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第30話 封印の前で

 冷たい空気の中、封印の紋様が淡く脈打つ。

 カイルはその光を背に立ち、短剣の先から滴る血を拭おうともしなかった。


 「……兄さん」

 リリアの声は震えていたが、その瞳は揺れていなかった。


 カイルはゆっくりと歩み寄る。

 「お前たちがここまで来たということは……全てを知ったんだな」

 僕は剣を握り直す。

 「父と母のことも、議会の実験のことも。だが、それが人々を犠牲にしていい理由にはならない」


 カイルは苦笑する。

 「犠牲を恐れれば、何も変わらない。議会は魔脈石の核を使い、大陸全土を縛ろうとしているんだ」


 リリアが一歩前に出る。

 「だから壊す? それじゃ、父や母を奪った連中と同じよ」

 「……違う!」

 カイルの叫びが地下に響く。

 「俺は奪う側じゃない、終わらせる側だ!」


 シグルが低く口を挟む。

 「核を破壊すれば、この島もろとも大陸南部は海に沈む。お前はそれでもやるのか」

 カイルは黙って短剣を封印へ向けた。


 リリアは魔脈石を胸の前に掲げ、兄の前に立ちはだかる。

 「なら、私が止める」


 沈黙が数秒続いた後、カイルは深く息を吐き、瞳を細めた。

 「……やはり、お前は強くなったな」

 次の瞬間、彼は僕に視線を向ける。

 「お前に託す。もし俺が……いや、この先お前たちが生き延びたら、この核を安全に封じ直せ」


 そう言い残し、カイルは封印の前に膝をつき、短剣を地面に突き立てた。

 封印の光が揺らぎ、その中心から黒い影が溢れ出す。


 「……これは?」僕が声を上げると、カイルは微笑んだ。

 「議会の連中に使わせないための、最後の細工だ」


 黒い影が一気に広がり、カイルの姿を包み込む。

 リリアが叫び、僕も手を伸ばしたが、影は彼を完全に飲み込み、跡形もなく消えた。


 封印は静かに閉ざされ、ただ冷たい空気と、リリアのすすり泣きだけが残った。


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