第1話【新生活の始まり】
主人公の真田 静久は、物心ついた時から、表情が全くありません。笑った顔、泣いた顔、怒った顔、これらの表情がでません。不器用ながらも高校生活を成功させようとするが、これからどうなってしまうのか...
第一話
今日はついに合格発表の日。僕は、ドキドキしながらパソコンを開く。そしてサイトを開き、結果を見る。
真っ先に合格の二文字が目に入った。
ぼくはこれまで何事も上手くいった試しがない、だけど諦めかけていた高校受験で合格した。普段からウキウキな僕でもなおさら顔が緩み切ってしまう。
「よかった」無表情
心臓がドキドキしてうるさい。それもそうだろう、絶対に落ちると思っていたからだ…
「はっ!!…入学に向けて準備しないと」無表情
僕は、高校で必要なものを、揃える。あっという間に入学当日、時刻は6時になり、部屋にスマホのアラームが鳴り響く
「静久、アラーム鳴ってるわよ」
お母さんの声がする。朝ごはんのいい匂いもして気分の良い朝だ、僕は寝ぼけながらも洗面台に向かい、歯磨きをする。
少し目が覚めてきた。「やば、緊張してきた。」
ふと、鏡に目がいく。「うわ…ひどい寝癖だ」前髪は鶏冠みたいに跳ねている。日曜夕方にやっている国民的アニメの主人公をも彷彿とさせる寝ぐせに、ついポーズをとってしまいそうだ。
「急いで直さないと」
僕はいつもより気合を入れて学校に行く支度を進める。なんせ入学初日だ。
「よし、忘れ物もないし大丈夫そう」
お母さんに行ってきますを言って、外へ出ようとすると後ろから声が聞こえた。
「待って、静久」
「ん?どうしたのお母さん」
「静久…表情が固いわよ」
「ほら私の顔をよーく見て」
そう言ってお母さんは僕の顔をじっと見てニコっと満面の笑み浮かべる
「静久こうするのよ」無表情
「…」「わかった」
お母さんの満面の笑みを見ていたら、僕の緊張もいつの間にか無くなっていて、つられて笑顔になっていた。
「よゆー」無表情
「流石ね静久、完璧だわ」
「ありがとう。じゃあ、今度こそ行ってきます。」
そう言って玄関のドアを開いた。
「いつもより笑顔だったわ」「ふっ学校がそんなに楽しみだったのね」
いつもとは、違う通学路。普通の道のはずなのに、なぜか特別に思えてしまう。なにせ僕は今日から高校生だ。
僕の名前は、真田静久。今日から高校生になるごく普通の人間のはず。ただ一つだけ普通じゃない所がある。道を歩いているだけなのに、なぜか他の人からは棒人間に見えているらしい。小さい子には「ママ見て、棒人間!」などと言われ、その子のお母さんも「しっ」と少したしなめる程度しかしない。
「ママ見て棒人間」「しっ」ほらな?
「聞こえてるんだが…」
まぁ…小さい頃からあだ名が、棒人間だから平気だけどね。高校からは、人気者になり、彼女とかも…ふふふ、まぁ、そうなったらもう、棒人間なんて言わせないぞ!
「やってやるぞー!」無表情
「ママあの人一人で何してるの?」「しっ、見ちゃダメ」
「…」
それから、入学式も無事に終わり。教室でホームルームが始まる。
「今日からみなさんはこの学校の生徒になります、みんなの担任の佐々木京子です。よろしく。」
クラスの男子がざわつく。あまりにも美人な先生だ。恋愛感情ではないが、僕も先生が美人なのは嬉しい。このクラスでよかったなあと思っていると、1人の男子生徒が口を開いた。
「先生、付き合ってる人いますかー?」
先生が苦笑いしている。
「いないですよー、あのクソ野郎のせいで……」
先生が小さくつぶやいた気がした。
「浮気しやがって…私が何のため…くそ、」
「ん、先生?」
「あっ、なんでも…まぁ、気を取り直して、これからみんなに、自己紹介をしてもらいます」
「はーい」
「それじゃあ、出席番号1番からお願いします。」
自己紹介。自己紹介をなめてはいけない。一見なんともないイベントにも思えるが、僕のような個性が薄いキャラにとっては自分を表現できる貴重なチャンスであり、これからの学校生活に大きく関わってくるビックイベントなのだ。
次は僕の番だ。人気者になるためにも、自己紹介で盛大に一発決めるか!
「はい、つぎの人。」
「はい…」
きた!きた!きた!よし、やるぞ、一発決めてやる。
「えっと、あれ…、んーと…」
「あ、真田静久です。入りたい部活はまだ、悩んでいます。」
駄目だ、肝心な時に、緊張しちゃって、言いたいことがうまく言えてない、このままでは、普通過ぎる、何か言わないと…
「えっと、ペ、ペポ、ペポリフラッシュピリットキュー…」
…や、やってしまったー、でも意外とウケるかも?えっと、みんなの反応は…
「…」
あっ、空気が重い…終わってる。何とかして、この地獄みたいな状況を切り抜けないと。
しかし、隣の人に話しかけてみたりするものの、会話を広げることができず、
高校初日は大失敗で終わってしまった。
「はぁ、帰りたい…」
その後も挽回の機会なく、すでに高校生活は3日目に突入していた。
「このまま中学の頃と同じように静かに3年を過ごすのかな・・・」
中学の時のことを考えてると、後ろから、声が聞こえた。
「おーい、棒人間~」
「おー、杉君。」
こいつは、幼馴染の雨流佐杉男
「同じクラスだね!おーい、静ちゃん?」
本当にうるさい奴だ、これでも小学校からの親友だ。
「てか、入学の日、何で逃げるように、帰るんだよ、寂しいじゃんか。」
「おーい、聞こえてる?静ちゃん」
あれ?さっき僕のこと、棒人間とか言わなかったか?
「おい!杉君、さっき僕のこと棒人間って言っただろっ!」
「あっ、ごめん…」
「同じ高校を受験してもいいけど、その代わり僕のあだ名が棒人間だったことは秘密にする約束だったよね?」
「ごめんね、静ちゃん、許して、嫌いにならないでー」
なんかそう素直に謝られるとこれ以上怒る気もなくなってしまう。
んまぁ、杉君も反省していることだし、許してあげるか…
「…いいよ。」
「やった、静ちゃん好きー。」
「…」
それよりも、さっきの会話、ほかの人に聞かれてないよな……?もし聞かれていたら、本当に僕の高校生活が終わってしまう…
「待って、あの子、噂の棒人間じゃない?」
「うわっ、本当だ。」「すげー」
終わった…僕の高校デビューがぁぁぁ、うぅ、高校では、人気者になり、彼女も作りたかったのに…
「ねぇねぇ、杉君」
「ん、どうしたの?静ちゃん」
「ゆるさない…」
「え…」
はぁ、教室に入りたくない…さっきの会話で、僕のあだ名が棒人間だったことがばれてしまった…。絶対話題になってるだろうな……。いや、自意識過剰すぎるかな。意外にそんなこともないかもしれない。
そんなことを考えながら教室のドアを開けると、さっきまで騒がしかったのがすっと静まり、みんなの目線が一気に僕に集まった。
「…」
沈黙の時間が続く。空気が重い。緊張する。顔に出ていないだろうか……?何か喋らないと……。深く呼吸をして、言葉を絞り出す。
「お、おはよ。」
よし頑張った。たとえ返事が返ってこないとしても、なにも言わないで後悔するより100倍マシだ。でもやっぱり返事がなかったら寂しいな……。
しかしそんな悲観に反して、クラスのみんなは僕に笑顔で挨拶を返してくれた。
「棒人間、おはよ!」
「…」
ジッと、静かに杉君を見つめるが、杉君はニヤニヤした表情を浮かべていた。殴ってやりたくなったが、我慢して言った。
「おい、何でニヤニヤしているんだ?気持ち悪いぞ。」
「静ちゃん、辛辣すぎるよー」
「はぁ…」
いつもの調子で杉君と話しながら、周りの話題が気になって耳をそばだてていると、案の定というべきかどうやら周りは棒人間の話題で持ち切りだ。
「静ちゃん…人気者だね」
「う、うん…!」
これはこれで悪くない気分だ。大丈夫かな……?僕はすぐに顔に出るから、変な顔になっていないかすごく心配だ。
「杉君、僕…にやけて変な顔になっていない?」
「うん、無表情。」
「…」
(こうして、棒人間の日常が始まった。
初めまして、作者のりつねこです。読んで頂きありがとうございます!!
みんなに読んで頂くのが楽しみでもあり、不安でもあります。
第1話が、1人でも面白いと感じてくれた方がいれば、うれしいです!