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第23話 封鎖島への船路

 まだ夜明け前、港には薄い霧が立ち込めていた。

 波止場に停泊する小型船の甲板では、船長が黙々と縄を外している。

 僕たちは、用意した最小限の荷を抱えてその船に乗り込んだ。


 「目的地は?」船長が低い声で尋ねる。

 アルタイルが答える代わりに、リリアが一歩前に出た。

 「地図から消された島――オルドレアまで」


 その名を聞いた船長の目が細くなる。

 「……あそこは海図からも抹消された危険地帯だ。金だけじゃ足りねぇぞ」


 アルタイルが小袋を投げる。

 じゃら、と金属音が響き、船長は肩をすくめて舵を握った。


 出港と同時に、港町の輪郭が霧に溶けていく。

 甲板の上、リリアは柵に寄りかかり、波間を見つめていた。

 「……十年前、家が燃えた夜も、海の音だけははっきり覚えてる」


 僕は彼女の隣に立つ。

 「兄さんを止めるって、迷ってない?」

 「迷ってるわ。……でも、このままじゃもっと多くの人が巻き込まれる」


 彼女の横顔は強く、そして脆かった。


 昼を過ぎたころ、アルタイルが不意に耳を立てた。

 「……尾けられている」

 僕たちが振り向くと、濃霧の向こうに黒い影が浮かんでいた。

 帆を張ったまま、こちらの進路を追ってくる大型船だ。


 「誰だ……?」僕がつぶやくと、アルタイルが答える。

 「おそらく議会の追手か、あるいは――カイル本人だ」


 船長が叫ぶ。

 「この速度じゃ追いつかれるぞ!」

 僕は甲板の下から武器を引き上げ、リリアも魔脈石を握りしめた。


 その瞬間、追ってくる船の帆が不気味な黒炎に包まれた。

 霧を裂き、琥珀色の瞳がこちらを見据える。


 ――カイルだ。


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