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モジャヒゲおじさんと新人美容師

作者: 蒼花

美容室で髪を切ってもらっていた時にふと髪を切る髭を剃るというのは結構な信頼関係が必要では?と思い勢いで執筆してしまいました。駄文かもしれませんが楽しんでくださると幸いです。

 鏡の前に1つの椅子が置いてある室内、その名前の由来となった澄んだ青色の髪をポニーテールにまとめた少女は独り呟いた。


「今日も全然お客さん来ないなぁ…私やっぱり才能ないのかな。」


 彼女の名前はアクアこの小さな美容室アクアマリンの店長であり美容師である。

(せっかく自分の店をもてたのにこのままじゃ潰れちゃうよ、わたしって才能のない女なんだな)

 彼女の思う通り正直彼女は美容師としての才能には恵まれていなかった。手先はお世辞には器用とも言えず毎日遅くまで練習をしてやっと美容師になれたのだ。

 この国では美容師とは国が認めたものしか名乗れない国が承認した技術者である。刃物をもって人に触れるのだ。そんじょそこらの素人が店を開いて流血沙汰になっては困ると、国がしっかりと管理している。

 美容師のなり方はまず美容師の元で最低3年見習いをし美容師の推薦をもってして国が毎年開催する試験に合格しなければならない。

 彼女は王都で1番の上流階級の方々すら通う美容室で8年の見習いの末にやっと合格できたのだ。

 8年目で美容師になれなかったら行遅れになってしまうと両親が心配をし用意したお見合いをさせられて半ば強制的に嫁に送られるところだった。


 彼女は2ヶ月前に合格すると王都の端の空き家を借り8年間見習いで貯めた貯金でこの美容室を開いた。

 ところがこんな王都の端の小さな美容室に訪れる客などおらず毎日閑古鳥がないている始末だった。

 どうしようそろそろ資金繰りが厳しくなってきてしまっている。どうにか打開策はないかと考えていると店のドアが開き、ドアに付いている鈴がチリンチリンと可愛らしく音を立てた。


「いらっしゃいませ。今日も来てくださったんですか。ありがとうございます。」


 アクアはそう笑顔で応える。この店の唯一の常連客であるキセロさんである。

 少し大きめの身体は歳だろうか少しお腹が出ているがスーツを着こなし清潔感がある。

 しかし彼の最も目の引くところは顔である。顔立ちは優しげで特にこれと言ったところはないが、彼の一番の特徴はその髭である。たっぷりとモジャモジャとした黒いヒゲをたくわえている。これが白かったらまるでサンタさんみたいであろう。


「すまない、今日も頼めるかな?」


 そういうと片手をあげてアクアに優しく微笑む。


「はい、分かりました。今日はどうされますか?いつものようにおヒゲを整えるのでよろしいでしょうか?」

「あぁ、それで頼む。」

「それでは椅子にどうぞ。」


 彼女は彼を椅子に案内するとリクライニングを軽く倒し彼の首元にタオルをかけた。

 この常連客のおじさまは少々変わっており、髪をカットすることもあるが基本は2日に1回現れてはすぐ伸びてしまい手入れが大変だというヒゲの手入れをお願いしてくるのだ。


「それではおヒゲを少しカットして形を整えさせていただきます。」


 そうすると彼女は慣れた手つきで彼のひげの伸びすぎた部分をカットし整えていく。

 決して早くはないがその手つきからは丁寧な仕事が見て取れる。


 しばらくしてヒゲの形を整え終わると彼女は整えたヒゲの周りの短いヒゲやモミアゲを整えるための泡を準備し始めた。そうしているとおじさまが話しかけてきた。


「失礼なことを聞くが、いつ来ても空いているが店の経営は大丈夫なのか?」


 その言葉に一瞬手が止まってしまったがアクアは平静を装い


「正直に言うとギリギリではあります。お客様にこういってしまうのは美容師失格ではありますがキセロ様以外に常連客は居ないのが現状です。」

「そうか…すまない、言いづらいことを聞いてしまった。話題を変えよう。そういえば王都の2番通りの端に新たなケーキ屋ができたのは知っているか?」


 接客の雑談も美容師の仕事の一つではあるが私はキセロ様のお話するのが大好きだった。彼はいろんな話を知っていてくだらない噂話から各地の名物、最近のトレンドまで幅広いレパートリーを持っている。


「アクアさんは聞き上手だよね、いつもついつい話しすぎてしまう。」

「いえいえ、そんなことはございません。キセロ様のお話が面白いからつい聞きいってしまうのです。」


 私は憧れだった自分の店でキセロ様と雑談しながら仕事をするこの時間がいつまでも続けばいいのにと心のなかで思っていた。


「仕事ぶりも丁寧で客との雑談も上手い、このことが知れ渡ったらわたしもこうほぼ毎日のようにこれなくなってしまうかもな。」


 自分の仕事ぶりを褒めていただいて私はとても幸せだったが彼が言った来れる回数が減るという言葉に少し胸がチクリと痛んだ。


 そして1週間がたちその間もキセロ様は2日に1回通ってくださってはいたが、私は徐々に忙しくなっていっていた。


 なぜかここに来て急にお客様が増えてきたのだ。

 初めていらっしゃったおばあちゃんが


「街でね、王都の端にとても腕のいい美容師がいるって聞いてね来てみたの、噂以上の腕で私感動しちゃった。」


 どうやら私の店がいま話題になっているらしい。それをキセロ様にお話するとヒゲの手入れに来るだけのおじさんが邪魔しちゃいけないからとその日以降は閉店前の一番最後の時間に来るようになった。


 そうして忙しい日々が二月ほど続いたある日キセロ様から


「このあと時間はあるかい?もし時間があるなら一緒に食事でもどうかな?この前話した海鮮料理のお店の予約が取れたんだ。アクアさんの都合が良ければ一緒にいかないかい?」

「えっと、ありがとうございます。閉店作業が終わったらそのまま帰るだけでしたので時間はあります。」


 急なお誘いにびっくりしてしまい私は思わず受け入れてしまった。自分でも発した言葉にびっくりしていると


「それではこのあと店の前に迎えに来る。店の前で待っていてくれ。」


 そう言われてしまい私は小さく「はい」と頷くしか無かった。


 閉店作業を終え店の前で待っていると立派な馬車が急に目の前に止まった。馬車の扉が開くと中からキセロ様が現れ私の手を取ると「お迎えに上がりました。」と言い、そのまま馬車にのせられてしまった。

 キセロ様の衣服や立ち振舞でただの一般人ではないと思ってはいたが馬車に家紋がついていたのを見て、まさかお貴族様だったなんてと驚愕していた。

 そのまま王都の一等地まで連れて行かれて見るからに平民の私が入れるはずのないお店の個室に連れて行かれた。


「あの、わたしただの平民なのでテーブルマナーとか分かりません。それにこんな高級店わたしには不釣り合いです。」

「個室だから気にすることはないよ。わたしは今日君と客と美容師という関係ではなくアクアさんとわたしという2人の人間として話したいんだ。」


 そう言われてしまうと無下には出来ないと諦め、わたしは料理を待つことにした。


 出てくる料理は見たこともないもので生の魚という港町以外では食べられない珍味まで出てきた。

 食事中にキセロ様と色んなことを話した。

 私が見習いだった頃の話やキセロ様の貴族との交流で大変だったことなど普段美容室で話す当たり障りのない会話ではなくお互いを理解する会話はなぜかとてもあたたかかった。


 デザートのケーキを食べ終わると急にキセロ様に謝られた。


「アクアさん、今日はすまなかった。」

「どうしたんですか急に!頭を上げてください。」


 私は何か謝られることがあったかと記憶を掘り起こすが何もわからなかった。


「話すと長くなるのだがいいだろうか。」


 キセロ様にそう言われると私は座り直して話を聞くことにした。


 キセロ様は元はただの平民の商人だったらしい。そして、若いときに奥様を失っているらしく、奥様の残した一人息子を大事に育てようと一層商売に精を出し国一番の商会に上り詰めた。その途中で貴族相手の金貸しを始めたようで表向きは別の理由らしいが貴族が平民に金を借りまくっているというのは評判があまり良くないらしく貴族に叙されたらしい。


「君は覚えてないそうだが私は君が見習いとして働いていた頃を知っている。あの美容室には私も通っていたからね。8年間も必死に修行するなんて普通は出来ない。たいてい5年で卒業できなかったら勝手に辞めていくのが美容師の世界だ。そんな中必死で足掻き努力する君に亡くなった妻を思い出したんだ。2人で必死に商会を大きくしようとあっちこっち回って歩いた日々をね。」


 見習いの頃なんてお客様の顔を覚える余裕がなくてキセロ様がいらしていたなんて知らなかった。


「そんな君がふと店からいなくなったから店長に聞いてみたんだそしたら8年かけてやっと美容師に合格してここに勤めるかと思っていたら夢だった自分の美容室を開いたとね。頑張って探したさ、そうして君の店を見つけて通い出したんだ。最初はびっくりしたよ。こんな場所で開いたところで客の目にもつきにくい、すぐ潰れちゃうじゃないんかって心配してしまったんだ。最初はただの遊興で通っていたようなものだったんだよ。だけど君の丁寧な仕事と人柄に亡き妻に似た人ではなくアクアさんという個人に惹かれていってしまったんだ。それで君の店について隠れ家的お店だが腕の良い美容室があると噂を流したんだ。」

「最近お客様が増えたのはそういうことだったんですね。」


 自分の腕が世間に認められてお客様が増えたのかと思っていたので少し自惚れていた自分が恥ずかしくなり俯いてしまった。


「勘違いしなくていいよ。噂を流したのはほんの一瞬だ。それでも未だにお客様が来ているのは君の腕が確かだからだ。自信を持ってくれ。」


 キセロ様にそう言われると自分の努力が無駄じゃなかったと思うと少し嬉しかった。


「さて、ここからが少し恥ずかしい話なんだが。」


 そう言うとキセロ様は立派な髭をさすりながら


「君は仕事だとわかっているが私以外の男性客と接しているところを見て嫉妬してしまったんだ。君と私では親と子ほどの年齢差がある。それでも私は君が欲しくなってしまったんだ。今日少々無理やり連れてきたのも何とか君の気を引けないかというものだったんだ。」


「私はキセロ様のことをよく思ってはいます。ですが私はしがない平民の美容師で恋などしたことがなくキセロ様と上手くいくとはおもえません。」


 総拒否するとキセロ様は豊かな髭をさすりながらニヤリとしながら私に問いかけた。


「私の髭を他の女性が手入れしていたらどう思う?」


 キセロ様の髭を私以外の女性が手入れしながら楽しそうに話しているのを想像すると、私の心に何とも言えないモヤモヤが広がっていった。


「なんかちょっと嫌な気持ちになります。」

「なら我が家に住み込みで私の専属の美容師として来ないか?今の店を続けても良い。むしろ私が積極的に支援しよう。」


 キセロ様は嬉しそうに提案してくれた。


「その提案は嬉しいのですが店への支援はお断りさせてください。キセロ様が噂を流してくださったおかげでお客様が来るようになったのは確かですが私は自分の腕で勝負したいのです。」

「わかった。支援はしない。でも私はそういう君の強いところが好きだぞ。」


 結果として私はキセロ様のお家に住み込みで専属の美容師としても仕事をすることになった。

 食事から1週間後の休みの日私は8年間お世話になった貸し部屋を出て、キセロ様の家に引っ越すことになった。荷物は毎日帰ってきてから少しずつキセロ様の使用人がいらして持っていってくださったため今日は大きなバッグ一つだけもって貸し部屋の建物前に来たこの付近の街並みに不釣り合いなキセロ様の家の馬車に乗り込んだ。


 キセロ様はどうやら既に息子に家督を継ぎいまでは目の前にある小さな邸宅に少ない使用人とともに暮らしているらしい。国一番の商人の家としては小さいかもしれないが庶民からしたら立派なお家で広めのお庭は手入れされていて様々な花が咲いていた。


「はじめまして、私はキセロ様の執事をしている者です。アクア様のお部屋を案内されていただきます。」

「いえいえ、立場としては私のほうが下なのですから敬語でなくても大丈夫です。」

「いえ、キセロ様の命ですからお気になさらず。」


 私に対しての対応に違和感を感じながらも後ろをついて行った。


「ちょっとどういうことですか!キセロ様聞いてた話と違います。これではまるで私が嫁に来たようではないですか!」


 部屋を案内してもらったあと執務室にいるキセロ様に文句を言いに行った。

 なんと案内してもらった部屋がキセロ様の部屋の隣、本来ならキセロ様の奥様が使うであろうお部屋だったからだ。


「どうした?急いで改装したのだが気に入らなかったか?」

「気に入る気に入らないの問題ではございません!私は専属の美容師として、要は使用人として来たのです。ですがあの部屋では私が他の使用人になんて思われるか…」


 もうすぐ25歳になるとはいえ、若い女性がこの家の主人の隣の部屋に入ってきたのだ。そしてキセロ様は若い頃に奥様を亡くし今は独身、端から見たらどう考えても後妻として入ってきた女性にしか見えない。よく考えてみると毎日少しずつ引っ越しの荷物を取りに来たり、馬車で家の前まで向かいに来たり、執事の方の接し方だったりと違和感を覚えたところも実は優しい方だったというわけではなく、私を新たな妻として出迎えるためだったと考えると納得がいった。


「お話では専属の美容師としてこの家に住むというお話でした。ですがこれではまるで先ほども言った通りまるで私がキセロ様の新たな妻ではないですか。」

「私は専属の美容師として家に来ないかといったが使用人として家に来ないかとは言っていないよ。それに私以外に想い人がいるのかい?」

「うぐ…そう言われると、別に想い人がいるわけでもないですが、やっぱり身分が…」

「私も元はただの平民の商人だったよ。別に青い血が流れているわけでもない。それにもう息子にあとを継いだ隠居人だ。パーティーなどに出席する義務もない。」


 私は何とか断る理由を探そうとするが口では百戦錬磨の商人であるキセロ様に勝てるわけあらず、どんどん隅に追い込まれているように感じた。


「そういえば君の両親にはもう話は通してある。娘さんをくださいと話したときは変な目をされたが結局喜んで娘をよろしくお願いしますと言ってくれたよ。」


 両親もどうやらすでにキセロ様側に取り込まれているらしい。もう逃げ場は無いと悟った私はキセロ様の妻として生きようと思った。正直25まで恋人の一人もおらず仕事一筋で独身のまま生きようと思っていたので結構簡単に諦めがついた。


「分かりました。それではキセロ様これからよろしくお願いします。浮気なんてしてはいけませんよ。こんな一生独身を覚悟した行遅れを拾ったんです。もし裏切ったらハサミでドス!ってします。」


 そういうとキセロ様は顔を赤らめ嬉しそうな表情をしてくださいました。キセロ様のこんな表情は初めて見たので一矢報いたと小さく心のなかでガッツポーズをしました。


「すまない。私は君が惚れてくれるような美丈夫でもなければ若さもない。君を手に入れるために狡猾に動くしか手段がなかったのだ。そんな小さな男で良ければこの手を取ってくれ。」


 そう言うとキセロ様は椅子から立ち上がり私の前に来ると跪くと片手を私に差し出した。


「分かりました。私は恋をしたことが有りませんが多分キセロ様のことが好きなんだと思います。それにこんなまどろっこしいことをしたんです。しっかり愛してください。」


 私はそういうとキセロ様の手を取りその手に口づけを落とした。


「あの頃はわたしには力がなく大切な人を救えなかった。だが今は全力で君を幸せにしよう。」


 キセロ様は立ち上がり私を抱きしめてくださった。暖かくて安心するが顔に髭が当たって顔の感触は何とも言えなかった。


「キセロ様髭が顔にこすれて痛いです。をもう少し短くしませんか?」




 そしてキセロ様の家に来て数カ月後、私とキセロ様の結婚式がキセロ様の御屋敷の庭で行われた。お互いの家族とキセロ様の使用人だけの小さな結婚式だがお庭には色とりどりのお花が咲く中でキセロ様の選んでくださった美しいウェディングドレスを着れてとても幸せだった。両親が感動で大泣きしていて少し恥ずかしかったけれど。


「はじめまして、アクア様。私はキセロの息子でスタンリー家の当主を務めています。ヨーク・スタンリーと申します。父上は若い頃に私の母を亡くしてから頑なに後妻を娶ろうとしなかったのですがこの度アクア様が父上と結婚すると聞いてとても安心しました。父上は少々変わったお方ですがよろしくお願いします。」

「こちらこそご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします。」

「ヨークの妻のアリス・スタンリーです。これからよろしくお願いしますね。お義母様」

「いえいえほとんど年齢が変わらないのにお義母様なんて呼ばなくても…」

「それならアクア様私たち友達になりましょう!今度私の家てお茶しませんか?身内だけのお茶会ですので気楽だとおもいます。是非いかがですか?」


 キセロ様の息子夫妻のヨーク様とアリス様は美男美女の夫婦で商人上がりの子爵で高位貴族の血が欲しいというスタンリー家とスタンリー家の財力が欲しい伯爵家との間の政略結婚だったらしいがお互いに惹かれいまでは貴族社会の中では1番のおしどり夫婦らしい。

 キセロ様曰くアリス様の実家は身分にうるさくない家らしい。

 私は新しいお友達もできて嬉しい気持ちのまま両親の元に向かった。


「良かったねぇ…ぐすっ、アクア正直お母さんはお前の花嫁姿が見れるとは思ってなかったから本当に嬉しいよ。」

「お母さん泣きすぎだよ、正直恥ずかしい。」


 結婚式が始まってからずっと泣いているお母さんをなだめているとお父さんとキセロ様がワインをもって歩いてきた。


「そうだぞ、泣きすぎだ。」

「あなただって式が始まった頃は泣いてたじゃない。」

「うるさい!あれはホコリが目に入っただけだ!」

「お義父様、あの涙の量をホコリは無理があります。」

「同年代の男にお義父様とは言われたくない!」


 お父さんとキセロ様はとても仲が良さそうで安心しました。


「アクア、私は今とても幸せです。」


 そう言うキセロ様の顔は以前と違ってモジャは短く整えられていた。キセロ様曰く前の奥様が亡くなったときから伸ばしていたのだがこの度私と結婚するのだから未練を引きずってるようではダメだということで短くしてくれと頼まれたのだ。

 髭を短くしたキセロ様は以前は優しげな印象だったのが若返って見えてキリッとしたかっこよさが出てきた。


「はい私もとても幸せです。これから末永くよろしくお願いしますね。」




 そうしてその後隠居していたキセロ様はスタンリー商会に復帰してその敏腕で国一番の商会から大陸一の商会まで一代で上り詰めた。その横には美しい青髪の女性がいつまでもおり、死が2人を分かつその時まで仲睦まじく暮らしていたという。




 数十年後

「お義理祖母様、お身体の調子はいかがですか?」

「ひいばぁちゃん、死んじゃ嫌だよ…」

「この青いお花好きだったでしょ。元気になって。」

「今年も綺麗に咲いたんだ。僕たちも水やりしたんだよ。」


 私アクアは大きなベッドで横になっていた。もう年なのだろう体が重く思うように動かせないが私を受け入れてくれた家族を見つめていた。レオン、ヨーク様とアリス様の息子でスタンリー商会の三代目当主だ。小さい頃はほぼ毎月髪を切りに私の元へ来ていておばあちゃんと慕ってくれていた。横にはレオンの子供たち3人が泣きそうな顔をしながら、キキョウの花を持ってきてくれていた。


「自分の体のことだから自分がよくわかっていますよ。そろそろ迎えが来る頃合いなんです。キセロ様が亡くなってから10年も経ってしまいました。そろそろ私が髪と髭を整えに行かなくては、伸び放題なはずです。みんな仲良く暮らすんですよ。向こうで待っています。来たらキセロ様と待っていますからいっぱいお話聞かせてね。」


 そういうと意識が遠くなっていく、みんなの泣く声が遠くで聞こえる。みんな泣かないでね。私はキセロ様やヨーク様、アリス様、多くの家族に囲まれて幸せだった。


 キセロ様今そちらへ行きます。10年間誰にも髪と髭を切らせていませんよね?切らせていたら嫉妬しちゃいます。あなたの身だしなみを整えるのは私の仕事ですから、、、


キキョウの花言葉

「永遠の愛」「変わらぬ愛」「誠実」「気品」


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