魔王様とゴミ掃除②
●視点変更:第三者
左右に並び立つ森の木々から伸びた枝葉が陽の光を遮り、まだ日中なのに時として薄暗さを感じさせる森の中を通る街道。
主街道と異なりほぼ人気を感じさせないその街道の中を、二人の少女が歩いていた。
一人は小柄で細身だが、その動きにしなやかさを感じさせる黒髪の少女。
もう一人は街中を歩いていればその美貌も相まって間違いなく人目を引くであろう赤毛の少女だった。
アーシェリカとアヤネである。
「きゃっ……」
「む」
地面から張り出した木の根に足を取られ躓きそうになったアーシェリカの体を、アヤネが素早く反応して支える。
「大丈夫か?」
「うん、ありがと」
アヤネに支えられて体勢を立て直したアーシェリカは、周囲を見回してため息を吐く。
「聞いてはいたけど……荒れ放題ねぇ……」
彼女の言葉の通り、薄暗い街道は荒れていた。左右の森にそびえたつ木々のものであろう根がそこら中からせり出しており、平坦な部分も草葉が伸び放題となっていた。中央部分はまだマシではあるが、左右の部分は最早道とはいえないだろう。明らかに"街道"としては使われていない整備状況だ。
彼女達がそんな場所を通っているのは、当然理由がある。
アーシェリカはハイランドジア国王の要請を受けてレゾの村に向かう予定だったのだが、そのレゾの村に向かう街道で崩落事故があったのだ。その結果、一時的ではあるが街道が閉鎖された。
もちろんレゾの村に向かうルートは一つではないがレゾの村は丘陵地帯の先であり、整備された道を通るには北に大きく迂回するか魔王領スレスレを通る南側の森を抜けるしかない。
魔王領は現在はリンの元統率されているが、先代魔王の時代は特に人間側の領土に侵攻などはしなかったものの末端の魔族を制御していなかったため魔王領の境界線に近い場所には人が立ち入っていなかった。その結果この街道は使われなくなり、魔王が代替わりしても変わらず使われていないのだろう。
現状ではほぼ魔王の脅威は沈静化している事もあり、距離的には今の主街道と大差ないこちらの街道を使う──という事にして、彼女達はこちらの街道を歩いていた。
勿論、理由は釣りの為だ。
「……相変わらずついて来てる?」
今度はわざと躓いた振りをしてアヤネの方に身を寄せ、小声でアーシェリカがそう問いかける。
それに対しアヤネは視線を前方から全く動かす事なく回答した。
「変わらず。……というか、距離を詰めてきている。そろそろ仕掛けてくるのではないか」
「わかった。いつでも結界を張れるようにしておくわ」
その言葉にアヤネは視線だけを向けて特に頷くこともなく、アーシェリカも体勢を戻して荒れ果てた街道を歩み進んでいく。
そうして更に少し進み、丁度この森の中を走る街道の中間地点という所までたどり着いた時だった。
「聖女殿、結界を」
アヤネがそう言葉にし、それに即応してアーシェリカが結界を張る。
それから数秒して、何かが結界の根本部分に当たって弾けた。
その感覚にはアーシェリカ当然覚えがあった。これは魔術を防いだ時の感覚だ。
「誰!?」
声を張り上げて、魔術が放たれたであろう方向へとむけて叫ぶ。すると左右の木々の中から、人影が次々と歩み出てきた。その数合わせて5人。全員が男であり……そしてアーシェリカには覚えのある顔だった。
「クレイトス……何故貴方がこんな所にいるの」
「穏健派のお前にゃいう必要あるか?」
アーシェリカが男達の中の内リーダー格であろう男に声を掛けると、男はやや顔を歪めた笑みを見せつつ、言葉を返す。
「というか、解ってんだろ? 体に力が入ってんぞ、警戒しているのが見え見えだ」
「……正気なの? 以前の辺境のダンジョン内と違うのよ?」
「むしろ都合のいい事しかねえだろうが。……せっかく近年は過激、好戦派に民間の状勢も傾いていたのにお前が現れて以降穏健派が盛り返しつつある。お前はパノス聖王国には邪魔な存在なんだよ」
クレイトスは嘲るような喋り方でそう口にし、他の4人もそれに追随するように嘲笑を見せた。その姿にアーシェリカは顔を顰めつつ、言葉を返す。
「……曲がりなりにも他国の領土内よ、こんな所で事を起こせば──」
「こんな所で事が起きても気づく奴なんか誰もいねぇよ」
言葉を途中で遮りそう告げていたクレイトスの言葉を聞き、アーシェリカは一つの確信を得る。
クレイトスは慎重派とは違うが、一応はこういったグループのリーダーを担っている男だ。こちらが二人だけしかいないとはいえ、先ほどからあまりにも口に出す言葉が軽い。
どうやら、リンのいっていたものはちゃんと効いているようだ。
だとしたら、後はここからもうしばらく語らせるだけで自分達の目的は達成できるだろう。
穏健派の長の承諾はすでに得ている。ならば、後は後程否定のしづらい言葉を引きずり出すだけだ。
アーシェリカの性格が当初予定から大分マイルドになってしまいとてもツンデレという感じではなくなってしまったので、サブタイトルを赤毛の聖女に変更しました。申し訳ありません。




