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期待葬の司祭  作者: 八海クエ
第3章 視線、届かぬところ
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第28話 見えない棺

 宗継は、覚悟をした。

 三について、調べる。


 静久は、”意図”を推測すべきではないという。

 しかし宗継は、感じる”目線”を無視できなかった。


——三とは、なんだ?


 九條家本家で、文献を調べる必要がある。


「静久さん、そういうわけで、二日だけ家を空けます」


「はい」


 同じものは、二つとないとされる棺。

 しかし、その教えは間違いだった。


「ご実家、いつ頃から葬送をなさっていたのですか?」


「奈良時代からと聞いてます」

「では、行ってまいります」


 宗継は、短く、そう答えた。


 実家に行くことは、宗継にとって”簡単なこと”ではない。

 しかし宗継は、それを静久には知られたくなかった。


 宗継には、上に兄が一人いる。


 宗継は、7歳で両親を亡くしてから、中学2年になるまで。

 年の離れた、その兄が、親代わりだった。


 問題は、兄が実家に嫁を招き入れて、すぐ起こった。

 兄嫁が、宗継の存在を病的に恐れ始めたのである。


 宗継には、幼少の頃より、棺を扱う高い能力があった。

 それとは対照的に、兄の能力は、ついに覚醒しなかった。


 九條家の当主が、無能力者。


 兄嫁は、宗継が当主の座を奪うと信じていた。

 それから彼女は、宗継を”虐待”するようになる。


 宗継が中学2年、夏のこと。

 兄嫁が、笹の葉に下げる”短冊”に願いを書いていた。


『宗継様が、ご自害なさいますように』


 これがきっかけで、宗継は失踪を装い、実家を出ている。

 兄にだけは、この失踪が偽装であることを伝えて。


 宗継がいなくなると、彼女は、元の彼女に戻った。

 そして彼女は、宗継の存在を、意識から完全に消した。


 彼女に、宗継の存在を思い出させてはならなかった。

 宗継が生きていることは、分家筋にも知られていない。


 家訓で、本家の書庫から資料を持ち出すことは許されない。


 宗継は今回、そんな書庫に行く覚悟を固めたのだ。


 兄に対して、”失踪”以来、宗継は十年ぶりに連絡を取った。

 差出人不明の手紙で。兄にだけわかる、癖のある字で。


 兄からの返事は、すぐ、指定した私設私書箱に届いた。

 兄は、兄嫁が家を開ける2日間を、指定してきた。


 そうして今、宗継は本家にいる。


 実家の門は、変わっていなかった。

 綺麗に、手入れがなされている。


 鍵は変えられていなかった。

 宗継は、鍵を開け、サッと中に入る。

 書庫へ向かう途中、後ろから兄に呼び止められた。


 兄は、目に涙を浮かべ、少しだけ笑っていた。


「……久しぶりだ。大きくなったな」

「本当に……すまない。お前に、こんな思いをさせて……」


 十年の月日が、嘘みたいに一瞬で埋まる。


「大丈夫だよ、気にしないで。元気にやってるから」


 そう言ってから。宗継は"それ"に気づいた。


「兄さん……その棺」


 兄は、冗談まじりに答える。


「知ってるだろ。俺には、見えない」

「嫌味かよ」


 そう言って、兄は笑った。


 棺に乗っていたのは、

 兄嫁からの期待……だけではなかった。


「書庫だろ?」


 兄は、何事もないように言った。


「早く済ませよう。俺も手伝う」


 宗継は、黙って頷いた。


 兄は、大きな棺を引きずりながら、

 弟の先を、嬉しそうに歩いた。



お読みいただき、ありがとうございます。

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