回想、少女と永久に
棍棒を差し出す。少女は、それをおそるおそる握ってくれた。引っ張りあげて、立たせる。
「俺の名はクエン。化け物さ。だから大丈夫。化け物は、化け物なんかに殺されないんだーー」
それからしばらく、話をした。暗殺者であるクエンと少女の接点は無いに等しかった。それでも少女を喜ばせる為に、つっかえながらもクエンはしゃべり続けた。少しでも少女が笑ってくれるだけで、クエンはなぜだかうれしかった。自分と似ている境遇の少女。クエンは自分が化け物でもよかった。だが少女には、幸せでいてほしかった。
「クエンは面白いねー」
少女はにこにこと、だけどどこか寂しそうに笑っていた。昼になり、窓から外をのぞく。すると、たくさんの敵がクエンを探しているのが見えた。
「あのガキは、ここらへんで消えた。まだいるはずだ。探せ! 頭の敵をとるんだっ!」
少女が、不安そうにクエンへと近寄ってくる。
「大丈夫?」
クエンは棍棒を握りしめて、
「ああ、君には迷惑をかけないよ。もう少ししたら、すぐに出ていく……」
少女はしばらく迷ったうち、クエンの持っていた棍棒を掴んだ。
「まだ、ここにいていいよ。私が、守るから」
その少女の真剣な目に、クエンは何故か胸が苦しくなる。少女の言葉は受け入れてはいけないとわかっていた。少女を想うのならなおさら。
「ありがとう」
けれどクエンは、受け入れる。この儚くも幻想的な時間は陽炎だとわかっていても掴みたいものであった。
クエンは初めて安らぎを覚えた。少女と過ごす時間は、今まで味わったことのない特別なもので。ずっとここにいたい。そう考えるほどになっていた。
三日目の朝。少女は起きてすぐ、
「クエン、世界の真理ってなんなのかな?」
なにが言いたいのかよくわからなかったクエンは、黙って少女をみた。
「人はどうして生きているのかな。どうして死ぬのだろう」
それに、クエンはなにも答えることはできなかった。なぜならーー、人が生きていることに意味はないから。人はあっさり死ぬ。なにをしていても、なにをしていなくても。銀色に光る尖ったものを、心臓に突き刺すだけで。そうやってクエンは人を殺してきた。
そこに理由は、ない。
「私は、……どうして化け物なの? どうして、どうして?」
クエンは、少女に触れようとして……やめた。そのかわりに、
「俺がみつけてやる。俺が世界の真理を見つけだして、そんでお前に見せる」
「見せるって、どうやってみせるつもり?」
少女は笑った。少女は笑ってくれた。クエンはまじめに言ったつもりだったが、どうやら少女は冗談だと思ったらしい。クエンはそれでもよかった。いつか、少女に世界の真理を見せて再び笑ってくれれば。それで、それだけでよかったーー。