第5話 百年前からの手紙
六度目の八月十二日。
目覚めた瞬間から、私はもう一人の囚人――リオネル様と視線を交わした時の感覚を思い出していた。
あの灰色の瞳に映るのは、私と同じ“閉じ込められた者”の影。
朝食の席で、リオネル様は唐突に言った。
「屋敷の北の塔に入ったことはあるか?」
「……いいえ。あそこは鍵がかかっていて」
「昨夜、夢の中でその塔に入った。埃をかぶった机の上に、一通の手紙があった」
彼の声は低く、硬い。
「百年前の日付が書かれていた。宛名は……“この日を繰り返す者たちへ”」
私は息を飲む。
午前、彼に案内されて北の塔の前に立った。
重い扉には確かに錠がかかっていたが、リオネル様が懐から取り出した古びた鍵で開いた。
中は薄暗く、埃と古紙の匂いが漂う。
机の上――確かにあった。
黄ばんだ封筒。封蝋には、見たことのない紋章。
震える手で開封すると、古びた筆跡が現れた。
> “繰り返す者へ
> この日を脱するには、二つの命を一つに戻さねばならない。
> それは愛でも憎しみでもなく、ある誓いによって結ばれるものだ。
> 失敗すれば、この日は永遠に終わらぬ”
「二つの命……?」
私がつぶやくと、背後からアルタイルの声がした。
「百年前、この屋敷では一つの悲劇があった。
そのとき誓いを交わすべき二人が、誓いを違えた――だから時間が壊れた」
黒猫の金色の瞳が、私とリオネル様を交互に見据える。
「君たちは、その二人の“生まれ変わり”だ」
私とリオネル様は、同時に目を見開いた。