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茶番

 朝起きて、すぐに異変を感じた。頭をふって、眠気を払う。絵の木枠のように四角に切り取られた視界から高い高い天井が見える。そうやって上を見るところで自分が何をしていて、今ここがどこなのかを瞬時に判断するのだ。

(これほど高い天井は、見たことがない……)

 殺しをやってきたことで、いつ殺されるかわからない状況になった。だからクエンは深く眠ることはない。いかなる時にも隙をつくらない。眠っていても、すぐに起きて活動ができるようになっているのだ。昨日は、あのあと隣の部屋にラルフとともにいき、一人が入れるくらいの箱に入れられたのだ。

 いつ襲われるかわからないと言われ、鍵をかけられて。

 クエンもなにをされるかわからなかったのでちょうどよいと思い、承諾した。さらにその箱の居心地は予想以上によかった。ふかふかとした感触は安心感を誘い、つい夢をみるほど深く眠ってしまったようだ。

 そして感じる異変。何かが体を這いずり回っているみたいだった。その異変を捕まえる。

 それはねずみだった。そのままにぎりつぶそうとして、

「ちょっと、やめてよっ」

「俺を襲いにきたのか?」

 フランは片手に木刀を持ち、隣でクエンを楽しそうにみつめる。

「姫様、俺もお手伝いします」

 どこからかラルフも現れた。

「ほら、はむちゃんおいで」

 フランが手を叩くと、ねずみがすばしこくクエンの手から逃れた。

「ハム? なんだ、食用か?」

「食用はおまえだ、豚め」

 ラルフが悪魔のような顔をしてそんなことをいう。

「その喧嘩、買うぞ」

「望むところだ」

 どこか不穏な空気がクエンとラルフの間に立ちこめる。フランが壁を叩いた。

『上』

 瞬。

 クエンは上からきたものをとっさによけた。小気味よい音とともにラルフが倒れる。その上には鉄板がのっていた。

「なんでてめぇーはよけてんだよ!」

 勢いよく立ち上がるラルフ。

「なんでおまえはよけられないんだ?」

 心底不思議そうにクエンはきいた。声のおかげというのもあるが、とっさの危険回避行動はもはや本能となっている。

「あなた、おもしろくないのね」

 なぜかフランに嫌な顔をされたクエンであった。

「…………」

 どこか理不尽だと感じた。

「じゃあ、食事にしましょう」

 フランの部屋へと移動する。フランが部屋の外へとでて、カートを引いて戻ってきた。

「クエンの食事は追加させといたわ」

「どうして俺の名を……」

 おかしい。教えた覚えはないはずだが。そんなクエンの疑問に、

「私の眼を持ってすれば、たやすいことだ!」

 そうですか……。すごい力の無駄遣いだと思うのだが。

「ちゃんと豚が一匹増えるっていっといたぜ」

「よお、豚」

「おめぇーだよ!」

 立ち上がり、ともに得物を握りあう。そこにいつのまにか長大な槍をもったフランが現れた。

「ふふふっ」

 クエンとラルフはすぐさま座りなおした。

「好きなところで食べなさい」

 フランにトレイを渡される。フランは真ん中にあった椅子に座るとその大きな机で食事をしはじめた。

「いくぞ」

 ラルフがクエンを誘い、隣の部屋へと移動をしようとする。

「どうしてあいつは一人なんだ?」

「国王様は忙しい。それに他の人も怖がって近寄らないからな。食事もいつのまにか廊下に置かれている。……しゃべりもしないんだ」

 ラルフは悔しそうに唇をかみしめる。自分の無力さを嘆くように。

 クエンはフランのそばにいくと大きな机の一番端に腰掛けた。

「なにをしている」

「好きなところで食えっていわれたからな。ここが部屋全体を見渡せてちょうどいいんだ」

「私は化け物なんだぞ? 一緒にいれば死ぬぞ?」

「知らない、死なない」

 フランは困惑したようにクエンをみた。こういわれてしまったらどうしようもないだろう。

 ラルフがクエンとフランの隣に腰掛けた。

「ラルフ、お前までなにをしている。いつものように自分の部屋で食べればいいではないか……」

「こいつがどかないなら、俺もどきません。姫様になにをするかわからない奴を姫様とふたりっきりにするなんて。もし俺をどかしたいならこいつもどかしてください」

 フランがクエンをみると、すでにクエンは食事を始めていた。フランはあきらめたように、

「今日だけだからな?」

 といった。

「てめぇー、なんで野菜を俺んところにいれるんだよ!」

「まずい」

「じゃあ肉もよこせよっ。ーーってめぇーの食い欠けはいらねぇー!」

 騒がしい食事が始まる。それにフランは、

「ほら、ラルフ。私の肉をやるから」

「いいんですか、姫様っ。あぁ! てめぇー何で俺の姫様の肉をっ!! なんてことをしてくれたんだ……」

「…………」

「戦争だ。今ここでぶっ殺してやるっ!!」

「ふっ。望むところ。消し炭にしてやるよ」

 ラルフの周りからドス黒いオーラがでてくる。クエンは肉をほおばりながら、後ろへ跳んだ。

「うおぉぉぉ!!」

「…………」

 お互いが持っているのは本物の凶器。下手したら死ぬかもしれない。

 カタンっと音がした。それが合図。広い部屋を、二つの影が走り、飛んだ。交差する瞬間、上から何かが降ってくるのがクエンには見えた。

「みえてるって」

 これくらいでは声は聞こえない。どうせフランだろう。クエンはそれをよけると、一度地面に足をつけて。方向を転換させラルフへ一撃お見舞いしてやろうとした。だが、地面についた瞬間、足が沈む。

「二重トラップ!?」

「ばかめっ、甘いんだよ!」

 ラルフはそれも読んでいたのか、足をとられることなくいた。

 ーーまずい、隙だらけだっーー。

 ラルフが剣を振るおうとして、上から何かが見えた……。

「はひょいっ!」

 倒れるラルフ。どうやら三重トラップだったようだ。

「次は、ないぞ?」

 フランが手をかざしたまま、こちらを残忍な笑顔でみていた。

「はい……」

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