招待
サスペンスの様なホラーの様な、そしていて悲しいお話です。
多恵は大人しくて優しい子。スミ子は好奇心旺盛で気が強い。正反対な性格の二人だけど、とても仲良し。いつでも一緒、姉と妹の様でもあった。あの風の強い日に全てを知ってしまい全てが変わった・・・。
第一話「招待」
「スミ子・・・」多恵が遠慮がちに声を掛けた。「何?どうしたの?」笑顔で振り向くと多恵が視線を横にずらした。視線の先には担任の教師が立っていてスミ子と目が合うと手招きをした。スミ子は表情を固くし、教師の方へ歩いて行った。教室は昼休みで騒がしく、多恵以外二人が教室を出て行っても気にもとめなかった。二人は進路相談室に入った。中に入ると教師はタバコを吸い始めた。「座ったら?」しかしスミ子は腕組をしたまま立っていた。「何の用ですか?こんな所つれてきて」スミ子はこの女教師が嫌いだった。控えめな服装だが口元は濃い色の口紅をしていた。気に障るのが態度には出さないが時折感じる視線だった。敵意のこもった、まるで何か汚い物を見る様な目で多恵を見る時があった。他の生徒は気が着かないがスミ子はすぐに気がついた。そしていつからか、多恵は何度か、放課後に生徒指導室に呼ばれる事があった。教室に戻って来た多恵はいつも泣いていて聞いても答えてくれず教師に詰め寄ってもプライバシーの問題だから教えられないと答えるのだった。しかし多恵の異様な怯え方が気になるスミ子は多恵がよほどの嫌がらせを受けているのだと確信していた。その教師はいつも黒のハイヒールを履いており廊下をコツコツと歩く音が響いていた。多恵はその音が聞こえると怯えた表情をするのだった。スミ子は喚起の為、窓を開けた。風がカーテンを揺らし校庭で遊ぶ生徒の声が聞こえてきた。短くなったタバコを胸ポケットから取り出した携帯灰皿にしまうと笑顔でスミ子を見た。「長くなるわ。だから座って」スミ子は大きな瞳で教師を睨んだまま椅子に腰をおろした。「もうすぐ夏休みね、木下さん何か予定は?斉藤さんと一緒?」「先生には関係ないと思いますけど」わずかに笑顔を崩すと「もし予定がなかったら斉藤さんと一緒に先生の実家に来ない?田舎だけど海も近いし家も古いけど広くて庭もあるわよ」スミ子はその提案を小馬鹿にした様子で鼻で笑うと「どうして先生の実家に遊びに行かなくちゃならないんですか?何の理由があって多恵と一緒に貴重な夏休みを先生と?」それを聞くと教師は完全に笑顔が消え眉にしわを寄せ、「あなた達の為に言ってるのよ、教師に対する反抗的なその態度。改めた方がいいと思うわよこの先そんな態度で世の中渡っていけると思ってるの?」「その態度で何ですか?別に普通だと思いますけど、先生の気にし過ぎなんじゃないですか?」「そうかしら、一度親御さんに話を伺った方がいいのかもね。」スミ子は更に教師を睨んだ。「その表情も問題ね。だから言ったでしょう?あなた達の為だって。ご両親に話をしに行くよりも私とひと夏過ごす方がいい解決方よね?私の事、誤解しているからだと思うの。特に斉藤さんの事でね。」話の途中でチャイムが鳴ってしまった。「よく考えといてね。それと、成績はテストの結果だけではないからね」椅子に座ったままのスミ子を残し教師は部屋を後にした。