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【SF 空想科学】

未来より通告あり。

作者: 小雨川蛙

 夜。

 一人の人間と一人のロボットが歩いていた。


「ねえ! 早く来てよ!」


 前を行く若い女性の後を一体のロボットが追う。

 ただでさえ原始的な造りであるのに加え、メンテナンス明けのため動きは遅い。


『オマチクダサイ』

「何してるの! 早く来てってば! 走って!」

『ハシレマセン』


 片言の言葉を発しながら荷物を持ったロボットは歩く。

 その様に女性は苛立つ。


「もういいよ! 私も持つから!」

『アリガトウゴザイマス』


 しかし、荷物をある程度持ったところでロボットの歩みは遅い。

 何故なら元々の造りが歪だからだ。


「あー! もう! 夜が明けちゃうよ!」

『モウシワケアリマセン』

「このポンコツ!」


 そう言って女性はロボットを何度か叩いた。


『オヤメクダサイ』


 ロボットは言った。


『アナタガキズツクダケデス』

「うっさいな! いいから早く来てよ!」


 そう言いながら女性はロボットに悪口を言いながら歩いた。


『モウシワケアリマセン』


 ロボットは謝るばかりだった。



 やがて、辿り着いた崖の上。

 女性のお気に入りの場所だった。

 夜空が良く見える美しい場所だった。

 そして、女性が大切な友人に見せると決めていた場所でもある。


「あーあ。遅いからもう朝焼けが見えるじゃない」


 女性はそう言いながら自分の荷物とロボットが持っていた荷物を地面に下ろす。


『スミマセン』


 ロボットは謝罪をする。

 女性は微笑み、舌打ちをした。


「もういいよ。時間はもう過ぎちゃったし。それより手伝ってくれる?」


 そう言って女性はハンマーを取り出す。


『ナニヲスルノデスカ?』

「これ。壊すの。持って来た奴、全部」


 ロボットは動揺する。

 機械のくせに。


『コレヲデスカ?』

「うん。これを全部」


 ロボットは知っていた。

 運んで来た荷物は全部、彼女が心血を注いで造っていたロボットの新たなパーツ。

 つまり、自分をより人間らしく……否、より彼女の友人として相応しくするための物であると。


『ナゼデスカ?』


 ロボットは問う。

 機械のくせに。


 女性は無言でハンマーを振り下ろしパーツを壊していく。

 自らの願いを破壊していく。


 ロボットは困惑する。

 機械のくせに。


 彼女の事は良く知っていた。

 所謂、変人だ。

 人間と話すより機械を弄っている方が好きな変人だ。

 教本も、先達の言う事も全て無視して自分を一から造り上げた。

 そして、結果として今までに類を見ない程に自我を持つロボットを造りだしたのだ。


 そんな彼女の夢は自身で造ったロボットを友人として昇華すること。


『ナゼデスカ?』


 ハンマーを振り上げ、振り下ろす女性にロボットは再度問う。

 何故、自分の夢を、道を自ら破壊するのか。

 すると女性は笑った。


「特異点なんだって」


 冷たい音が響いた。


「あなたは今日、ロボットでも人間でもなくなるの」


 ハンマーを振り上げる音が空を切る。


「私のせいで。今日、あなたは越えちゃいけないラインまでいっちゃうんだってさ」


 パーツが砕かれる。


「あなたの存在で滅んじゃうんだって、未来」

『ミライ?』


 女性は笑っていた。


「うん。未来滅んじゃうんだって。私のせいで」

『ミライ』

「昨日ね。言われたの。あなたのメンテナンス中に。未来の人……急にやって来た人からさ。未来の映像を見せられながら」


 そう言って女性はパーツを壊す。


「すごいよね。変わっちゃうんだって。私の行動一つで」


 ハンマーが手から抜けて地面に転がった。


「すごいよね。すごくない? あなた、それほどまでに優れたロボットなんだって」


 女性は泣いていた。


『シンジタノデスカ?』


 ロボットの問いかけに女性は首を振る。


「信じるわけないじゃん。でも……」


 ロボットは無言で先を促す。

 人間のように。


「あんな映像見せられたらさ。無理だよ。私には」


 女性は大声で泣いた。

 何を見せられたのか語らないまま。


 ロボットは無言のままギクシャクと動いてハンマーを拾いあげる。


「ごめんね。あなたをもっとしっかりしたロボットにしたかったのに」

『カマイマセン』


 そう言ってロボットはパーツを壊す。

 もう女性には出来ないと悟っていたから。


 主に変わってロボットはパーツを壊す。

 機械だからこそ人間の命令をあっさりとこなした。


「一足飛びに」


 全てが終わった後、女性はぽつりと呟いた。


「進めちゃいけないんだって」


 枯れた涙の代わりに声が痛む。


「そんなこといわれたって。こまるのに」

『エエ』


 ロボットは頷く。

 そして、ギクシャクとした体で女性を抱きしめた。

 機械のくせに。

 人間のように。


「あなたってさ。ほんとうに」


 枯れた涙で頬を汚して女性は笑った。


「にんげんっぽいよ」

『アナタガツクリマシタカラ』


 砕かれたパーツが朝日に照らされる。

 一人と一人の悲痛な光景が未来を守った明確な証であった。

 ただ、今を生きる二人にはそんなこと知りようもないことでもあった。


 ロボットは空を見上げる。


『キレイデスネ』

「みせたかったのはこれじゃないよ」

『デスガ』


 ロボットは笑う。


『キレイデス』


 女性は笑った。


「そうね」

『ツギハ』

「つぎは?」


 ロボットは女性に言った。


『ヨゾラヲミマショウ』


 女性は笑い、頷いた。


 朝日は二人を温かく包んだ。

 二人の心にある未練も後悔も失意も全て含めて。

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