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三度、フランの力知る


 カチャカチャという音が聞こえた。ときおり、ノイズにも似た雑音が混じる。何かと思い、クエンはうっすらと目を開けた。暗い。今は夜なのかもしれない。

(ここはラルフの部屋か)

 天井をみて、すぐにわかった。気を失ったクエンを、ラルフが運んでくれたのかもしれない。横を向くと、ラルフの背中が見える。

 時折火花を散らし、何かをしていた。それが最初に聞こえた音の正体だと気づく。周りには重そうなよくわからない鉄の塊がたくさん置いてあった。

「起きたか」

「……よくわかったな」

 ラルフは空気に敏感なのかもしれない。さきほどの戦いのときも、クエンの居場所を正確に把握していた。

「いや、三分おきにずっと言ってた。おはよう」

「…………」

 言いようのない悔しさを感じた。

 ラルフは作業をやめると、それをしまう。ラルフの雰囲気は、どこかいつもと違った。

「なあ、クソ豚。すこし頼みたいことがあるんだが……」

 その様子はどこか思い詰めているようで。

「頼みたいこと? なんだ、ごみ。ひどい顔だぞ。まるでゴミムシだ」

 クエンとラルフ。ともに木刀を抜く。

「いや、すまない。冗談はこれくらいにして、頼んでいいか?」

「とりあえず聞こう」

 ラルフは至極まじめな顔で、言い放った。

「姫様を襲おーーって、いてぇー! 何すんだよっ!」

 ラルフが言い終わる前に木刀を投げつける。

「よう、万年発情期」

「ちっがう! そうじゃなくてっ。戦いだよ、戦い。……少し試したいことがあるんだ」

「お前一人で襲えばいいじゃないか」

「俺じゃだめなんだよ……。いいだろ? それともお前、姫様に負けたままでいいのか?」

 リベンジか。一方的にやられたばかりだったさっきの戦い。その話はクエンにとっても悪い話ではなかった。少し興味があるくらいだったが、体を動かすのにはそれくらいの理由でよい。

 了承。うなずく。

「よし、じゃあ行こうか。作戦は、……ない」

 ラルフの部屋の窓を出て、屋根づたいに隣へと移動する。クエンが最初にここへきたときに使った、フランの部屋の窓だ。二人は窓の横の壁に体をくっつけると、部屋の様子を伺った。中は暗く、よく見えない。

「ところで、お前の言っていた世界の真理ってなんだ?」

 唐突にラルフが話しかけてきた。

「……どうしてそんなことを聞くんだ?」

 クエンは嫌そうにラルフをみたがラルフは意に介さず、

「だって、世界の真理だぞ。そんなスケールの大きいことなんて、俺は考えたこと無い。どうやったら世界の真理を知りたいなんて思えるんだ? そもそも世界の真理って何だよ」

「どうして世界が存在するのか。世界はいったい、なにでできているのか。それが世界の真理だ」

「そんなのわかるわけねぇーだろ」

「俺は見つけるんだ。……絶対に」

 そこで会話が途切れる。なにもせずに、ただ時間だけがたつ。

『上、気をつけて』

 瞬。

 クエンはすぐに部屋へと飛び込んだ。どうやらラルフも気づいたようだ。クエンとほぼ同時に上からの攻撃を避けるために窓を突き破る。

「人の城の前で、悠長に会話か? 随分と余裕ではないか」

 そのオーラに気圧された。蒼い月光を浴びて、フランは窓の枠に立つ。神々しいほどに輝くフランは、長い青髪を揺らしただそこにいた。

 それだけだ。それだけでしか、無かった。

 それなのに、クエンとラルフは動けなくなる。

『前からくる!』

 ほぼ、本能に近かった。声だけを頼りに体が勝手に動く。

 瞬。

 目に見えないスピードで放たれたそれは対象に当たることなく壁に刺さる。

 クエンは体勢を低くすると、窓の方へと駆けた。

 力に頼っているフランは、体術が苦手なはず。近距離で力を使われては意味がないが、力を使えないほど早く間合いを詰めればいけるかもしれない。クエンはそう思っていた。

 だが、フランの不思議な力の発動原理も、発動の仕方もわからないから、その力に弱点は無いのかもしれない。それでもやってみる価値はあった。

「ほらぁー! どうしたっ」

 見えないスピードで、見えない角度から放たれるそれを声を聞いて避け続ける。

『右、上、右、下、左、左右、前後!』

 ついにフランの元へとたどり着いた。フランが窓から部屋の中へと飛び降りる。

 少ない動作で的確に肩を狙った。これでバランスを崩せば地に膝をつけさせることができる。

 フランはそれを簡単にかわす。

 足を払おうとする。それもかわされる。

 うまい、なんてレベルではなかった。まるでそれだけを極めた、達人のよう。無駄な動きのないクエンの素早い攻撃が、かすりもしない。足の動かしかたから、姿勢の変え方。すべてが完璧だった。ひらひらと舞う花びらのように、なめらかで自由で予測できない。

 ーー青い花びらが舞っていた。

 足を動かすたび、クエンの攻撃をかわすたびにトンっと跳ねる青い髪。ふわりふわりと揺れ続け、舞い続ける。

 ふわりふわり。トンっ。ふわりふわり。トンっ。

 避けて避けて、後ろへ跳ぶ。避けて避けて、後ろへ跳ぶ。

 クエンはすでに、フランのペースへとはまっていた。

「もうおわりよ」

 フランの手が輝きだした。光がまとわりつく。どんどんと形を造っていき、きれいな球となった。人の顔ほどはありそうな球。

 フランはそれを、投げた。光の球は、まっすぐクエンの元へと向かう。

『横からもくる』

 クエンは跳んだ。直後、爆発音が響く。二つの光の球がぶつかりあったのだ。前と横からきたら逃げる場所は上しかない。

「だが、そうくると思っていたよ」

『上から何かが!』

 もうすでに遅かった。上から降ってきた何かに、クエンは飲み込まれていったーー。

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