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第15話 赤い影の誓い

 路地裏を抜けた先は、迷宮都市の中でもさらに薄暗い一角だった。

 壁は煤で黒く染まり、窓は板で打ち付けられている。

 街灯らしきものは見当たらず、ただ赤い月の光だけがかすかに地面を照らしていた。


 「ここだ」

 ハルドが古びた鉄扉の前で立ち止まり、三度短く、二度長くノックする。

 すぐに扉が開き、屈強な男が顔を出した。

 「連れか?」

 「ああ。俺の命綱だ」


 その言葉に、僕たちは一瞬顔を見合わせる。

 命綱――それは、裏切れば自分たちが即座に切り捨てられることを意味している。


 扉の奥は、思った以上に広い空間だった。

 廃墟同然の外観からは想像できないが、中には武器や物資が整然と並べられている。

 壁際には、赤い布で顔を覆った男や女たちが地図を囲んで作戦を練っていた。


 「紅蓮反乱軍の外環拠点だ。歓迎はされないだろうが、気にするな」

 ハルドが奥の机に地図を広げる。

 「この都市には三つの中枢がある。核を安定させるには、少なくとも一つを掌握しなきゃならん。

  だが正面突破じゃ全滅だ。だから――裏道を使う」


 僕は地図の上に目を落とした。

 複雑に入り組んだ通路、その中に赤い印が三つ。

 「これが……裏道の入口?」

 「ああ。ただし入口は封鎖されてる。鍵を持ってるのは《市場区の密売商》だ」


 「それを取りに行く……ってことか」

 「察しがいいな」

 ハルドはニヤリと笑う。

 「お前たちには俺の仲間と一緒に密売商の倉庫に潜入してもらう。

  騎士団より先に鍵を奪えれば勝ちだ」


 その時、背後から女の声がした。

 「新入りのくせに随分大役だな」

 振り向くと、褐色の肌に片眼鏡をかけた女性が立っていた。

 腰には細身の剣、そして背には奇妙な形の弓。

 「私はイレナ。弓兵隊の指揮をしてる。足手まといなら置いていく」


 挑発的な視線に、僕は静かに答える。

 「心配無用だ」


 作戦会議が終わると、ハルドが僕たちを拠点の奥へ案内した。

 そこは小さな寝室が並び、粗末なベッドと毛布が置かれている。

 「今夜はここで休め。明日の夜明け前に出発だ」


 部屋に入る前、ハルドが低い声で付け加えた。

 「言っておくが、この都市じゃ“仲間”って言葉は簡単に信じるな。

  俺たちですら、背中を預けられるのは数えるほどしかいない」


 その目は真剣だった。

 僕はうなずきながら、心の中で自分に言い聞かせる。

 ――迷宮都市で生き残るには、剣よりもまず、心を守れ。


 夜更け、彼女は窓際に立ち、赤い月を見上げていた。

 「……また、戦うことになるんだね」

 「ここでは、それが日常なんだろう」

 「でも……私たち、元の世界に帰れるのかな」

 その問いに答えられなかった。


 ただ一つ確かなのは――明日の作戦が、僕たちの運命を大きく変えるということだった。

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