事故。
2人で、泊まるのは、これで2回目だ。前は、新年会の帰り。泊まらず、帰ろうとしていた、一葉を、哲平は、何度も、説得し、自分のマンションに泊まる事にした。
「俺が、寝てるうちに、かえるんでしょう?」
哲平は、自分を置いて、一葉が、朝、早く、帰ってしまうと思っていた。一晩中、一葉を抱きかかえて、眠りについた。今回は、一葉が、途中でいなくなる不安はない。それでも、哲平は、一葉を、抱きかかえ眠りにつくのだった。無邪気に、寝息をたてて・・・・。一葉は、幸せだった。勿論、いつまで、続くのか、わからない。彼には、未来がある。でも、自分には・・・。同じ時間を共有できるだけで、幸せだった。彼の寝顔は、無邪気で、一葉の、愛した彼そのものだった。いつまでも、そばにいたい。一葉の、せつない思いだった。
山間の小さな旅館に泊まった。部屋も、それなり、哲平が、以前行った先の、お土産を、二人であけて、部屋で、食事をした。昼間は、哲平が、調べておいたグルメ巡りをし、アウトレット巡りをし、買い物に行った。一緒にいる時間を貪るように、過ごした。哲平と一緒にいると、一葉が、心配する程、誰かから、メールが、頻繁にくるとか、連絡が、来るとか、そんな事は、なかった。ひたすら、一葉との時間を、大切に過ごしていた。 旅行は、すぐ終わった。2人で、いられる時間も、また、作らなければならない。だいたいが、哲平の休みに、一葉が、あわせる形になった。一葉が、6月に、長期出張に行くと知った、哲平は、すぐ携帯をかけてきて、向こうでおちあいたいと、提案した。一葉は、苦笑いしながら、約束した。1日長く、横浜にいて、哲平と買い物しよう。
「また、一緒にいられる」
一葉は、嬉しかった。那須から、帰ってきてからも、哲平のテンションは、下がらなかった。
「今度は、どこに行く?」
哲平は、一葉を、本当に愛していたんだと思う。何度も、メールに、一葉への思いが、届けられていた。それに、こたえたい。一葉は、思い詰め始めていた。うまく、いってないとはいえ、夫は、離婚してくれるだろうか・・・。子供たちは、どうするのか。何より、この若い、哲平は、私を愛しぬくことが、できるのだろうか。10歳違いのである、彼の親が許す訳がない。何より、彼の子供を生むことは、できない。もう、人生をやりなおせる程、一葉は、若くない事を、知っていた。それでも、彼を愛している。一葉の、心は、乱れていた。
旅行から、帰ってきて、季節は、春になっていた。毎日、時間をみつけては、逢う日が、続いていた。そんな時、一葉は、つとめる会社の車を運転中、事故をおこしてしまった。しかも、哲平のめの前で・・・・。
「哲平!」
一葉は、絶叫した。
ブレーキが間にあわない!加速した車は、後方の壁に激突した。瞬間、哲平と眼があった。自分は、おいすがる眼をしたと思う。
車は、やがて、停車し、駆けつけた哲平は、呆然とたちすくんだ。
「ちょっと、紫藤君。何してるの!」
同僚の声で、主任でもある哲平は、我に帰り、責任者としての行動に、うつった。
「とにかく、病院へ。」
「哲平」
自力でたっていられない一葉を同僚に残し、同乗者達を、車にのせかえて、診療所に向かって行った。
「ごめんなさい」
一葉は、その場に座り込んだ。
「痛い所は、ない?」
「一葉は、本当に大丈夫?」
哲平は、何度も、一葉にメールをおくってきた。事故の処理で、自分も忙しいのに、一葉を心配しているのだ。
一応、若いとはいえ、哲平は、事故責任者である。一葉の、事故の対応に、追われていた。
その日の夕方、哲平のマンションに行く予定だった。やめようかと、気のりしなかった。でも、このまま、1人で帰宅しても、気が滅入るだけだった。
「哲平に逢いたい」
予定通り哲平のマンションに行く事にした。何より、哲平に慰めてほしい。一葉は、事故後の精神面を心配する同僚をよそに、哲平のマンションに向かった。




