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一葉からの別れ

哲平と同じ職場に、朝月という20代の女性が、入社してきたのは、丁度、一葉と哲平が、互いの境界を越えてしまう去年の12月くらいだったと思う。朝月栞は、23歳でありながら、バツ1で、1歳の子持ちであった。この、彼女が、哲平に熱をあげはじめた。帰り道は、勿論、哲平の帰宅にあわせて、駐車場で待ち伏せをする。仕事の確認メールをいれるからと、メルアドをきく、2人で、仕事をする機会も増えて、一葉は、心の休まる暇もなくなってきた。

自分は、知られてはいけない存在なのだ・・・。

一葉も、それは、判っているが、若い栞が、自分のものと、いいたげに、哲平のそばにいる事が耐えがたく、それは、哲平と一葉の喧嘩するネタになりつつあった。そして、とうとう、栞と哲平が、仲がいいという話をしていた一葉は、職場で、主任でもある哲平に、注意を受けた。

「自分の、発言に注意してください」

「別に、そういうつもりで言ったんじゃありません」

「仕事として、注意したんです」

哲平は、イラついているようだった。職場での、一葉についての注意は、これだけでは、なっかった。なにかと、一葉の行動が眼につくのか・・・。とにかく、哲平の一葉にたいする態度は、つめたく、何かと一葉を注意したがった。余りにも、多いので、たまりかけた一葉は、哲平に電話した。

「・・だから、あなたがた、おばさん達は」

一葉は、耳をうたがった。

「今、何て、言ったの?」

電話ではなすとき、哲平は、特に感情的になる。

「あんたがた、おばさん達」

一葉は、言葉を失った。感情的になっているとは、いえ本心であろう。哲平は、普段から、こんな事を思っていたのだろうか。一葉は、思った

決心しなければならない。いい加減目を覚まそう。彼は、10も年下なのだ。いい気になって、一緒にいる場合じゃない。若さだけしかない女と比べられて、自分が、惨めでは、ないか。一葉は、電話をきった。

・・・もう、決めなければ、ならない。これ以上、好きになれば、傷つく。哲平を解放しよう・・・

そして、メールをうちはじめた。

・・・もう、一緒には、いられない。あなたの言葉に心が凍りついてしまって。どうか、ほかの人と一緒になって。・・・・

と、メールを打った。

・・・終わった。・・・

一葉は、思った。所詮、不倫でしかない。どんな理由があろうと、こうなる事は、わかっていた。きっちり逢って話したかったが、哲平がこわかった。哲平から、すぐ、返信は、きた。

・・・おばさんなんて、思ってなかったよ。ただ、友達が、真剣に俺の事を心配して、説教されました。子供を大切にしてあげて・・・

メールは、それで、終わっていた。やはり、哲平も、考えていたのだ。最近、哲平の態度が、遠く感じていたのは、嘘でなかった。哲平は、明日から、友達と旅行に行く為、仮眠中だったようだが、一葉からの別れのメールに気づきすぐ、返信したのだ。内容は、一葉を引き止める内容では、なっかった。別れを覚悟していたのだ。以前、哲平と話した事がある。

「哲平に彼女が出来たら、教えてね。あたしすぐはなれるから」

哲平は、悲しそうに、うつむいていた。

「そんな・・・。」

彼女は、できてないけど・・・。これ以上、自分の気持ちが、狂ってしまう。そう、別れをきめたのは、哲平ではなく、一葉本人だった。

「どうせ、俺の事なんか、捨てるんでしょう」

哲平の口癖だった。

「俺の事なんか、忘れるんでしょう」

違う。一葉は、思った。これ以上、一緒にいたら、2人は、ダメになる。哲平も、メールでそういって、いるでは、ないか。

・・・これ以上、一緒にいたら、本当にダメになる・・・

お互いを真剣に考えたら、そうなるのでは、ないか。自分で、別れを切り出しておきながら、一葉は、おかしくなっていった。哲平が、恋しくて仕方が無い。どうしたら、いいかわからない。メールの来ない携帯を、何度も、開き、来てない画面を、みつめていた。

・・・哲平にあいたい・・・

もう、おかしくなる。


 旅行から、帰った哲平は、一葉を見て、呆然とした。人目を気にせず、一葉に近づいていった。

「一葉さん・・。その髪は・・・」

失恋したら、髪を切るとあるが、まさか、少女じゃあるまいし・・・。

「変ですか?」

一葉の、背中まであった髪は、あごのラインで切りそろえられていた。

一葉から、言い出した別れでは、ないか。それなのに、一葉は、寂しいとメールをおくり、哲平に逢いたいとも告げた。せっかく別れる事ができたはずなのに、一葉は、精神のバランスを崩しつつあった。

「あの・・」

哲平は、

・・・いわなきゃ・・・

と、思った。不思議な事もあるものである。一葉と哲平が別れを決めたその頃、哲平は、人事異動で別の場所に、移動する事になったのである。哲平は、ほかの人には、言えた。・・ただ一葉にだけは、言えなかった。他の人に、挨拶した。その一番最後に、

「一葉さんも、お元気で」

ペコリと哲平は、頭を下げた。

・・・これでいい。顔を見なければ、一葉も、楽だろう。・・

哲平も、一葉との別れを決めかねていた。だから、時折、メールしてしまう。陰から、一葉を、応援したい。素直に、一葉に、自分の気持ちを、伝え、一葉とは、逢わないように、お互い、傷つかないよう、そーっと、接することにした。それでも、哲平も、一葉に、未練があるのか、いろいろ一葉の、職場の心配をし、メールをつづけた。

「もう、逢う事は、ないよね」

一葉は、はっきりしない自分達の関係に、電話で聞いた。

「まって、俺は、優柔不断だから・・・」

迷う哲平を、一葉は、けしかけた。

「はっきり、きめて!」

この関係を、きってほしい。

「もう!あわない!じゃあね!」

無理やり言わせて、電話は、切れた。いつも、一葉が、強引なんだと思う。本当は、哲平に一緒にいてと言ってほしい。でも、それは・・・。

一人で、結論をだし、また、苦しむ。その繰り返しである。

「もう、私のものは、全てすてて」

用意された台本を読むように、一葉は、彼につげた。もう、戻らない。すべて、覚悟した。

・・・メールもしない。彼を忘れよう・・・・。

彼は、昔、好きだった人に良く似ていた。そう、彼の代わりとして、愛したのだと、そう思う事で終わりにする事にした。

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