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葬られた勇者と右目の魔王  作者: 碧遥


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第1話 葬られた英雄


鐘の音が、空を裂いた。


豪華絢爛に装飾された大聖堂の前で、国中から集まった無数の人々がひざまずく。


外は晴れて空気はひどく澄んでいるのに、その場にいる誰もが涙を流し息を押し殺し、鐘の音を聞きながら静かに天へと祈りを捧げていた。


――救世の英雄、勇者レオン・アルディス、死す。


世界を滅ぼさんとする強大な魔王と戦い、世界を救って相打ちとなったその青年の死は、神の御業として讃えられ、国中に祈りと涙を呼んだ。


「勇者さま…ありがとう…」


裏路地の小さな子供ですらも、今日は彼のために祈りを捧げている。それほどまでに彼の成した事は偉業だった。


数千年にも及ぶ人類と魔王との戦い。幾度となく魔王を封印する勇者達がその時代ごとに現れたが、封印に成功した者が死ねば、魔王は再度復活してしまう。


そんな魔王を相打ちで撃ち倒し消滅させた、まさに世界を救った偉大な青年。


そんな救世の青年は今、白亜の祭壇の上で色とりどりのステンドグラスの光に照らされて、真っ白な木の棺の中に横たわっていた。


端正な顔立ち、しなやかに整えられた金髪、閉じられた瞳。


勇者の証である鮮やかな青色の聖痕が刻まれた、美しいその右目を見ることはもう叶わない。


信徒たちはその光景に静かに涙を流した。


「勇者レオン様……どうか、どうか安らかに……」


沈黙を破る鎮魂の合唱が始まる中、ひときわ深く頭を垂れて祈りを捧げる美しい女性がいた。


彼女しか着ることを許されない、純白に金で装飾された豪華絢爛な修道服の裾を握りしめる彼女の名は、聖女ミリア。


最上級の神聖魔法を操り、かつて勇者とともに魔王を討ち果たした仲間であり、神の声を聞く今代最高の聖女だ。


「あなたの尊い犠牲によって、この世界は救われました。

神は、あなたを…天へと迎え入れるでしょう……」


1粒の涙を流しながら、苦しげに言葉を絞り出す聖女。


祭壇の下、教会の重鎮たちが列をなして立つその先で、教皇が金の杖を掲げた。


「世を救った功績として、神の御心に勇者の魂は還っていった。

…すべては神の秩序のもとに。」


そうして聴衆は一斉に「すべては神の秩序のもとに」と唱和する。


――だが、そのときだった。

棺の中の青年の右目が、わずかに一瞬だけ赤く光った。


目を閉じて祈りを捧げる教皇も、信徒も、誰もその光には気づかなかった。


...ただ1人、聖女ミリアを除いては。

祈りの最中、彼女は確かにその赤を見た。


「っ!!!」


 目の錯覚――そう言い聞かせようとしても、その赤い光が瞼の裏に焼きついて離れない。


「……レオン、あなた……」


 そのつぶやきは教皇の元に届いた。


「どうされましたか、聖女ミリア」


 隣に立つ教皇が声をかけてくる。白銀の法衣に身を包んだ老人は、神の代理人と呼ばれるこの国の最高権力者だ。


 慈悲深く微笑みをたたえたその瞳は、何故か今日は少し薄暗い。


「い、いえ……ただ、彼の瞳が……光ったような、気がして。」


「…聖女ミリア。勇者レオン殿の体ならば、すでにすべての鼓動を止めておる。医師も確認済みだ。

 さらには――魔素が一片たりとも残ってはおらぬ。魂すらもない、完全な“空”の状態だ。」


 ミリアは息を呑んだ。


 人間の体には誰しも、わずかながら魔素が流れている。魔法が使えぬ者であっても、生命活動に必要な微量の魔素があるのが常識だ。死してもほんの少しは残っているものなのに。


 それが“完全な空”とは――。


「……そんなことが、…有り得るのですか…!」


「あり得るとも。神に選ばれし勇者は、魔王を討つと同時に、その魂を天へ返したのだ。

 ゆえにこそ、彼は人ではなく、神話の中の存在となった。」


 教皇の言葉には、揺るぎない確信があった。

 ミリアはそれでも信じられなかった。

 彼が、そんな簡単に消えるはずがない。


 ーーあの光は、確かに生命の光だった。


 しかし葬儀は粛々と進んでいく。

 鐘が再び鳴り響く。祭壇が閉ざされ、棺は神官たちの手で運ばれていった。


 ミリアはその背に、無意識のうちに歩み寄っていた。


「待ってください! まだ、…まだ…。

やっぱりもう一度、もう一度だけ確かめさせてください!」


「聖女殿、これ以上は……」


「そうですよ聖女様。今日までにも何度も確認されたじゃないですか。」


 神官たちが困惑の声を上げる。

 神官達の静止をふりきり、ミリアは棺の縁にすがりついた。

 その姿に、列席者たちの間にざわめきが走る。


「ああ……やはり、聖女様は……」

「勇者様に心を寄せておられたのだな……」

「神に仕える身で禁じられた恋を……なんと哀れな……」


 囁き声が広がっていく。

 しかしそんな言葉など聞こえていないかのように

 ミリアはただ、震える指で棺の表面をなぞる。


 ――その奥にいる彼に、どうか届くようにと祈る。


「あなたは……まだ、ここにいるのでしょう?

 お願い、目を覚まして……!」


 そうして引き止める者たちを押しのけて棺を開くが、やはりそこには物言わぬ骸しかなかった。


「まだ、まだよ…ヒール、…ホーリーヒールっ!」


  涙を流しながら自身の最大出力で治癒魔法を注ぎ込む聖女。しかし骸は物言わぬまま、ピクリともしなかった。


 その沈黙が、逆に彼女の心を切り裂く。

 力が抜け、膝が床に沈み込んだ。

 教皇がため息をつき、神官たちに目配せをする。


「勇者様が魔王城で息絶えた時、もう既に何度も治癒を施したのでしょう?

…貴女の最高の治癒魔法を使っても、それでも、間に合わなかった。

本当に彼はもう神の身元へ、行ってしまったのですよ。」


 そうして棺はゆっくりと運び出され、教会の奥、地下の墓所へと向かっていった。


 無数の燭台が並ぶ石の回廊を抜けた先――そこは、かつての勇者たちが眠る永遠の安息の地。

 ミリアは最後までその後を追った。

 地下へ続く階段を降りるたび、湿った空気が肌にまとわりつく。


 石壁には古の勇者たちの名が刻まれている。だが彼女の目は、ただ一つの棺だけを見つめていた。


「神の御心により、この勇者の骸をここに――」


 神官たちの詠唱が響く。

 棺が静かに墓穴に降ろされ、白い石板で蓋がされていく。

 その瞬間、ミリアは悲鳴に似た声を上げて駆け寄った。


「いやっ、待って……! お願い、まだ――!」


 神官が制止するも、ミリアは必死に石蓋を叩いた。

 涙で頬を濡らし、嗚咽を押し殺しながら、ただ願う。


「神よ、どうか……どうか彼を……!」


 その声が静まり返る地下に響き渡る。

 だが奇跡はやはり起きなかった。

 神官たちはやがて、崩れ落ちた彼女を抱え上げ、出口へと連れ出す。


「……聖女ミリア。神はすでに勇者をお導きになられたのです。」


 教皇の言葉は、まるで告別の鐘のように重く響いた。





 ――やがて勇者の葬儀が終わり、夜が訪れた。


 人々が去った大聖堂は、冷たい静寂に包まれている。

 無数の蝋燭の炎が風に揺れ、石畳の上に長い影を落とす。

 その地下墓所の奥、封じられた白石の棺の中で、英雄は静かに横たわっていた。


 地下墓所


 そこは勇者たちが代々眠る、静寂の場所。


 神官たちが最後に封印を施して去ったその奥で、今日入れられたばかりの棺がぽつりと佇んでいた。


 その白い棺の中で、青年は確かに“死んでいた”。

 鼓動も、温もりも、魔素の流れも存在しない。


 ――どれほどの時間が経っただろう。


ふと、誰かの声がした。


 それは風のように微かな響き。

 けれども確かに、誰かの声だった。


『……起きろ。』


 低く、冷たい声が俺の中に直接響く。

 誰かの命令のようで、しかしそれはどこか懐かしさを含んでいた。


(……だれ、だ……?)


 声が出ない、何も見えない、痛みも匂いも音も何も感じない、それなのにどこからか声がする。


『まったく...寝ぼけたやつだな。...戻すぞ。お前の魂を』


 そう言われたのも束の間、

 ギュンッとどこかに引っ張られる感覚がして、無理やり狭い場所に詰め込まれる。


 その瞬間、全身を鋭い痛みが駆け抜けた。

 冷たい水に無理やり沈められたような圧迫感


なにか柔らかいものに包まれているのにとても寒くて、辺りは何も見えなくて真っ暗闇だ。


『...そろそろこの建物にも警備以外の人は居ないようだ。さっさと出るぞ』


(待て、お前は、俺は一体...)


俺の質問を無視して、体が勝手に動く。


意思とは反して俺の口がボソリと呟いたのは使い慣れた転移魔法で、俺は暗闇から脱出することに成功したのだった。

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