表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/36

第17話 封鎖を解く夜

 鍵を手に入れてから、二日が経った。

 紅蓮反乱軍の外環拠点は沈黙に包まれている。

 裏切り者は捕らえられ、ハルドの命で「処理」されたという噂が流れたが、

 誰もその詳細を語ろうとはしなかった。


 夜半、僕たちは地下へと案内された。

 そこには、分厚い鉄扉が壁に埋め込まれている。

 扉の表面には奇妙な文字と、脈動するような淡い光の紋様が刻まれていた。


 「これが裏道の入口……?」

 リリアが息を呑む。

 ハルドは懐から銀色の鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。


 「本来、この扉は古代術式で封印されている。鍵はその術式の“許可証”だ」


 カチリ――と小さな音。

 次の瞬間、扉の紋様が赤く輝き、

 重い鉄が軋む音とともに、ゆっくりと左右に割れた。


 開いた先は、地下深くへ続く階段だった。

 空気は湿り、鼻にかすかに鉄錆の匂いが混じっている。

 「中環区までは、ここを三刻(約六時間)ほど歩く。

  だが……道中には“門番”がいる」

 ハルドが低く告げる。

 「門番?」

 「この都市を造った古代の守護者だ。魔物とも兵士とも違う。

  奴らはただ、“通る資格のない者”を排除する」


 僕たちは足元の石畳を踏みしめながら進む。

 階段は果てしなく続き、やがて空間が開けた。

 そこは巨大な円形広間――天井から滴る水が、響くほどの静寂を破っている。


 広間の中央には、黒い鎧をまとった巨人が立っていた。

 顔は兜に覆われ、胸部には赤く脈打つ宝石。

 その両手には、錆びつきながらもなお鋭さを失わない大剣が握られている。


 「――門番だ」

 ハルドの声がわずかに震えた。


 巨人の宝石が強く輝く。

 次の瞬間、耳をつんざくような轟音とともに、大剣が床を叩き割った。

 飛び散る石片を避けながら、僕は剣を抜く。

 「やるしかない!」


 戦闘が始まった。

 巨人は一歩踏み出すたび、地面が沈むような衝撃が走る。

 イレナの矢が宝石に突き刺さるが、刃先は弾かれる。

 「効かない……!?」


 その時、リリアが叫んだ。

 「胸の宝石じゃない! 左膝の継ぎ目よ!」

 僕とアルタイルが同時に駆け出し、巨人の左足に斬撃を浴びせる。

 ギリギリと嫌な音が響き、巨人の動きが鈍った。

 ハルドが渾身の力で宝石を叩き割る――

 轟音と共に、巨人はゆっくりと崩れ落ちた。


 広間の奥の扉が、ひとりでに開く。

 そこから吹き込む空気は、外環区とはまるで違う――

 どこか甘く、そして、懐かしい香りがした。


 「行くぞ。ここから先が中環区だ」

 ハルドの声に、僕たちは頷いた。

 だが、その時はまだ知らなかった。

 中環区の光の裏に、外環区よりも深い闇が潜んでいることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ