第26話 兄の告白
波と風が荒れ狂い、海の上は戦場と化していた。
カイルの刃と僕の剣が何度も打ち合い、火花が夜空に散る。
リリアは必死に魔脈石の力で船を守るが、その光は徐々に弱まっていく。
「これ以上やったら船が沈む!」アルタイルが叫ぶ。
だがカイルは一切手を緩めない。
「お前たちには引けない理由があるように、俺にもある」
彼の瞳に一瞬、ためらいが宿る。
その隙を逃さず、僕は彼の剣を弾き飛ばした。
刃が甲板に転がる音が響く。
リリアが兄に駆け寄るが、カイルは抵抗せず、その場に膝をついた。
「……リリア、あの日のことを話す時が来た」
彼の声は低く、波音にもかき消されそうだった。
「父と母を殺したのは……俺だ」
リリアの表情が凍りつく。
「でも、それは俺の意思じゃない。議会が放った魔脈術師に操られていた」
カイルは拳を握りしめた。
「魔脈石は、人を強くもするが、意志を奪うこともできる。
俺はその実験台にされたんだ」
リリアは涙をこらえながら問いかける。
「じゃあ、兄さんが魔脈石を奪おうとしてたのは……」
「二度と同じことが起きないように、すべてを破壊するためだ。
世界を守るためじゃない。俺の贖罪だ」
その時、追撃船から放たれた光弾が僕たちの船を襲った。
甲板が砕け、海水が押し寄せる。
カイルは僕とリリアを突き飛ばし、荒れ狂う海へと身を投げた。
――そして、その姿は闇と波に飲まれて消えた。