第2話【レクリエーション】
棒人間の日常
第二話
高校入学から一週間がたち、学校生活にも慣れてきた。
「それじゃ、お母さん行ってきます。」そう言って、玄関のドアを開ける。
一週間前まで特別だと感じていた道も、今ではいつもの通学路になっている。今日は先生の気まぐれで、レクリエーションをやることになった。
「本当に先生はいつも急だな、」
この前だって、いきなり中学の復習テストやらされた。何かの当てつけかと思うほどテストが難しくて、すごくしんどい思いをした。
突然、後ろから杉君が勢いよく走ってきた。抱き着こうとするので避けると、そのまま電柱にぶつかっていった。すごく痛そうだ。相変わらず、馬鹿だ。
「いてて、静ちゃん何で避けるのさー」
「痛そうだな。」
「おいっ…ひどくない?」
「そりゃあ、毎日同じことされたら、だれでも避けると思うよ?」
「そんなあ…」
最近はずっとこんな感じで、一緒に登校をしている。中学の時は部活が違うせいで、一緒に登下校できなかったから、結構うれしい。少しうざったいけど…
「まぁ、悪くないな…」とつぶやいていると、杉君は不思議そうな顔していて、いつにも増して間抜けに見えた。
「なぁ、静ちゃん」
「ん?」
「今日のレク何をやるのかな?」
「さぁ…、花札とか…?」
「いや、それはないだろ。」
「…」
今日のレクリエーションはクラスの仲を深める為にと、先生が提案したのだ。クラスのみんなとは早く仲良くなりたかったから、好都合だ。今からでもいいところを見せて、「かっこいい」とか「すごい」とか言われたい…
「ふふふ…杉君、今日は頑張ろうな」
「お、おう!」
朝のチャイムがなり響く。
「棒人間、おはよ。」
「…おはよ」
みんなから、棒人間と呼ばれるのも、悔しいけど慣れた。
それよりも、今日のレクで絶対にいいところ、見せてやる!!
「棒人間が、ガッツボーズなう。よし、送信」
Sineのグループチャットに僕がガッツボーズしている写真が送られている。初めて、杉君と親以外の友達追加できたのが、うれしいことは置いといて、おいっ、何でガッツボーズなうだよ…ほかにもネタあっただろ。
「先生がきたよー。」
「「おっ、まじだ」」
一斉に席に着き、先生が教室に入ってくる。今日も先生は美人だ。見とれていると、今日のレクリエーションについて先生から説明があった。
「今日のレクリエーションは、5時間目にはドッチボール、
6時間目にはバスケをやります。みなさん、今日は楽しみましょうね。」
「「はーい」」
ついに、レクリエーションの時間になった。楽しみすぎて授業が頭に入らなかった。
「静ちゃん、ドッチボール頑張ろうね!!」
「うん、」
「どうしたの?」
「いや、何でもない…」
「そっかぁ」
僕は結構運動音痴だから、足を引っ張らないかすごく心配だ…でも今日こそみんなに、ただの棒人間だと思われたくないから、頑張らないと。
「今から、ドッチボール第一試合を始めます。怪我のないよう頑張ってください!!」
「それじゃ、はじめ!!」
第一試合が始まった。僕は二試合目だ。次の試合で勝てたら、決勝の相手になるかもしれないから、様子でも見ておくか。まぁ、普段授業とかやる気のないクラスだし、ドッチボールにも本気で来ないだろうから割と勝てるかも。
「おい、声だしてけー!」
「「はいっ!!」」
「ん、?」気のせいか?めっちゃ、ガチな感じがしたけどまぁ、もう少し様子を見ておこう。
「おい、これじゃ、世界なんて取れないぞ!!」
「「はいっ!!」」
「もっと熱くなれよ!」
「「はいっ!!」
熱くなれよじゃねぇよ、どこのテニスプレイヤーだよ。これ普通のレクリエーションだよな?まるで大会じゃねぇか??まだ時期的に肌寒いはずなのに、熱気がすごくて暑くなってきた。本当に勝てるか心配になってきた、いい所見せなきゃいけないのに、なんでこんなにやる気満々なんだよ、
「こうしちゃいられねぇ、あんな熱い試合見せられちゃ俺らもやるしかねぇよな?」
「そうだね、このまま黙ってみてられないよ」
「よし!キャッチボールすんぞ!」
「おう!!」
おい次の相手も、もの凄くやる気満々だしこのままじゃ本当にまずい、何とかしないと。
「ねぇ、杉君、僕たちも練習しないとまずいよね…」
「そう?何とかなるでしょ。」
「…」
くそ、なんでこんな時に限って、やる気がないんだこいつ、いつもしつこいぐらいにうるさいのに、なんかあくびしてるし…駄目だほかの人に声かけてみよう。
「ねぇ、一緒に練習しない?」
「おう、いいぜ!俺の右手に秘められた力を開放する時が来たようだな」
「…やっぱいいや」駄目だ、ほかをあたろう。
「ねぇ、一緒に練習しない?」
「デュフフ、棒人間氏それよりも昨日のラブちゃんの生配信見たでござるか?」
「…」誰だよ…!
他もまわってみたが、だれもやる気がない。そうしているうちに、僕らの番になってしまった。
「結局、練習できなかった、」
「大丈夫だよ、静ちゃん」
「ん?」なんか秘策でもあるのかな…
「何とかなるから!!」
すごい自信だ!本当になんとかなりそうな気がしてきた、よし僕は足引っ張らないようにだけ気を付けて頑張ろう。
「それでは、第二試合目はじめ!」
始まった。さっそく相手のボールが杉君にめがけて飛ぶ。ん?想像よりもボールが遅く感じる。これなら僕でも取れそうだ。杉君これをわかってたのか、流石僕の親友だ。
バチーン!「アウト」
「…」
「くそ、当たっちまった、ごめんな静ちゃん」
なんで、開始早々当たってるんだよ、あの自信は何だったんだよ。
「よし、まずは一人」
「このまま、引き締まっていけ!」
「「おう!!」」
相手は変わらず、本気だな…僕も頑張らないと
「くそ、よくも我が友人を…俺の秘められた力を見せてやろう」
「…トスっ、アウト」
「がは…やるな、あとは任せたぞ、棒人間…ドサッ」
「…」
何しに来たんだよ、このままじゃ負けてしまう、どうにかしないと…そう考えていると、大きな声で僕を呼ぶ声がする。杉君だ、いったい何の用だ。
「静ちゃん、あぶない!」
「…!?」
そのまま、顔にボールが直撃した。くそ、いいとこ見せたいのに、このざまだ。
「棒人間、大丈夫か?」
「あぁ、」泣きそう…
「よかった、ん?」…めっちゃ無表情じゃん、なぜだろうすごく悔しい、こうなったらどんな手を使ってでも、棒人間の表情を見てみたい。
「ん?どうしたの?」
「あぁ、何でもない…」ここからが本気の勝負だ、俺が絶対に棒人間…いや、真田静久の表情を見てやる。
ん、一瞬、背筋が凍るような気がした、寒気がする。なぜか相手の目が獲物を狙う獣みたいだ。
「おい、棒人間!!見せてみろ、お前の本気を」お前の表情を見てくれ…
「…あぁ!!」
忘れていた、相手は本気なんだ、僕が、生半可な気持ちじゃだめだよな。僕も全身全霊で答えてやらなきゃ失礼だ。
ん、そういえばさっきから僕ばっかり狙ってないか?しかも体ではなく、顔ばかり狙ってくる、これじゃ、避けるのでいっぱいだ。
「くそ、当たらねぇ、」なかなかやるな、ものすごく避けるじゃないか…このままじゃ時間ばかりが過ぎて、時間切れで終わってしまう。まぁ、避けていられるのも今のうちだ。
トンっ、「アウト」ここで、外野にいた杉君が相手にボールを当てて戻ってくる。
「やったぁ!ただいま静ちゃん」
「おかえり!杉君」
よし、残り一分耐えれば僕たちの勝ちだ。このまま避けるのを、頑張ろう。
「なぁ、静ちゃん」
「ん?…どうしたの?杉君」
「あっ、」
話しかけられて油断した。そして、顔に当たってしまった。しかも結構痛い…流石に泣きそうだ。
「悪い、大丈夫か棒人間」よし、表情を見るチャンスだ。試合には負けてしまうが、表情を見れたらそれで十分だ。
「大丈夫?静ちゃん…」
「うん…」
「…えっ、し、静ちゃん?」
「…ん?」杉君がすごい驚いた顔している。
「杉男、どけ!」くそ見えない…
少し泣いてしまった。杉君にダサい所を見られた挙句なぜか、杉君は怒っていて、そのあと二人ぐらい当てていた。試合には、勝てたけど最初から本気でやってほしかった。
その後、決勝では、あっさり負けてしまい、バスケも結局いい所見せられず、レクリエーションは終わってしまった。
「静ちゃんお疲れー!」
「うん、」
「どうしたの?」
「なんでもないよ」
「そっかぁ」
はぁ、すごいとか、かっこいいとか、思われたかったけど、結局いい所見せることができなかったし、二度も顔に当たるとか、ダサいところばかりが目立ってしまった。落ち込んでいると、同じチームだった、女の子に話しかけられた。
「あの速いボール何回も避けててすごかったね!」
「え…?」
「少しかっこよかったよ!それじゃまた明日ね!」
「うん、また明日」
やった、幸せだ、ついに僕にも春が来たかも、少し遅い春だけど…そう考えていると後ろから、ものすごく怖い目線を感じる。そして、ゆっくりと後ろ見る。
「気のせいか、」
後ろには誰もいなかった。ただの気のせいだったみたいだ。僕を見ていた杉君が不思議そうな顔をしている。
「どうしたの?静ちゃん」
「ん、何でもないよ。帰ろうか」
「おうっ!」
「そういえば静ちゃん、明日、土曜日だし出かけよーぜ!」
「うんっ」
こうして、無事にレクリエーションが終わった。