11.教会からの使い(2)
「ロイド、執政様に会っていたって本当?!」
かくて艶やかな錬金術師との面談が自分でもよく分からないまま終わると、教室への帰り道、鞄持ったソフィーがさも心配げに声を掛けてきた。どうやら6時間目の授業――5年生はロイドが怪我をおしてまで出ようとした神話――はすでに終わり、彼女はじめ学生たちは皆帰る準備していたらしい。あちこちでお喋りやじゃれ合いに戯れる子供たちの姿が見受けられる。そう、かように今は神学院の一日でもっとも賑やかかつ気楽な、ようやく堅苦しい勉強の時間から解放された瞬間なのだ。
もっともそんな活気溢れる空気はなぜかただ一人ロイドに疎外感めいたもの感じさせ、ゆえに彼は妙に寂しい想い抱えたまま、ようやく心配性の友人へ落ち着かせようと答えたのだった。
「うん、まあね」
「何かあったの、急にやって来るなんて?」
「この前ボルグと遭ったことについて、ちょっと聞かれただけさ。すぐ終わったよ」
「ふうん……」
対してソフィーはやや物問いたげだったものの、しかし確かにロイドが応接間から比較的すぐ戻ってきたこともあり、それ以上詳しく聞こうとはしなかった。というより、むしろ彼女の方から伝えたいことがあったようで、すぐに話題は切り替わっていたのである。
「あ、それよりロイドに伝言よ!」
「伝言?」
「ついさっき寮から管理人さんが来て、あなたに伝えてほしいことがあるって頼まれたの」
その一言は少年に戸惑いの表情浮かべさせる。何といっても今日はイザークとの一件以来、色々イベントの発生する慌ただしい一日だった。
「ドミトリさんが、僕に?」
むろんちゃんと伝えたい気持ちで一心のソフィーは、そんな徒労も含まれた心の内、あまり感じ取っていなかったようなのだが。
「今日の午後、あなたに来客があったようなの。でも今は学院へ行っているとドミトリさんが言うと、じゃあ自分はこの店にいるから、良かったらロイドに来るように頼んでくれ、色々話がある。――そんな内容よ」
そしてそこまで説明すると、ソフィーは文字の記されたメモ紙を少年へ手渡した。そこには黒い文字で、侍人区にある酒場の名前が記されていた。
当然ながらロイドはそのメモに目を大きく見開かせる。
「また、来客……。でも一体どんな人なんだろう?」
「管理人さんはその時忙しくて少し会っただけだから詳しく名前とか聞いたわけじゃないけど、とにかく若い男性だったそう、ロイドに会いに来たのは」
「若い――え!」
と、突然ハッとしたような声上げたロイド。
そう、途端脳裡にはファイの姿がはっきりと浮かんでいたのだ。何よりつい先ほど執政からあの錬金術師についての情報提供求められたこともあり。
当然ながら、彼の気持ちは分かり易くも疾く逸り出してさえいた。
「この店に、その人がいるんだね?」
「うん、そうだけど、……行くの、そこへ?」
「もちろん。僕にも、早く伝えなきゃいけないことがあるから」
すると少女が探るように問うてきたが、対して灰髪の少年はいよいよ意を決したように、そして真剣な眼差しでその顔見つめ答えていたのだった。
「――何だか、嫌な予感がするんだ」
……すなわち、応接間で会ったあの銀の髪輝かせた女性に、少なからぬ妖しさしかと感じ取ってしまっていたのだから。