらないようだ。よかった。









海属性、使えないな…。

海の生き物召喚は地上では役に立たず、他は海水を出すだけ。

津波や渦潮なぞ、地上で発現させるのにどれだけ魔力を消費することか。

それに、海水は水よりも凍りにくいから、攻撃にも使いにくい。

せめて、空中に保持することができれば、窒息攻撃にでも使えるのだが。

あ、それは水属性でも同じか。


いや、ここで諦めるわけにはいかん。

殺してでも…じゃなかった、何としてでもモノにすると誓ったのだから。



「先生、どうにかなりませんか…?」



先生は手を顎に当ててしばらく「うーん…」と唸っていたが、有効な考えは浮かばないようだ。



「水属性の召喚魔法はどのようなものなのですか?」


さっき参考にならなさそうとか思ったが、水属性なら、海属性に近いんじゃないか?



「水精オンディーヌや、巨大な亀、水蛇ヒドラなどを召喚しますね」



「ヒドラ?それはどのような?」


オンディーヌってウンディーネのことだっけか。なんとなくイメージはつく。

でもヒドラは聞いたことないな。なんか前世の理科の授業で聞いたような…。



「霧深い水辺にすむ多頭の蛇ですね。エルフ大森林にもいますよ。年老いた力のあるヒドラは自ら霧を発生させる力を持つとか」


それってモンスターか…?流石はファンタジー世界。やっぱりいるんだ、魔物。




しかし霧か…。何かに応用できないだろうか。

霧…海…。海中の霧…?マリンスノー?違うな…。


じゃあ海上の霧…?霧に満たされた海…サルガッソー海?幽霊船…。

霧の中を進む幽霊船…霧の中の船?



その時、天啓が降りた。

前世で読んだSF小説では、空中戦艦を浮かせる技術として、空中に力場を発生させ、それを海に見立てて浮力を得ていた。

前世ではSFだったが…この世界には空中に力場を発生させるような力がある!




「先生、魔力を海として、召喚されたものを浮かせたらどうでしょう?」


「魔力を海とする?海水を召喚するのではなく?」


「海水では、空中に保持することができません。ですが、魔法を発現させる前の魔力なら空中に浮かせておけます。私の魔力なら、海属性を帯びさせることができるので、それを仮の海とするのです」


「魔力を魔法に変えずに使用する、ですか…斬新な考えですね。面白い!実験してみましょう!」


先生が変なスイッチ入ってて良かった。







今度は、まず海をイメージする。

しかし、あまりはっきりイメージしすぎると、海水が召喚されてしまう。

あくまでイメージは、『海の性質を帯びた空気』。


そして、召喚するのは…。


さっき召喚したシャチには悪いことをしたしな。なまじ知能が高いだけに、罪悪感が半端なかった。

同じ個体が召喚されるのかどうかは不明だが…今度は違うものをイメージしよう。





何かあっても大丈夫なように頑丈な、陸上に出ても即死しない、的を破壊できるモノ…。





…ホオジロザメ!





イメージすると同時に、召喚陣(召喚水面?)から4m超の大きなホオジロザメが出現し、体をうねらせながら的へ突進していった。


「大きいですね…!」


先生が驚嘆の声を上げた。

いや先生、さっきのシャチのほうが大きかったですよ?

あの醜態のせいで、威容は帳消しになってしまったが…。

シャチはアザラシなどを狩るとき、勢い余って地上に乗り上げて戻れなくなることがあるという話を聞いたことがあるが…まさにそんな感じだったしな。





怒涛の勢いのままホオジロザメは的へ迫り、噛みついた。

今の今まで初夏の日差しの下、文句ひとつ言わずに待っていた木人(ぼくじん)くんはバギャァァァァ!と大きな音を立てて哀れ粉々に。



その勢いのままにホオジロザメはくるりと体を半回転させ、こちらを一瞥(いちべつ)した。

その目は『行きがけの駄賃だ。とっとけェ』と言っている、ような気がした。

そして、まるで自分の役目は終わったというように、自ら送還され、消えていった。


送還は被召喚者の意思でもできるのか。

テンプレ的勇者召喚と違って人道的だな。



「意外にあっさり成功しましたね、先生」


「そうですねぇ。もっと試行錯誤が必要かと思いましたが…。しかし、魔力そのものに属性を帯びさせて、召喚対象に有利な状況を作り出す、ですか。これは他の属性にも応用が利きそうですね」


そうか、先生に言われて気づいたが、海属性でできたのだから、水属性や他の属性にもできるということか。

これ、結構問題だぞ。魔力属性を書き換えられたら私の召喚対象が甚大な被害を被る可能性が高い。

火属性や土属性のフィールドでは地面に叩き付けられてしまうだろうし、水属性で淡水にされてもまずい。

なにか対策をしておくべきだな。


「ですが、あの距離まで魔力で満たすのは消費魔力が大きいのでは?」


「それはですね、召喚対象の周りにだけ魔力フィールドを展開させているからです。これならばよほど大きいものを召喚しない限りは魔力を節約できます」


先生は成程成程、魔力フィールド…とつぶやいてしきりに頷いている。

この手法の名前は『魔力フィールド』で決定だな。

おお、図らずも新手法のパイオニアになってしまったな。


ちなみに、魔力は枯渇しても何かが起こるわけではない。

ただ、魔法が発動できなくなるだけだ。お約束的な魔力が尽きて気絶、なんてことはない。

使った魔力は精神を落ち着けた状態で休憩すれば自然と回復する。宿屋に泊れば満タン、というわけだ。








さて、実験を続けよう。


サメやシャチ召喚で攻撃手段は確保できた。

ならば次は防御だ。

皇太子である私は、いつ暗殺や襲撃、誘拐にあうか分かったものではない。

攻撃手段はあるに越したことはないが、防御のほうが大事だ。

防御して時間を稼げば護衛が駆けつけ、私の勝ちとなるだろう。



私はまず自身を海属性フィールドで包み込み、そこに『あるモノ』を何体か召喚した。

複数同時召喚は可能、と。

しかし、これは怖いな!見えにくいから怖さ倍増…いや乗増だな。

サメにしたように、動きに合わせてフィールドもついて行かせて…。


召喚したソレに取り囲まれながら、ゆっくりと歩き回ってみる。

よし、いいぞ…アレの触手がなびいて私のほうに迫る様子もない。


ものすごく怖いが、実験は成功だ。心臓に悪いが、わが命を守るため、背に腹は代えられまい。



「これは海月(くらげ)…ですか?」


「ダダダダダメです先生!それに触れてはいけません!近づかないで!」



先生は私の大声に驚いて、近づこうとしていた足を止めた。

しまった失敗したな。先生に伝えてから実験するべきだった。


私が召喚したのは…『オーストラリアウンバチクラゲ』。



「そ、それは何なのです?」


「これは…殺人(キラー)海月(くらげ)。触れると…死にます。超猛毒があるので」


「死ッ!?」


「よく目を凝らして見てみてください。とても細くてとても長ーい触手が見えますか?それに触れると死にます」


「うぇぇぇっ!?」


先生は奇声を上げながら一歩後ずさった。

まぁ、こんな細いものに触れたら死ぬってかなり恐ろしいから無理もない。



「よくそんな恐ろしいものに囲まれて平気ですね…?」


「いえ、内心ものすごく怖いです」


「言われてみればすごい汗ですね。平気ですか?」


そう、実はさっきから恐怖で冷や汗が止まらないのだ。

アンダーシャツはもうびっしょり。さっき着替えなくて正解だったな。


恐怖のまなざしで殺人(キラー)海月(くらげ)たちをちらりと見やると、


『なにを申されますか!』『我ら海蜂同心』『目も耳も』『脳も心臓も』『ございませんが!』『それでも!』『殿を傷つけるような』『マネは』『いたしません!』『我ら海蜂同心!』『心は常にひとつ!』『それゆえ!』『殿への忠心も』『唯一無二!』『殿の御身は』『我らが!』『命に代えても』『お守りする所存!』『どうか!』『どうか我ら海蜂同心に』『身をお(ゆだ)ねくださいませ!』


と言っている気がするが、あくまで気がするだけだ。触れるわけがない。


















オーストラリアウンバチクラゲにご退場願って、恐怖の時間が終了。

ここらで小休止を取ることにした。




さすがに汗をかきすぎたので、控えていた衛兵に水を持ってきてもらった。

勢いよく飲み干すと、冷たい水が身に沁みわたる。あー、うまい。


ご丁寧に氷まで入っている。

すぐ後ろが魔道師団詰所だから、きっと水属性魔導師が出してくれたんだな。



氷をかじって空になったガラスのコップを衛兵に返すと、皿に乗せたひとかけらの塩を差し出してきた。

さすが宮廷の衛兵、気が利くな。口に放り込んでころころと舌で転がす。


あー、しょっぱい。

これは岩塩だな。海からとった塩ではない。

内海の周辺では塩田式の製塩が盛んに行われているが、北の属州では岩塩が採れるので、内陸部ではそれが流通している。

きっとこれも属州産の最高級岩塩なのだろうな。皇太子だし。


ちなみに先生はこの間、後ろの魔道師団の建物に戻って、先ほどの実験結果を書き留めている。

新たな魔力利用法が生み出されたのだ。今日作った資料も研究の礎の一つになるのだろう。













休憩を切り上げ、実験を再開する。


攻撃、防御の(すべ)は目途が立ったので、次は海属性における魔力フィールドの汎用性の実験だ。

小難しくいってみたが、要は実用的な召喚のできる範囲を調べようと思うのだ。


海面のクラゲと海中のサメ・シャチの召喚には成功した。

ならば次は、あそこだな。





イメージは暗く、重い海水。下はマリンスノーの降り積もった泥土。

細かにイメージするが、イメージの固めすぎで海水召喚にならないよう、すれすれのところを思い描く。

そして、召喚するのは…






「げええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「うぇぇぇっ!?」



なんじゃこりゃあ!

驚いて変な声が出てしまった。先生も驚いているが、半分は私のリアクションに驚いているな。





イメージしたのはかの有名なダイオウグソクムシ。

深海にすむ大きなダンゴムシの仲間だ。



召喚されたのは、確かにダイオウグソクムシだ。

半球の甲殻、わしゃわしゃした足、マットなベージュ色。間違いない。前世の水族館で見たままだ。







でも…サイズが違いすぎる!


でかい!でかすぎる!風が語りかけます…。




全長5メートルほど…ワゴン車ぐらいあるぞ!


のそのそと召喚陣から現れたダイオウグソクムシは180度ターンして私の前にかしずくようにその身を沈めた。


頭をぺそぺそと叩くようになでてやるが…某王の蟲かよ!って感じだ。

これじゃあダイオウっていうよりダイマオウだよ…。


魔法実験がうまくいきすぎて失念していた…。

ここは異世界なのだった。前世の世界と同じ生態系とは限らんのだ。

先ほどのシャチもホオジロザメもオーストラリアウンバチクラゲも、見た目そっくりだからといって同じ生物とは言い切れない。解剖したわけでもDNA鑑定したわけでもないのだから。




でもまぁ、深海をイメージして召喚されたのだから、深海生物なのだろう。

姿形が似ているのは…進化の収斂としか仮説が立てられないな。




ひとしきりダイマオウグソクムシをなでまわしたり上に乗ってみたりした後、送還した。

ちなみに、乗り心地はあまり良くなかった…甲殻が思いのほかざらついていて、直に肌に触れたら擦り剥いてしまうおそれがあるのだ。


















実験が一通り終わると、ちょうど十ノ鐘が聞こえてきた。

午後3時だ。結構いい時間になってしまったな。


先生と今日の実験の総括をしていると、不意にこんなことを聞かれてしまった。


「しかし殿下は海の生き物に大変お詳しいですね。どこからその知識を得られたのですか?」



まぁ…当然の疑問だわなぁ。なんと答えたものか。

シャチやサメはいいとして、先生のリアクションから殺人(キラー)海月(くらげ)は帝国では知られていないようだし。おそらく生息域ではないのだろう。

ダイオウグソクムシは言わずもがなだ。この世界で深海探査が行われているとは思えない。



前世の記憶もアカシックレコードもばらしていいものか…正気を疑われたりしないか?

先生を信用していないわけではないが、どこから話が漏れるかわからん。

正気を疑われなくとも、私は英雄の息子なのだ。逆にその知識をもてはやされるかもしれん。

その英知で民を導いてくれとか言われたらたまったものではない。


「それはですね…えーと」


むう。いい考えが思いつかん。万事休すか。



私が答えあぐねていると、がちゃがちゃと鎧を鳴らして衛兵がやってきた。



「殿下!皇帝陛下がお呼びです! 至急とのことですので、お急ぎください!」




宮廷の衛兵は本当に気が利くなぁ。


















△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
















1時間後、私は馬車に揺られていた。

あのあと着替えて父上に謁見すると、帝都の港湾へ向かうことを指示されたのだ。

詳細は現地でということになったのだが、なにやら指示した父上ご自身が戸惑っておられたように見えた。厄介事でなければいいのだが。



馬車の乗り心地はとても良い。

テンプレ的な「尻が痛い!」なんてことは少ない。ないとは言わんが。

なんでも、風魔石を使ったエアーサスペンションのようなものがついているらしい。

形式はいわゆるリムジン。車体の長い自動車を連想するが、あれ、元々は馬車の形式なのだそうだ。


しかも、皇室の御用馬車なので、道行く人々や馬車は道を開けてくれる。

減速や停車することなくスイスイ進む。まぁ周りを衛兵たちががっちり固めているので、近寄り難いせいでもあるがな。


ちなみに先生は一足先に馬で向かった。

目的地に先乗りし、安全を確保するためだ。







客室の窓のカーテンを開き、過ぎ行く街並みを眺める。

そういえば、宮廷の外へ出るのは初めてじゃないか?

前世の記憶はあるし、先生の授業でも社会のようなものがあったから、民草の生活を聞き知っていたせいもあって、そんなに感動はないな。





…テレビは無い。ラジオも無い。車は馬車しか走ってない。

吟遊詩人はいる。バー…というか、酒場はある。

衛兵毎日ぐーるぐる。


まぁ、魚介類はうまいし、気候もいい。

旧都のほうではサトウキビがとれるので甘味もある。

こんな国はイヤだといったらバチが当たるな。



往年の名曲を口ずさみながら、建物を観察する。

ファンタジー世界だから、石と木の建物ばかりかと思いきや、そうではない。

確かに、石造りの建物や木の屋台などもあるが、コンクリート造りの建物もある。

石造りの建物にも、しっかりモルタルが使われている。

2階建て、3階建ての建物もある。さすがにビルと呼べるものはないが、なかなか立派な街並みだ。

世界に冠たる大帝国の帝都だからというのもあるのだろうが。


建物はガラス窓が大きくとってあり、夕日を反射して赤く輝いている。

前世現代の南仏の街並みと言っても通るであろう、美しい街並みだ。

まぁ、港湾から宮廷に至る道は目抜き通りで商店も大店(おおだな)が多い。路地裏に入ればまた事情も変わってくるだろうが。

街灯も立派なものがある。光魔石を使ったものだ。宮廷内のものと比べれば品質は下なので光量は劣るが、それでも夜は暗闇に包まれるということはないだろう。



街ゆく人々はにぎわっている。

服装は清潔だし、笑顔だ。今は珍しい御用馬車をなんだなんだ?といった風に注目しているが。



思うに、この世界の技術発展はいびつに見える。

いや、語弊があるな。前世の発展の仕方がすべて正解なわけではないのだからな。



技術力が未熟なのに、それに見合わない製品が多数ある。

透明度の高いガラスしかり、街灯照明しかり、コンクリート建築物しかり。


おしなべてそれらはすべて、魔法の力による恩恵だ。

火属性の魔法のおかげで高温の炉が造れるので、ガラス工芸が盛ん。

土属性の魔法のおかげでローマンコンクリートやモルタルで強く高い建築物が造れる。

水属性の魔法のおかげで夏に冷たい水が飲める。

風属性の魔法のおかげで馬車の性能が良く、交通網が強い。

光属性の魔法のおかげで夜闇を恐れすぎることはない。

治癒魔法のおかげで寿命もそこそこ長い。



これはこれで、この世界の発展の仕方なのだろう。

しかし、前世の記憶を持つ私から見れば、また違ってくる。


なまじ魔法で問題を直接解決できるが故、製品や魔法を工夫して使う発想に乏しいのだ。


だが、物理法則が存在する世界ならば、科学技術は通用する。

魔法の力を科学の工夫でより大きく発展させる可能性を秘めているのだ。





この世界は、『魔導技術』が花開く素地がある。





魔科学、魔導科学と言い換えてもいい。魔法の力を科学の技術によって使うのだ。


私の前世がエンジニアではなかったことが悔やまれる。

しかし、私にはせっかくアカシックレコードというチートがあるのだ。

素人なりに頑張ってみようと思う。







全ては、私の生活向上のために。










△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽












港湾地区に到着すると、あたりは異様な雰囲気に包まれていた。

本来なら船乗りたちや荷運びの人足たちでにぎわっているであろう広場は閑散としている。

しかし、人がいないわけではない。

皆、倉庫の壁際や陰のほうから船着き場の様子をうかがっているのだ。


皆の視線の先には数十人の集団がいた。

肌は灰色に近いほど白く、肩や手など体の一部分に青みがさしている。

総じて上半身は裸だ。下は腰巻のようなものを穿いている。

髪色は暗いものや明るいものはあるが、一様に白に近い銀だ。

首の両横には赤い筋が何本か見えるな。あれが鰓にあたるのかな?


はじめて見るが…おそらくあれがシーレーン族。







シーレーン族の集団のほど近くに先生がいるのが見えた。

手招きをしている。おそらくはこの馬車の御者を呼んでいるのだろう。


予想通り馬車は先生の近くに着けた。





「先生、いったい何があったのです?」


私は馬車から降りたが、シーレーン族のお歴々がノーリアクションだったので、先生に問いかけた。


「ええ…。少しお話を伺ったのですが、彼らは殿下に用事があるようなのです」


「私に…ですか?」


なんだろう?今までシーレーン族とは何のつながりもなかったが。

父上にではなく、まだ5歳の私に用事とは…?


「はい。海属性の者への面会を求められておられるので」


なんと。それで私か。

…ん?そういえばなぜ私が海属性だと父上は知っておられたのだ?

戸惑いながらも私を派遣したということは、私が海属性だと知っていたはず。

しかし、私が海属性だと判明したのは今日のお昼過ぎ。

…ううむ、謎だ。




ともかく、私は代表格らしい、集団の先頭にいる御仁の前に出た。


「お初にお目にかかる。私が当代皇帝が第1子、ネレウスである。よしなに」


ドザッ!!


うぉう!びっくりした!

私が挨拶するや否や、数十人いるシーレーン族たちが一斉にひざまずいた。

今まで上のほうにあった顔が一気に私の視線の高さまで来た。

首が疲れなくて助かるが。


「知らぬとはいえ、皇太子殿下を呼びつけてしまった無礼、平に、平にご容赦を」


「う、うむ。赦す。して、早速ではあるが御用向きを伺ってよろしいか?」


「寛大なご処置、誠に感謝いたしまする。我らシーレーン族近衛団、女王陛下の下命により、海の大精霊様のご加護を受けた者を探すため罷り越してございます」


海の大精霊の加護?

それはもしかしなくても、海属性持ちということだよな。


「本日正午過ぎ頃、海の大精霊様の(かんなぎ)でもあられる我らが女王陛下が帝都の方角にて大きな力を感知なされました。女王陛下はそれを海の大精霊様ゆかりのものが現れたのだと判断され、すぐさま近衛団を遣わされたのです」


シーレーン族の国って前世のキューバ島のあたりだったな。

そこから4~5時間で帝都までやってくるとは。

シーレーン族の交通手段は分からないが、かなりの速度だ。シーレーン族が内海制覇のカギを握っているという話も納得だな。


「大精霊様の加護持ちを如何にするつもりであったのだ?」


「はっ。海の大精霊様は非常に厳しい存在であられ、特定の者に加護を与えることは本来ありません。その加護を受けた者は大精霊様の御子も同然。我らシーレーン族は最大限の敬意を払わねばなりません。その者が困難にあるならば助け、大志あるものならば忠節をもって仕えよというのが女王陛下の御意志にございます」



む。話がなんだかおかしな方向に。



「人品骨柄の卑しからざる皇太子殿下にならば、我らが忠節、捧げることに何の憂いもございませぬ!本来ならば女王陛下御自ら臣下の礼を取るのが筋ですが…女王陛下は只今身重であらせられますがゆえ…」



ふむ。このシーレーン族の御仁、なんだかノリノリだな。

ああ…親の七光りか。救国の英雄の息子に仕える価値を見出しているのか。

英雄の息子が傑物とは限らんだろうに。



「殿下!我らがシーレーン族、ネレウス皇太子殿下に忠誠を誓いまする!」












































「だが断る」






















「「「えええええええーーーーーーーー!!!!」」」


ビクウゥゥ!

びびびびびびっくりした!

ギャラリーの皆様方、いつの間にこんなに近くまで!?

倉庫の陰に隠れていたんじゃなかったのか?


シーレーン族のお歴々も垂れていた頭をあげて驚愕の面持ちでこちらを見ている。



「な!なぜなのです殿下!?」


代表の御仁もさっきまで厳めしかった顔を崩しておられる。

そりゃあせっかくのキメシーンを無碍にされたらこうなるか。

心なしか鰓がパクパク動いている。




なぜか、だと?

そんなもの、いらないからに決まっている!


今の帝国は政治が安定しているから忘れがちだが、ここは剣と魔法のファンタジー世界なのだ。

そんな中での忠誠など、当然命のやり取りが含まれる。

自分の目の前にそんな重たーい現実はいらんのだ!

忠誠を捧げられる=戦争勃発フラグだ!


テンプレ的にはあれだろ?初めて人を殺めて、ゲロ吐いたり、逆に動揺してなくてショック受けたりするやつだろ?

私はゲロ吐きたくないし、鬱展開も大嫌いだ!


もしそんな展開が向こうからやってきたとしても、私は皇太子。

国家権力さんたちにお願いして、私の見てないところでそーっと片づけてもらうのだ。

だから、忠誠は私個人ではなく、国家に向けていただきたい。



それに、私は皇位などいらんのだ。

シーレーン族は帝国の黎明期から国家のために尽力してきた有力な一族。

そんな一族の後ろ盾を得てしまっては着実に皇位への道の第一歩だ。




「なぜか、だと? 私はまだ5歳。そなたらの忠誠を受ける器ではない」


しかし私は空気の読める良いお子様。

ここは遠回しな表現でやんわりとお断りするのだ。

相手は先方の国家元首の勅使。良い印象のままお帰りいただこう。


「私はまだ幼い。まだ何も成してはおらぬ。なにも得ておらぬ。そなたらの忠心に答えられるだけのものを持ち合わせていない」


「そんな!見返りなぞ何も求めておりませぬ!海の御子であられる殿下にお仕えできることこそが何よりの栄誉なのです!」


まずは理を唱える。私が感情でものを言っているのではないと示すためだ。

そして次は強めに出て相手の主張を挫く。


「ならぬ!無償の忠誠などあってはならぬのだ!主君ヘの恩があってこそ、臣下の奉公の真価が現れる。無償の忠誠など、それではまるで幼子を守る親の心。美しくはあるが、子はいつか巣立つもの…長く続くものではない」


鎌倉幕府も豊臣政権も、恩を出せなくなったあたりから屋台骨が揺らいだのだ。

そうしてたまった不満が足利尊氏や徳川家康の台頭を招いた。


強く出た後は、語尾に悲しげなニュアンスを込め、私への反感をそらす。

私もあなたが憎くて言っているわけではないんですよ~的な。


「御恩…」


ククク…すこしへこんだかな?

この御仁、国では結構な地位っぽいが、いかにもお堅い武人的な印象だな。

舌戦などあまりしないのだろう。ここはつけ入る隙だな。

しかし、相手は社会的地位のある大人。猶予を与えて立ち直らせるわけにはいかない。


「だがもし…私が成長した後、私が何か成した後、その時にまだその気持ちがあるのなら…」


将来には可能性があるように匂わす。

まぁ私自身にはその気はないんだがなぁ~、クックック。


「…殿下のお考えは分かりました。ですが、このままおめおめと帰れませぬ。どうか、お仕えする許可を…!」


むう。思ったより話の分かる御仁だが…やはりあっさりとはいかぬか。

ならば、代案を出そう。そうすればこの真面目な御仁は「上のものと相談しますので」的に引き下がらざるを得ないはず。


「…ならば、女王陛下にお伝え願おう。私は14歳になったら帝国各地を回るつもりでいる。その時にシーレーン族から一人、私の傍仕えを派遣してほしい。そこで私と共に帝国を見て、人々の言葉を聞き、私が何を思い、何を成すのか…それを見てほしいのだ。その上で私が忠誠を捧ぐに値するのか、判断してほしい」



こうすれば体よく手駒をゲットだぜ!

私とともに云々は完全にでまかせだ。この場さえしのげれば、あとは有耶無耶にして話を立ち消えにしてしまえ。


ついでに、ここで帝国内を回る言質を取る。

有力なシーレーン族に大見得を切ったのだ。国内視察の切符を手に入れたも同然だな。

しかも行うのは14歳。父上が国のために()ったのと同じ歳だ。

人々は何かの符丁を感じて、止めにくいだろう。父の背を追う息子を演じるのだ。



「殿下、お言葉ですが、我々シーレーン族は地上での活動に適してはいません。内陸部を旅するには…」


「ふむ。ではこれではどうか」


海属性フィールドでシーレーン族を包み込んでみる。頑張って全員分だ。


「こ、これが海の大精霊様の加護…!」


「「「「おおおおおーーーーーー!」」」」」


ふわりと空中に浮きあがったシーレーン族たちは魔力フィールドにもすぐ慣れ、縦横無尽に泳ぎ回り始めた。

前世の水族館のイルカショーのようだな。ギャラリーの皆様も沸いている。

ふむ、シーレーン族は水中ではあのような挙動をとるのか。水中だと腕や足のヒレが広がって地上とはまた違った姿だ。

泳ぎはドルフィンキックだ。なるほど、この速度なら余裕をもって一日のうちにシーレーン国まで往復できるな。





「殿下のお力の片鱗、確かに感じました。お傍仕えの件、女王陛下にお伝えすること、しかとに承りました」


ひとしきり泳ぎ回った後、地上に降り立った御仁はそう言った。

納得いかなさそうだったシーレーン族の御仁は一転、晴れやかな顔をしている。

図らずもシーレーン族ショーは接待になったようだ。満足したのはショーをしたほうだが。


さて、この結果は吉と出るか凶と出るか。







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夕日を背に海へ帰っていくシーレーン族御一行。

映画のワンシーンのようだ。シーレーン族は破壊光線を吐いたりしないが。



しばらくそれを見送っていたのだが…。

彼らが見えなくなっても、なぜかギャラリーが引かない。

ちょっと!この騒動で遅れた仕事を取り戻さなくていいのか?港湾関係者たちよ!


首をかしげていると、控えていた先生が話しかけてきた。


「殿下、注目の的ですね。皆、殿下に王者の片鱗を感じたようですよ」


先生はまるで我が事のようにニッコニコしている。

なぬ!こやつら仕事もせんと私を見ていたのか!?

確かに、人波に向かって睨みを利かせている衛兵たちがピリピリしだしているな。


ここは早々に後宮へ帰ろう。

あーあ、折角帰り際に街を見ておこうと思ったのだが。







そうして私は光魔石街灯が灯りはじめる中、帰路についたのであった。
























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