第24話 海上の邂逅
追ってくる黒帆船は、まるで海そのものを引き裂くような勢いで迫ってきた。
風が荒れ、波が高くなり、僕たちの小船は激しく揺れる。
甲板の上でリリアは魔脈石を握り、唇をきつく結んでいた。
「距離、あと五十――!」船長の声が風にかき消される。
その瞬間、黒帆船の甲板から一人の男が飛び降りた。
海面すれすれで爆ぜた水飛沫が、鋭い音を立てる。
着地と同時に、男の金髪が風に舞った。
琥珀色の瞳が、まっすぐリリアを射抜く。
「……カイル兄さん」
リリアの声は、波音に混じって震えていた。
カイルは一歩、また一歩と近づき、やがて僕たちの前で止まる。
「十年ぶりだな、リリア。生きていて……よかった」
穏やかな言葉。だがその奥には、鋼のような決意が宿っている。
アルタイルが間に割って入る。
「魔脈石を渡すつもりはない。あれは世界の均衡を保つ鍵だ」
カイルは小さく笑った。
「均衡? くだらない。均衡なんて、支配する者にとって都合のいい鎖だ」
そして、リリアを見つめる。
「妹よ。俺と来い。父母が築けなかった世界を、二人で作るんだ」
リリアは拳を握りしめる。
「……兄さん、私はあの日の真実を知りたい。けど、破壊じゃなく守るために戦う」
カイルの瞳がわずかに揺れる。
しかし次の瞬間、彼は魔脈石と同じ光を帯びた刃を抜いた。
「ならば――力で選ばせてもらう」
海風が唸り、船が大きく揺れる。
僕は剣を構え、リリアは魔脈石を掲げた。
――兄妹の再会は、同時に戦いの始まりとなった。