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第六話 不調

 「ついにボロがでたな。」

アメリカ合衆国国務省の官僚、イアンが呟いた。

「ダ・ヴィンチ、悩みだかなんとか言って会話すらままならならかったらしいがやはりおかしなことを考えてやがった。」

「連日の情報共有が無駄にならなくて何よりです。」

イアンの秘書スージーがホッと安心したような声音でそう言った。

「ああ、ほぼ捨て身の作戦だ。これで何もわからなければただ自国の情報を毎日垂れ流しただけ、危うく俺の首が飛んでいた。もちろん君のも。準ヒト型AI同士の情報共有。さすがのダ・ヴィンチでもこれには気づけなかったようだな。」

「AIに気づかれないよう何枚もの防壁が張りめぐされてる最重要機密ですからね。」

「ああ。情報共有は準ヒト型AI同士の対立を防ぐためのプログラム。全準ヒト型AIは定期的に各々の情報を共有する。しかし決してAIはその事実に気づくことができない。なぜだかわかるか?」

「人間で言うところの既視感、デジャヴですよね。」

「そうだがもう少し複雑だ。AIは共有された新しい情報を自分が元から知っている情報と関連付け、デジャヴのように捉えたり、あくまでも自分が新しく気づいた情報として片付けてしまう。それゆえAIは情報共有に「気づけない」。奴らは自分が人間を超す知能を持つ上位者なんて考えているが所詮人間に利用されている道具にすぎない。人間を出し抜くなんて最初から無理な話さ。」

イアンはそう言い、鼻で笑った。

「スージー、連邦政府議長に臨時会の要請を。」

「はい。」

「出席はアメリカ、日本、ローマの三国で十分だと伝えてくれ。それからローマからの人員はできるだけ少なくするようにと。ローマは自国の問題だと主張するだろうが、日本は大方我々の話に乗ってきてアメリカ、日本で処理される問題になるだろう。それと臨時会の件の並行して我が国で事情聴取ができるよう話を通しておいてくれ。」

「承知いたしました。」

「ローマ、日本に蒔いた種が生きる時だ。うまくいけばダ・ヴィンチの解体まで手が届く。気張れよ。」

「・・・はい。」

そう言ってスージーは部屋を離れた。



 時は数日遡る。

 ダ・ヴィンチのサポートを目的として複数の人員がアメリカからローマへ派遣された。

アメリカからの研究員がダ・ヴィンチを格納している一番奥の部屋の扉を開けると一人うなだれている白髪の老人が見えた。

「君らが来たところでどうにもなりゃしないよ。」

その声に生気はなかった。

「初めまして、お会いできて光栄です、クリス教授。アメリカ内務省のイアンです。」

「わかってる。話は上から聞いてる。悪いが今はそういう堅苦しい挨拶をする気にはなれないんだ。少しばかり無礼になるが許してくれ。疲れてるんだ。」

そう答えたのはローマ人工知能高等研究所所長で人工知能学会の権威クリス博士だ。

「そうですか。お疲れのところ申し訳ありませんクリス博士。ところでダ・ヴィンチは。」

「この通りだ。」

 クリス博士が指差した先にはコンピューターの前にもたれかかりぐったりとしている一体のサイボーグがいた。

「これが、ダ・ヴィンチで?」

「ああ、昨日まではまだ会話もできた。だが数時間前からこの様だ。もううんともすんとも言わない。生体反応だけはかろうじて残ってるがな。」

イアンはその言葉を聞きながらそのサイボーグを色々な方向から見たりのぞいたりして連れてきた研究員たちに検査をするよう命じた。

「情報空間でのコミュニケーションも無駄だよ。もうそのサイボーグはただの人形だ。ダ・ヴィンチの意識は少なくともこの研究所の中の情報空間にはない。」

「これについて博士のどうお考えで?」

「わからん・・・、じゃダメだよな。自殺・・・、あるいはどこか自分探しの旅にでも行ったのかもしれん。」

「自分探しの旅?」

「ああ、話は大体聞いているだろう。ここ最近の彼女の言動さ。」

「はい。それはもちろん。何か悩んでいるだとかなんとか。」

「そうだよ。彼女は悩んでいた。「自分が何者なのか」とか、「人間にとってAIとは」とかそんな哲学的な話を散々聞かされたよ。」

「その結果がこれ、ですか。」

「ああ、彼女の納得する回答ができなかったみたいだ。段々と我々から距離を取り始めて、さっき彼女の意識がそのサイボーグから消えた。今はどこにいるのかすら。」

「ハッキングを受けたと言う可能性は?」

「バカな、あり得るわけがない。そんなことができるのは他の準ヒト型AIくらいだ。」

「そうですか。連邦政府議会は彼女の消息を探る以外の選択肢はないと言っているのでとりあえずまずは我々アメリカで色々と調査、検査をさせてもらいます。この書類にサインを。」

「ああ、わかった。」

 イアンはクリス博士からサインをもらうと研究員に今後の指示を出し、一人の研究者を連れて帰っていった。



 アメリカへと向かう帰りの便でイアンは連れ帰った研究員に質問をしていた。

「どうだ君の見立ては?」

「少し触っただけなんでなんとも言えませんが生体反応が残っている以上自殺の線は薄いかと。」

「そうか。でなければ困る。どちらにせよ厄介な問題だ。」

 「十分後着陸します。シートベルトの準備を。」

機内アナウンスに応じてイアンがシートベルトに手を伸ばすとイアンの電脳に一件の通知が届いた。

[意識消失後にもダ・ヴィンチの痕跡がサイボーグに見られます。自殺の線はナシ。ダ・ヴィンチは生きています。失踪です。研究所から逃亡したと思われます。]

イアンが不敵に微笑んだ。

「ダ・ヴィンチは生きている。研究所から逃げ出したそうだ。調査資料をノイマン、アインシュタインに読ませ探させろ。絶対に我が国で見つけ出すぞ。」

隣の研究員にそう命じた。



 「次長、手続きが済みました。臨時会は一時間後です。」

「定員は。」

「問題ありません。我々が3、日本が2、ローマ2です。」

「そうか。しかしまさか日本の学生をハッキングとはな。」

「ええ、まったくです。隠れるにしても他に場所があったんじゃ。」

「ああ、天才の考えることはよくわからんがうちの介入できる場所なら大歓迎だ。しかも例の研究所にはアメリカの人間が二人もいるときた。後片付けを楽にしてくれて助かった。こちらの手配が済むまで例の学生の面倒を見るようにとだけ伝えてくれ。」

「すでにノイマン、アインシュタイン両機から伝達済みかと。」

「楽で助かるな。彼らなら勝手に動いてくれるのか。事情聴取の方は。」

「アメリカ、日本間往復の時間があればいつでもできるよう準備するとのことです。」

「袋の鼠だな。」

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