第27話 漂着の街
意識が戻った時、僕は砂浜の上に倒れていた。
潮の匂いと、どこか甘い香りが混じる空気。
頭上では灰色の雲が流れ、波が寄せては返していた。
「……生きてるか?」
耳元でアルタイルの声がした。
彼は濡れた服のまま座り込み、傷だらけの腕を押さえている。
すぐ近くでは、リリアが砂の上で膝をつき、海を見つめていた。
「……兄さん……」
その声は、風にかき消されるほど小さい。
どうやら僕たちは、海流に流され、この港町に漂着したらしい。
港の背後には赤茶色の石造りの家々が並び、煙突から細い煙が上がっている。
人々は僕たちを好奇の目で見ていたが、攻撃的ではない。
港の一角にある小さな宿で体を温めていると、アルタイルが低い声で言った。
「この町……オルドレア島の玄関口だ」
「えっ、もう島に着いてるのか?」僕は驚いた。
「表向きは観光港だが、裏では議会の交易拠点になっている」
彼はそう言って、懐から濡れた紙片を取り出した。
それは、カイルが戦闘中に落としたらしい封書だった。
封蝋には、議会の紋章と、見慣れない三つの星の印。
リリアが眉をひそめる。
「……三つ星の印。これは、議会の中でも“影の会議”と呼ばれる裏組織のものよ」
僕は息を呑む。
つまりカイルは、その中枢と直接関わっていたということになる。
「兄さんは……きっと島の奥へ向かった」
リリアの瞳には、悲しみよりも決意が宿っていた。
僕たちは港町での情報収集を開始することを決めた。
だがその夜――宿の扉を叩く音が響き、扉の向こうから聞こえたのは、聞き覚えのある低い声だった。
「……中に入れてくれ。話がある」