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期待葬の司祭  作者: 八海クエ
第4章 はるか、遠く
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第47話 自由がある

 三つの棺が、同じ形で現れたのは、いつだったか。


 宗継は、はっきりした日付を思い出せない。

 ただ、その前と後で、何かが変わった。


 事務所の空気だったか。自分の呼吸だったか。

 あるいは、仕事に向かうときの、足取りだったか。


 違いは、初めは小さかった。

 だが、積み重なると、変化がはっきりとわかる。


 あの頃、宗継は、常に緊張していた。


 棺が現れるたび、それが「正しいもの」かどうかを

 確かめようとしていた。


 同じ棺が、過去にもあったのか。

 なぜ、同じ形なのか。意味はあるのか。


 考えれば考えるほど、仕事は重くなった。


——同じ棺といえども、解釈するな。


 兄から送られてきた、古文書の一文。

 あれを受け取った瞬間、宗継は、考えることをやめた。


 正確には、考えるべきでない領域が、はっきりした。


 それからだ。


 仕事は、少しずつ、軽くなった。

 棺は、棺として扱えばいい。意味を求めない。解釈しない。


 目の前の依頼人と、その期待だけを見る。

 それで、十分だった。


 静久が、そばにいるようになってから、

 その感覚は、さらに強まった。


 彼女は、迷わない。理由を並べない。判断を、引き延ばさない。


 最初は、それが少し怖かった。

 だが今は、違う。助かっている。


 今日も、事務所に一通の書類が届いていた。


 九條家に関する、形式的な整理。

 名前。役割。義務。


 いくつかの項目に、線が引かれている。

 消えるもの。終わるもの。


 宗継は、それを、淡々と読んだ。


 胸が痛むことは、なかった。

 惜しさも、後悔も、ない。


 自由だ。そう感じて、少し驚く。


 この言葉は、これまで、あまり意識していなかった。

 だが、今は、しっくりくる。


 期待葬の仕事は、続ける。ただそれは、義務ではない。

 自分の選択だ。それでいい。


 静久に、その書類を見せると、

 彼女は、一度目を通し、静かに頷いた。


「そうですか」


 それだけだ。反対もしない。喜びもしない。

 宗継は、その反応を、心地よいと感じた。


 干渉されない。評価もされない。

 自分の人生が、自分の手に戻ってきた感覚。


 夜、二人で簡単な食事をとる。


 今日の仕事の話。神社の話。天気の話。

 未来の話は、出なかった。


 だが、不安はない。沈黙も、怖くない。

 窓の外を、電車の音が通り過ぎた。


 宗継は、ふと思う。


 三つの棺が現れてから、

 世界は、少しずつ、整理されてきた。

 余計な線が消え、背負うものが減った。

 その結果、自分は、ここにいる。


 静久は、隣で湯を飲んでいる。

 忙しそうだが、きっと充実している。

 役割を果たしている人の、落ち着きがある。


 関係は、うまくいっている。

 宗継は、そう結論づけた。


 問題は、何もない。



お読みいただき、ありがとうございます。


次で、第4章が完結します。それから、終章に入ります。

伏線回収ハッピーエンドです。そこは、ご安心を。

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