表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

第8話 生きるための裏切り

 九度目の八月十二日。

 夜明けの光が差し込む前、私はベッドの上で目を開けた。

 昨日聞いた「片方の死」という言葉が、頭から離れない。


 食堂で向かい合ったリオネル様は、いつもより無口だった。

 やがて静かに口を開く。

「……もし儀式を行えば、この日を終わらせられる。だが、お前が死ぬか、俺が死ぬ」


「そう……ですね」

「俺は――生きてほしい。だから儀式はしない」


 淡々とした声の奥に、強い決意があった。


 私は俯き、胸の奥がきゅっと痛む。

 儀式をしなければ、私たちは永遠にこの日を繰り返す。

 けれど、彼は私を失いたくないと思っている。


 その優しさが、かえって残酷だった。


 午後、私は一人で北の塔に向かった。

 机の引き出しを探ると、手紙と同じ筆跡で書かれたもう一枚の紙切れを見つけた。

 そこには儀式の手順の一部が残されていた。


> “誓約は満月の夜、血を混ぜた杯を交わし、互いの名を誓うことで成就する”


 そして最後に一文――


> “ただし、誓うのは一人だけでよい”


 背後から低い声がした。

「……見つけてしまったか」

 振り返ると、黒猫アルタイルが窓辺に座っていた。


「一人だけが誓えば、その者が命を落とし、もう一人は生き残る。

 だから百年前、二人は誓えなかった。どちらも相手を失いたくなかったからだ」


 私は手を強く握りしめた。

「……じゃあ、もし私が誓えば、リオネル様は――」


 夜、彼に黙って儀式の準備を始める私の姿があった。

 この日を終わらせるため、そして彼を生かすために――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ