第32話 潜入の誓い
港町の外れ、小さな倉庫の一室。
僕たちは粗末な木の机を囲み、議会本拠地への潜入計画を練っていた。
アルタイルが地図を広げ、港から大陸中央部までのルートを指し示す。
「議会本部は王都レグナスの中心、魔脈塔の直下だ。正面突破は不可能。だが……」
彼の指が塔の裏手にある細い路地をなぞった。
「ここに、古い地下排水路がある」
シグルが腕を組む。
「私がいた頃は、影の会議専用の密輸ルートとして使われていた。今も生きていれば、中から侵入できる」
リリアが口を開く。
「でも、内部は魔脈術師だらけでしょう? 少人数じゃ不利すぎる」
その時、倉庫の扉が軋む音がした。
現れたのは、背中に長弓を背負った女性――短く切った銀髪が月光を反射して輝いている。
「そのために、私が来た」
女性はそう言って、机に封筒を置く。
封筒には議会の入城許可証と、複数の通行証が入っていた。
「名はセラ。カイル殿とは旧知だ。彼の遺志を継ぐと決めた」
彼女の瞳には迷いがなく、まっすぐ僕たちを見ている。
アルタイルが頷く。
「人員はこれで揃った。あとは日取りだ」
シグルが短く言った。
「三日後、王都で議会の大集会が開かれる。その混乱を利用する」
リリアは水晶片を胸に抱きしめた。
「兄さん……必ず守るから」
夜更け、倉庫を出た僕は、港から海を見渡した。
遠くに見えるオルドレア島は、薄い霧に包まれ、月光に淡く浮かび上がっていた。
――次の戦いは、世界の行方を決める。
そう思うと、胸の奥で小さな炎が静かに燃え始めた。