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第3話 花瓶の破片と未来の声

 ――四度目の八月十二日の朝。

 慣れる、なんて言葉は嘘だ。

 何度目でも、同じ日を繰り返す感覚は胃の奥に鉛を落としたような不快さを伴う。


 カーテンを開けると、黒猫はもういなかった。

 庭は、ただの静かな庭。

 けれど、あの金色の瞳と低い声は耳に焼き付いて離れない。


 午前十時、廊下を通りかかったときだった。

 突然――「ガシャン!」と甲高い音が響く。


 音の方向に駆けつけると、花瓶が床に落ち、青い陶器の破片が散らばっていた。

 そばには、顔色の悪いメイドのマリアが立ちすくんでいる。


「あ、あの……ユイ様……!」

「大丈夫?」

「ご、ごめんなさい! 手が滑って……」


 しゃがみ込み、破片を拾い集める。

 そのとき――私の視界の奥に、奇妙な映像が浮かんだ。


 それは“数分後の光景”だった。

 廊下を通るリオネル様が、破片で靴を汚して顔をしかめる場面。


「……え?」

 頭を振っても、その映像は消えない。

 まるで、未来を覗き見しているようだった。


 私は咄嗟に破片をすべて拾い終え、絨毯の汚れも拭き取った。

 数分後――廊下を通ったリオネル様は、何事もなかったかのように歩き去っていく。


「……やっぱり、変だ」

 未来が“変えられる”――そう確信した。


 夜、部屋で考え込んでいると、窓の外から小さな影が覗いた。

「君、少しは分かってきたかな?」

「アルタイル……」

 黒猫は月明かりを背に、しなやかに窓辺に飛び乗った。


「未来が見えたろう? それは、この日を何度も生きた者だけが持つ力だ」

「じゃあ……“もう一人”も、この力を?」

「そうだ。そして、その者こそが、ループの原因を握っている」


 私の喉が音を失う。

「ヒントをくれないの?」

「――屋敷の主の目を、よく見てみろ」


 そう言い残し、黒猫は夜の闇に溶けた。

 胸の奥で、嫌な予感が形になり始めていた。

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