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好きじゃ無いはずだった

朝の教室

新しく買った本を読む

優しいあの子を待ちながら



「あ、ここ!おっはよ〜」


彼女は棚葉由美(たなはゆみ)私の親友だ

ここ と言うのは私のあだ名で本名は心音(ここね)


「それ新しい小説⁉︎」

「そうなの、最近買ったんだ〜」

「また推理小説?」

「うん!」

「推理小説好きだよね〜今度おすすめの推理小説貸してあげる!」

「ありがと〜!」


由美が私のために何かしてくれるのが嬉しい

由美と笑い合えるのが嬉しい


「おっは〜」

「おはよう高貴」

「おはよー」


彼は高貴

由美の幼馴染で私たちの友達 


「今日も元気だね〜ゴリラみたい」

「由美にだけは言われたく無い!」


二人を見ていると自然に笑みがこぼれる


「漫才見てるみたい」

「マジで⁉︎俺芸能人になれるかも!」

「あんたがなれるわけないでしょ?夢を見るな」

由美がズバッとツッコミを入れる

「ひっどーい!失礼しちゃうわ♡!」

「キモ」

「あれ」


笑ってしまうほど楽しいけど何か違う

この雲って見えない感情はなんなのだろうか


「次体育だ〜無理〜」

由美が私に寄りかかってくる

「私も無理〜」

「サボりたい」

「由美がそう言うなんて珍しいね」

「だってダルぃ〜」

「仕方ないなぁ、サボりの神ここね様が清く正しいサボり方を教えてあげよ〜」

「ありがと〜ここ、清く正しいかはわからないけど」

屋上


「ここ、なんで鍵もってんの?」

「ふふ、私は優等生だからね、先生に信頼されてるんだよ」

「おー!さすが先生のお気に入り」

「お気に入りて」

「でも私初めて屋上入ったよ〜あ、高貴みえるよ!」

体育でリレーをしているようだった

「頑張れ〜」

小声で本心が漏れ出たように応援する由美はとても可愛い、でもまた見え隠れする曇った感情が出てくるようで複雑だ

「高貴負けちゃった、、、」

「仕方ないよ、相手チームに陸上部二人もいるし」

「そうだけど〜マネージャーとしては勝ってもらいたかったんだよねー」

由美は男子バレー部のマネージャーで高貴は男子バレー部に入っている

「仕方ないよ、それよりスマホ持ってきた?」

「もち!」

「まだ時間あるしあれやろ!」

「え〜」

「やだ?由美猫好きじゃなかったっけ?」

「猫は好きなんだけど、だからこそ倒れる姿見たらウッてなるんだよね〜」

「なるほどね〜」

あれと言うだけで伝わるのが嬉しい

これが曇った感情なのだろうか


授業が終わり、二人で教室まで歩く


「おーい」

高貴が不服そうな顔しながら駆け寄ってくる

「お前は体育サボっただろ!」

「いいじゃん別に」

「いいじゃんいいじゃん!」

「良くないだろ!しっかり動かないと太るぞー」

「うっわ最低」

「その口縫うぞ」

由美に続いて私もいいかえす

「怖い怖い

そんな酷い事言うならもういいです!あっちいきます!」

「はいはい」

「あ、そう言えば」

私が由美に話しかけた時

「うわぁ!」


恥ずかしい事に段差もなにもないところで転んでしまった。しかも親友の前で

あれ、足捻りそう、目の前階段

なんか周りがゆっくり動いてる

やばい、部活の大会いつだっけ

ここで怪我したら私に期待してくれてた人を裏切っちゃう、せっかくインターハイ出られるのに

掴める場所は?転ばない方法は?

探しても探しても答えが出てこない


「ここ!」

由美が私の腕を掴んで時間もゆっくりじゃなくなる

「ここ大丈夫⁉︎痛いところは⁉︎」

「あ、足、痛い」

私の顔は絶望に変わる

痛いままで怪我をしていたら、練習できない、運が悪ければインターハイにも出れない

それに由美が助けてくれた事に喜ぶ反面こんな顔を由美には、由美にだけは見せたくなかった

「保健室行こう、肩かすけど立てる?姫抱きする?」

「肩貸してくれるだけで十分、ありがとう」





見え隠れした曇った感情が何かわかった気がする

ああ、由美は優しい

私たちが出会うきっかけを作ったのは由美の優しさだろう



2.3年前

暑い夏

私は部活が休みの日体育館が使えなくても自主練をしていた

練習に集中しすぎて水を飲むのを忘れていた

(もっと練習しないと、もっと頑張らないと、期待に答えるために、私のために、才能を開花できるように、できなくてももっと努力して努力して強くならないと)

頭がクラクラしても、自分を追い込むために必死に練習した

「ねぇ」

急に誰かに声をかけられた

「え、えと、」

「あ、私棚葉由美、男バレマネの」

「わたしは」

「坂口心音ちゃんだよね?私同じクラスなの」

「あ、はい」

「熱中症っぽいし保健室でやすまない?」

そう言いながら自販機で買ったであろう冷たい水を差し出してくれた

「ありがとう、でも保健室は大丈夫、少し辛いくらいが丁度いいし、もっとがんばってみんなの期待に答えないとだから、水だって昔の野球部は水飲んでなかったし」

「だめだよ!男バレがある日はあなたのこと見てた、いつか倒れる、今まで倒れなかったのが奇跡に近い!水も飲まず休まず暑い中ずっと練習してたら貴方の体がもたないの!気持ちと体のキャパは違う!無理することと努力することは似ていても違うの!

あ、長く説教してごめん、でも絶対やすませるから!」

そう言って彼女は私を抱き上げて保健室へ向かった

「ありがとう」

この声は小さすぎて聞こえなかったと思うけど

聞こえたかのように私に笑いかける彼女はとても眩い光を放っているように見えた


きっと一番最初に惚れたのは優しさ、そこからどんどんどんどん由美を知るたび惚れていたんだと思う

ねぇ、由美、由美が好き、大好き

でもだから、やっぱり優しくしないでよ

期待するのも、これ以上惚れるのも、やめないとだから

由美はきっと同性を好きにならない、好きになるとしても長年友達として見てきた私が恋愛対象に入るとは限らない、付き合える確率ももちろん将来恋人として一緒にいられる確率も相当低い

それならこの気持ちを伝えてしまうわけにはいかない、貴方の恋も邪魔してしまうかもしれないから



そこには肩を組み歩く二人と、それを湿った目で見つめる青年が一人



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