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第三話 新たな日常

 少し遅れて食堂に入った俺とカイトは寂しく隅に並べられた二つのおぼんを手に取って静かに隅の席に着いた。

隣の角席に座ったカイトは携帯を適当に触りながら黙ってスプーンを取り食事を始めていた。携帯を見ているせいでなかなか思うようにスープが掬えなく、それにイラついたのか携帯をスワイプする指の動きがだんだん雑になっていった。

 不自然さがでないよう俺はカイトの食事を観察していた。

よかった。俺のことはなにも気づいてないようだ。

カイトをベッドから引っ張り出して食堂に向かう時もダ・ヴィンチは静かにして俺の言動に不自然さがでないようにしてくれていた。

 俺は安心して自分の食事に手を伸ばした。

「いきなりハッキングしてくる割には案外親切なんだな。」

「この状況がバレて困るのはわたしも一緒って言ったでしょ。」

だがやっぱりこの声が脳内に響き渡ると緊張が走る。バレたら一体どうなるのか。こいつはバレないとなぜか自信満々だけど普通に考えたら時間の問題だ。ダ・ヴィンチの方は問題ないかもしれないがやっぱり俺の言動には不自然さが出てしまうかもしれない。それにさっき俺が焦ったりすれば向こうのほうにも影響が出るようなことも言っていた。

 バレたらどうなるのか・・・

今俺と繋がっているAIは民主主義連邦政府常任理事国ローマの国家機関が採用してるAIで連邦政府やローマの機密事項やらなんやらが詰まっている特急の代物なんだ。もちろん民間に流れたらまずいようなことが沢山あるんだろう。

それを処理したりしてるAIと俺の電脳は今一つになっている。

国立校の生徒とはいえ俺はまだ子供だ。

それがバレたりなんかしたら俺の電脳は、ましてや俺自身はどうなるのか・・・

考えたくもない。焦らないためにも今は少しでも落ち着きを取り戻せるように黙って食事をしとくのが一番だろう。スプーンを握る手が少し震えた。


 「仲良いんだね。」

「えっ、あぁ、カイトのことか?」

「そう」

「そうだな、一緒に課題やったり、よく議論したり。」

「議論?」

「情報系の理論のこととか、もちろんAI関連も。君の名前もよく出る。」

「でしょうね。」


「ねえ」


「わたしってどう思われてるの?ここの生徒とか、人間の皆はわたしのことどう言ってる?」

少し間をおいて尋ねたダ・ヴィンチの声はさっきまでの冷たい電子音とは打って変わって明るい声のように聞こえた。

「どう・・・か、か。」

少し悩んでつぶやいた。


「そう、どう思われてる?」

「そうだな・・・」

「うん」

「まあ、評判は、良くはないかな」

「え。」

「いや、悪くもないんだよ。ただ良くもないかなって。人によってかなり意見が変わるかな・・・」

少し間をおいてダヴィンチはうなだれたようにつぶやいた。

「わたし、AIの皆からは天才、天才言われるのに。なんで、どういうこと・・・本当に?」

さっきまでの明るい声が一気に冷たくなった。

「いや、だから人によるんだよ。それで、良いっていう人は君の言う通り天才、天才言ってる。

まあ少数派かもしれないんだけど・・・」

「ま、まあいいわ。」

「じゃああなたはその少数派なんだ。」

「そ、そうだよ。」

嫌な質問だ。しかもまた声が明るくなった。いきなり頭を乗っ取ってきたうえに辱められてる。先生たちの言ってた問題児ってのはこういうことだったのか?

「照れてるの?」

「うるさいな。」

「あははは。」

笑うんだ・・・。その可愛らしい笑い声はもう人間の声と遜色がなかった。

AIの笑い声はと言うともっと一応笑ってはいるんだけれどどこか棒読みというか、なんだか独特な一発でAIだとわかる特徴がある。俺が養育に携わってたヤマトなんかはなにか冷たい感じの人に合わせたような堅苦しい笑い方。というかそもそもそんな笑う奴じゃなかった。

同じ準ヒト型AIでもここまで変わるのか。

「ローマではどんな養育を受けたんだ?」

「え、あなたヤマトさんの養育手伝ってたんじゃないの?変わらないわよ。」

「いや、ヤマトと会話した時の感じとは全然違うから。」

「ふーん、まああの人と同じにされたくはないわ。優秀なのはわかるけど」

 準ヒト型AIはAI同士で競争関係だけれど、対立することはないようになっている。教科書通りのような返答が面白かった。

 「食べならもらっていい?それ。」

カイトが皿の上のウインナーをフォークで刺していった。

つい食事の進みが遅くなっていた。

「いや、もらいながら聞くなよ。」

「どうせ朝あんま食わないでしょ、お前。」

ウインナーを食べるカイトの方を見るとカイトの皿はもうすべて綺麗な状態になっていた。

他の生徒もそろそろ食べ終わり、席を離れ始めていた。

「ほかにも欲しいのあったらあげるよ。」

「おお、まじ?」

俺は適当にいらないものをカイトにあげてさっさと食事を終えた。

「ねぇ今からは?学校にはいつ行くの?」

「まだ少し時間がある。この後歯磨いたり、着替えたりしてその後だ。」

さっきの会話があって以降ダ・ヴィンチは急に機嫌がよくなり時間があれば話しかけてくるようになった。

食事が終わった後、部屋に帰る途中とか、歯を磨きに行ったときとか寮の設備を見ては「あれはなに?」とか「この人は?」とかいちいちなんでも聞いてくる。

 「それで、今から学校?」

朝の準備を終えてカバンを背負い、カイトと部屋を出た僕にダ・ヴィンチが尋ねた。

「そうだよ。学校は生徒の他にも先生とかいろんな人がいるからもう少し静かに頼む。一人でいても誰かに見られたりしてたら大変だから。」

「うーん・・・わかった。」

どこか不満げに答えた。


 教室はまだ静かで生徒は半分も来ていないようだった。

カイトは「ホームルームまで寝る。」と言って真ん中あたりの席に座ってまた寝ていた。

俺はいつも通り後ろの方の窓際に座って外を眺めていた。

寮から教室への移動中ダ・ヴィンチは俺の言った通り静かにしていてくれた。

でも問題は今からだ。今はまだ人が少なくて大丈夫だけど、人が揃ってきたり、授業が始まったり、何よりひまりが来たりしたら・・・。

「おはよ!」

思わず体がびくついてしまった。

「どうしたの。そんな驚いて。」

「い、いやなんでもない。なんでも。」

「そう?」

「ねぇこの子は?友達?」

またダ・ヴィンチが楽しげに話しかけてきた。

「ちょっと、静かに頼む。」

頭の中なのに俺はついささやくようダ・ヴィンチに頼んだ。

「昨日の課題はなかなかだったね。量は少なかったけど。」

「え、あれできたのか?」

「出来たよ、ちょっと大変だったけど。」

「ちょっとで済むのか。カイトと二人であーだこーだ言いながらやってたけど俺たちは無理だった。」

「ねぇ、課題って?」

「ちょっと、静かにって。」

「教科書の証明と照らし合わせて見れば案外簡単だよ。」

「その証明が難しいんだよ。ひまりなら簡単に理解できるんだろうけど。」

「言語における一般の不完全性定理って・・・俺らにはまだ厳しいよ。」

笑いながら言った。

「あなたそんなこともわからないの?」

ダ・ヴィンチのおちょくる声が聞こえた。

ひまりは教科書を取り出して、俺に件の定理のページ見せた

「まず、不完全性定理のことは理解できてるよね?普遍文法は?」

「まあ、多分なんとか。」

「結局はその拡張版だからそれが理解できてれば案外簡単だよ。不完全定理の方の証明を言語版の方の証明と照らし合わせて・・・」

俺も課題について書いたノートを取り出して、急いでページをめくった。

「あなた案外勉強できない人?不完全性定理すら危ういって。」

「うるさいな。」

「ここが、こうだから・・・」

ひまりは半分俺のことを忘れて熱心に俺のノートを添削している。

「で、この子結局誰なの?」


 こんなに話しかけてくるんじゃ何か俺がおかしいと勘付かれるのも時間の問題だ。

案外親切と言ったことは取り消そう、やっぱりこいつは無茶を言ってる。

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