アウトサイドラバー
描写はないですが、途中「殺人」等の発言があります。
苦手な方は見ることをおすすめしません。
ご理解ください。
目が覚めると、部屋の中はまだ薄暗かった。殺風景な部屋がぼんやりと視界に映る。
さっきから、誰かがドアを叩いている。それも消え入りそうに弱弱しく、絶え間ない。
「だれ…?」
外に向かって問いかける。もっとも、このドアを叩く人間は、一人しかいないのだが。
相変わらず、音は止まない。
返事がないのをいいことに、俺はゆっくりと寝返りをうった。
ふと、音が窓のほうから聞こえることに気づく。
ベットから僅かに離れた窓に目をやり、ようやく俺は理解した。
今日は雨が降っている。
ガラリと窓を開けると、湿った風が頬を撫でた。腰掛けたサッシがギシギシと音を立てる。
鉛色の雲が重く街にのしかかり、無機質な建物が冷たい雨にその身をさらしている。
黒と灰色の世界は、今の俺の気分そのものだ。
このところ、仕事がひとつもない。
つまり俺は、一人もヤッてないってことだ。
麻薬中毒者が薬を求めるように、俺は殺人を望んでいる。
狂っている。ああ、そうかもしれない。
でも
だから、なに?
狂っていて結構。
平和な人生なんて、まっぴらさ。
パシャパシャと水を跳ねる音がして、階下を見下ろした。
すぐ目の前の通りを、男が一人歩いてくる。
全身黒ずくめのひょろりとした男は、この雨だというのに傘もさしていない。
本人はそれを全く気にしている様子もない。
…まるで、この世に降り立った死神だな…
なんていう俺のすばらしい想像は、奴が道端のツツジを見て立ち止まるなんて動作で台無し。
どこの世界に、花を見て喜ぶ死神がいるんだよ。
俺のため息をよそに、奴は顔をほころばせる。色とりどりのツツジの中で、奴だけがモノクロ写真のようだった。
…あ…
俺の中にある光景が浮かぶ。
様々な花が咲き乱れる花畑。そこに横たわる奴の肌は、ハッとするほど色が白い。
俺は奴にそっとと近づき、細い首筋に右手をかけた。
銀のナイフを持った手をゆっくりと振り上げ…
「…おい!」
急に思考が遮られ、目の前にはまた灰色の街が広がっていた。
さっき見た鮮やかな花の色がチラついて、軽く眩暈がする。
見ると、いつの間にか奴は真下まで来ていた。
「窓開けっ放しで、何やってんだよ。風邪ひくだろ。」
「…あともう少しだったのに…」
「え?」
「全身ずぶ濡れのお前に言われたくないって言ったんだよ!さっさと中入れ!」
言われてようやく気付いたらしい。自分の体を見回して軽く身震いすると、奴は視界から消えた。
くっくっ…と笑いながらズルズルと床に降りる。
そのまま、どっかに消えろよ。
どうやら俺は、お前までヤルみたいだぜ?
ふいに扉が開く。
無表情で現れた奴はずんずんと俺に向かって歩いてくる。
一瞬俺の想像がばれたのかと思ったが、奴はエスパーじゃない。
すぐに奴の投げたタオルが視界を覆った。
「ちゃんと拭いとけ。出先で倒れられたら困る」
動きを止め、奴に視線を投げかける。奴は静かに頷いた。
「仕事だ」
ニヤリと笑ってみせると、奴は肩をすくめてみせた。
奴がコーヒーをいれている間に着替えをする。
奴と同じ黒いスーツを着て、ネクタイは苦しいからしない。
銃に手を伸ばしかけて、傍らのナイフが目に入った。
左手で掴んだナイフは冷たく、とてもなめらかだった。
コーヒーいれたぞ、という奴の声に、ああ、と返事をして、
そっとナイフを袖に滑りこませた。
仕事がある。
標的がいる。
どうやら俺は、お前をヤラなくて済みそうだ。
嬉しいのか、悲しいのか、よく分からない。
END




