第10話 誓いの夜明け
十度目の八月十二日、深夜。
砕けた銀の杯を足元に、私はリオネル様と向かい合っていた。
彼の灰色の瞳は怒りと悲しみで揺れている。
「……君は、俺のために死のうとした」
その声は低く、震えていた。
「でも百年前、俺は同じことをしたんだ」
「え……?」
リオネル様は視線を床に落とし、語り始めた。
「ルシアンだった頃、エリシアを生かすために俺は一人で誓いを立てた。
その瞬間、俺は死に……誓いは失敗した。
――二人とも生きたいと願わなければ、儀式は完成しないんだ」
その言葉は胸に深く刺さった。
百年前も今も、どちらも相手を生かそうとして自分を差し出そうとした。
それこそが、この永遠の繰り返しを生んだ原因だったのだ。
「……だったら、どうすればいいの」
「簡単だ。どちらも、互いと自分の両方を生かすと誓う」
彼は砕けた杯を拾い上げ、その破片を月明かりにかざした。
「新しい杯を作る。誓いをやり直す」
満月が再び雲間から現れた。
私たちは修復した杯に、互いの血を一滴ずつ落とす。
そして声を揃えて誓った。
> 「互いの命を守り、共に生き抜くことを」
杯を口に運んだ瞬間、眩い光が辺りを包み、心臓が強く打った。
次に目を開けたとき――外の景色は朝日に染まっていた。
時計の針は八月十三日を指している。
リオネル様が静かに笑った。
「……やっと、終わったな」
私はうなずき、その温もりを確かめるように彼の手を握った。