表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/36

第21話 裏切りの刃

 舞台の上で、魔脈石を握る暗殺者とリリアが向き合っていた。

 割れた仮面の奥から現れた顔は――淡い栗色の髪に、琥珀色の瞳。

 その目は、憎しみとためらいを同時に宿している。


 「……兄さん」

 リリアの声は、会場の喧騒の中でもはっきりと僕の耳に届いた。


 僕は耳を疑った。

 「兄さんって……どういうことだ?」

 リリアは一瞬だけ振り返るが、その瞳には説明を拒む影があった。

 「後で話す。今は――止めるしかない」


 暗殺者――カイルは低く笑う。

 「リリア、お前は何も知らない。アストリア家は罪を隠し、俺たちを捨てたんだ」

 その言葉に、リリアの手がわずかに震える。


 カイルは魔脈石を掲げると、周囲の兵に合図を送った。

 瞬間、黒衣の警備兵たちが動き、舞台と客席の間を完全に遮断する。

 観客たちは悲鳴を上げ、出口へ殺到するが、扉は全て封鎖されていた。


 「この石があれば……議会も貴族も、全て崩せる」

 カイルの声は確信に満ちていた。

 だが、アルタイルが一歩前に出る。

 「崩す? それはただの破壊だ。誰も救わない」


 僕はアルタイルと視線を交わし、同時に動いた。

 舞台袖から飛び出し、カイルに向かって突進する。

 刃と刃がぶつかり、火花が散る。

 カイルの動きは鋭く、迷いがない。

 ……それが余計に、リリアの心を抉っているようだった。


 「兄さん、やめて!」

 リリアが短剣でカイルの攻撃を受け止める。

 しかしカイルは力任せに弾き飛ばし、リリアを舞台の端へと追い詰めた。

 「お前も、奴らと一緒に滅びろ!」


 その瞬間、僕は体を滑り込ませ、リリアを庇った。

 刃が肩を掠め、熱い痛みが走る。

 だが同時に、アルタイルが背後からカイルの腕を極めた。


 「……離せ!」

 カイルは必死にもがくが、魔脈石は僕の足元へと転がり落ちた。

 それを拾い上げたリリアの手が、震えている。

 「兄さん……あなたが生きていたなら、私は……」


 しかし、カイルは何も言わず、煙幕玉を地面に叩きつけた。

 白い煙が舞台を覆い、次の瞬間、彼の姿は消えていた。


 煙が晴れる頃には、会場は無人に近くなっていた。

 魔脈石はリリアの手にあり、しかしその瞳はどこか遠くを見ていた。

 「……もう、逃げられないわね」

 その言葉は、僕に向けたものではなく、自分自身への覚悟のように聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ