第0話 覚醒と涙と世界
むかし、むかしまだ夜空に浮かぶ月が2つあった頃、
世界は魔素に満ちていた。
溢れるマナで人々の生活は豊かになり、
豊かさはやがて格差を生み、格差は争いの火種となった。
争いの歴史の中で呪いが拡散され、やがて大地は瘴気に覆われた。
瘴気が蝕む大地では生命は育たず、
魔物が跋扈する暗黒の時代が始まった。
それから数千年の時が過ぎ、
世界には再びマナが満ちていた。
これは、長い時を超えて目覚めた一人の竜の物語。
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暗い、暗い、闇の中。
頭の中に声が響くーーー
ーー起動シークエンス確認、、、、、
ーー記憶領域に破損あり、修復にはエネルギーが不足。
ーー制限モードでの起動を実行、、、
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ーーーーー成功
ぼんやりと、目の前が明るくなり、意識が覚醒する。
少年は体を起こした。
そこは灰色の小部屋で壁はあちこちひび割れていた。
天井近くの壁からは木の根が飛び出している。
少年はおぼつかない足取りで小部屋から出ると、
大理石のように冷たく、平滑な床をひたひたと歩く。
薄暗い廊下は壁に埋め込まれた照明が弱く照らしていた。
何度か壁に突き当たり当てずっぽうで右に左にと曲がりながら進むと、前方が明るくなって来た。
最後の突き当たりを曲がると、そこには世界が広がっていた。
崖崩れによって地中にあった通路が途切れ、
目下には大きな湖の水面が揺蕩っていた。
途切れた通路の端に立ち、初めて目にした世界に目を見開いた少年は訳も分からず溢れてくる涙を拭おうとして、
意識を失った。