第一話 異世界転移
名は体を表すという。その者の名はその者に宿し力そのもの。受け継がれる性。与えられた名。それらは、その者の力とならん。経験から作られる自由な才覚もその者を型取り、力の一部と成すが、力の根源は名から成る。名に力を宿す者を
【名持ちの能力者】と呼ぶ。
ある夏の事。
一定の静けさの中でペンを走らす音や紙が擦れる音のような小さな音しか聞こえない空間でおれは、あまり周りに迷惑をかけすぎず、だが音を出す為に振る度にシャー芯がでるシャーペンを小刻みに振ってみたり、椅子を少しずらして音を出したり、紙を持ち上げて音を出してみたり、息を止めてみたり。
いったい何をしているかって? 小さなことさ。テスト中にこの静かな環境下で盛大にお腹が鳴るのをなんとか抑えているんだ。
あと3分10秒。 いける!周りも解答を終え見返したり、瞑想していたりで一層静けさがましているが、いける!このまま!!
ちなみに、俺の名前は竜星。高校2年です。
学校の鐘が鳴る。
担任の先生は、腰かけていた椅子から立ち上がりながら、「はい。それまで! 手を止めて、後ろから答案用紙を前に渡して集めて下さい」と皆がしっかり聞き取れるように少し大きめの声で言った。
生徒たちは担任の言葉を聞き、答案用紙を前の人に渡していく。
答案用紙を渡し終えた者から順に、皆徐に各々小さく動き出す。くぁ〜っと言いながら、背を伸ばす生徒、手と足を両方少し伸ばす生徒。消しゴムの屑を集める生徒、「どうだった?どうだった?」 「ん〜自信あり!」「え!まじか〜」と自信がない生徒、ある生徒。 平静を装いながらも耐え抜き腹の音を出さずにこの時を迎えられたことを安堵する生徒。
「はい!みんなお疲れ様ね、これで全教科のテスト終了。この後は、明日からの林間学校の準備だから班ごとに席を寄せておいてから昼食休憩をとってね。」
「ふ〜」テストも無事に終わり、昼食べて、それから林間学校の最終準備か。おれは席を立ち、後ろの席のやつに声を掛ける。
「圭介、購買行こっか!」
「んぁ〜〜っか。」
身体を伸ばしながら、あくびをしているのはおれの友達、圭介だ。
小さい頃からお互い剣道をしていて、試合会場で会ってたから入学当初から顔見知りだった。
お昼を済ませて、午後からの林間学校の準備の為にクラスに戻った。
いつもなら定刻通りに午後からの授業の開始をしらせる鐘が鳴るが、今日は鳴らなかった。しかし、生徒も先生も時間通りに席に着き、林間学校の準備は始まる。
テスト期間前から、ホームルームの時間を使いおおよその準備はできている。林間学校を明日に控え、持ち物の確認と整頓、そして買い出しのみとなっている。
3日分の米を各班で分けたり、野菜を近くのスーパーに行って仕入れてきたり、火おこしの道具の確認など、準備を分担して行う。俺の班は、男2人、女の子3人の計5名。クラスは30人程でそれを6班に分けている。どの班もこのクラスは女の子の数が1人多い。うちの学校は普通科高校とは違い、総合学科で看護や介護の仕事を志す人もいる。看護や介護を志す人はうちの学校では女の子が多い。俺のクラスはその人たちと文系進学を希望する人達の一部が合わさったクラスだ。ホームクラスは一緒だが、うちの高校は大学のように自分の好きな科目を選択し学べるスタイルだ。だから、このクラスの班のメンバーはどこもこのような割り振りになる。
おれの班のメンバーは、
おれ、遼介、千裕、清水、光の5人。
おれと遼介は、野菜の買い出し、千裕と清水、光の3人は、道具確認。
夏のこの時期に自転車で近くのスーパーで買った水や野菜をカゴに乗せて汗だくになりながら、教室に着いた。
「涼しい〜」
「買い出しお疲れ〜!暑かったね〜!少し休憩っ!」
と出迎えてくれた千裕。
「おつかれ、ありがとね!」清水。「暑い中ありがとう、お疲れ様。」光 。
「いいよ〜!大丈夫!」と明るくおれも遼介も返す。
買い出し組が帰ってきたことで、準備は終わり、先生に確認を取ることに。
続々と他の班の買い出し組も帰ってきて、他の班も準備が終わりつつある。
「はーい!みんな無事準備は終わったね!それじゃー、先生これから教員室戻って、報告してくるから、チャイムなるまで大人しくしといてね〜」
他のクラスの準備も終わったようで先生たちは教室から出て報告の為、教員室に向かっていく。
あと何分だろう。教室の黒板の上にかけられた時計を見てみる。12時ちょうどで時計が止まっていることに気がつく。
「ねぇ!今って何時かわかる?」
「えっと。1..2時? あれ。壊れとんのかな。」
おれと遼介が顔を見合わせると、突然、大きな揺れが起き、目の前がグラつき、一瞬視界が途切れる。揺れが収まり目を開けると、整頓されていた林間学校の持ち物は散乱し、備品や窓などは割れてしまっている。
「みんな大丈夫? 怪我はない?」近くにいた班員に聞いていく。 少し、痛そうに足首を押さえている千裕。捻挫だ。散乱した物の中から自分の鞄を探し、テーピングを取り出し固定していく。
「ありがとう。」「んーん、無理せずね。」
そんなやり取りをしている時、1人が窓の外を見ながら慌て、震えながらこう言った。
「おい、おい、おい、おい!ここどこや〜!!!?」