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回想、少女との出会い

 このような仕事を始めたのは、いつからだったか。もうずいぶん長い気がする。

 クエンは暗殺を失敗したことはなかった。だが、何度か死にかけたことはある。あのときも、クエンは死にかけた。

 むしろ、死にたかった。それほどまでにあの少女との出会いは…………、



 クエンに親はいなかった。早い頃に死んでしまい、今ではクエン一人だ。だからクエンは今日を生きるために何でもした。そこでみつけたのが暗殺業だった。

 まだ7歳だったクエンは、油断した相手に毒を盛ることでたくさんの人を殺した。別に自分が死んでもかまわない。クエンはいつもそう思っていたからこそ、必ず目標を殺すことができた。だが、目標を殺してもそこは敵の真ん中。いつも逃げるのに苦労をする。そもそも逃げ道を考えていないのだ。逃げられたら逃げよう。それくらいにしか思っていなかった。

 この時もクエンは、目標を殺した後すぐに逃げた。だが相手もバカじゃない。たくさんの人が追いかけてくる。

(もうお前等の守っていた奴は死んだのに、どうしておいかけてくるんだ)

 クエンはグチをこぼしながら、走り続ける。逃走劇は夜の間続いた。

 クエンはその体の小ささをいかし、小さな窓から民家へと忍び込む。少しの間、借りるだけ。クエンは一般人に危害を加えるつもりはなかった。

 外の様子を伺う。敵が去ったのをみて、ほっと一息ついた。

「ちか…………ない……でっ」

「?」

 クエンが後ろを振り返るとそこには少女がいた。クエンと同じ年くらいだろうか。着ているものはみすぼらしく、少女の顔もどこか青白くやせこけていた。

「……近寄らないでっ!」

 少女はおびえたようにクエンをみる。

「すまない。危害を加えるつもりはない。少しの間だけここに……」

 一歩前にでると少女の顔が歪んだ。

「お願いだから、近寄らないで……」

 少女のあまりの迫力にクエンは押し黙る。まるで少女は近寄ってしまったら自分が死んでしまうかのように拒絶する。

 否、まるで相手を殺してしまうかのような拒絶。少女の瞳に映る怯えはそんな色をしていた。

 次第に明けていく夜。クエンはいつのまにか寝ていたことに驚いた。あわてて周りをみると、端で少女がすやすやと寝息をたてて眠っていた。

 静かに近寄る。あどけない少女の寝顔は、みているだけで心が癒されるようだった。ついずっと見つめてしまう。

 少女が寝返りをうった。うっすらと目が開く。

「っ!?」

 少女の瞳が大きく見開かれる。クエンがまずい、と思ったときには遅かった。

「私は化け物なのっ、だから近寄らないで! 私の近くにいると不幸になってしまう……」

 少女は悲しそうにいう。

「お前、親は?」

「いないわ」

 少女は依然、悲しそうだ。クエンはそんな顔をみて、どうにかしてあげたいと思った。

「友達も知り合いも家族もいない」

 よく見るとこの部屋には少女以外住んでいないようだった。一人だけで、ずっと暮らしていたのだ。

「私が化け物だから……。私に触れれば皆死ぬから…………」

 クエンは笑う。声を出して笑った。この少女が化け物? じゃあ自分はどうなんだ。家族もいない。知り合いは人殺しばかりだ。いつ死ぬかわからない。人の命を奪い続ける。

「俺もだ」

 だから、同調した。どうせ否定してもそれをまた否定されるだけだ。だったら、一緒になろう。どう考えてもクエンの方が化け物だったが、今は一緒がよかった。

「触れることができないなら、触れなければいい。そういう付き合い方もある」

 逃げている最中に拾った棍棒。それを少女に向かって差し出したーー。

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