第29話 封印への道
港の裏手にある崩れかけた倉庫。その床板を外すと、黒く口を開けた縦穴が現れた。
湿った空気と、地下から吹き上がる冷たい風。
シグルが小さく呟く。
「ここが旧採掘場へ通じる地下通路だ」
僕たちは松明を灯し、一列になって降りていった。
通路は思った以上に広く、壁にはかつての鉱夫たちの道具や崩れた木材が転がっている。
遠くから、水滴の落ちる音と……かすかな金属音が響いていた。
途中、分岐点に差し掛かると、壁に奇妙な刻印が刻まれているのを見つけた。
リリアが息を呑む。
「これ……兄さんの印よ」
刻印は三つの線と円で構成され、その下に短い文が彫られていた。
《光は影を照らさず、影は光を包み込む》
アルタイルが眉をひそめる。
「暗号だな。進むべき道を示しているはずだ」
僕は松明をかざし、左右の通路を照らす。
右は明かりが届くが、左は闇が深く、奥が見えない。
「……影を包み込む、か」
僕たちは左の闇の通路を選んだ。
進むにつれ、空気はさらに冷たくなり、耳鳴りがするほどの低い振動が足元から伝わってくる。
やがて行き止まりの壁に、大きな封印の紋様が浮かび上がった。
中央には、魔脈石に酷似した結晶が埋め込まれている。
シグルが低く言った。
「これが……魔脈の核を封じる扉だ」
その時、背後からかすかな足音が近づいてきた。
振り返ると、薄闇の中に現れたのは――カイルだった。
彼の手には血のついた短剣、そして瞳には決意の炎。
「……来たか、リリア」