魔王様と協定の話③
「不戦協定を結びたいという話は、本当に事実なのだろうか」
それからいくつかの質問等に答えた後、国王がそう切り出してきた。
私はその問いに薄い笑みを浮かべて答える。
「こんな話を冗談で言いに来る程私は暇だと思われているのかしら」
脳内でシエラが「暇自体は沢山あるのでは……」とジト目で言ってきた。あくまで私の妄想だけど言いそうでもあるから、報復として後でめちゃくちゃに揉みしだこうかしら、いろいろと。って、さすがに国王相手に頭にピンクな事思い浮かべているのは失礼が過ぎるかしらね。
ちなみに若干嫌味っぽい感じの言い方になったが、さすがに国王はそれに対してうろたえたり顔色は帰る事はなく、言葉を返してくる。
「いや、不戦協定の話が貴女だけだったら信じられるのだ。過去に人間の国と協定を結んだのは何人もいるからな。だが半数以上の魔王と協定を結ぶというのは……」
あーね。
わが女神アージェはともかくとして、他の二人は引きこもりニートだから人間側には殆ど情報がないだろうし、ドリアネは最近まで紛争中だったから、そう思うのも無理はない。
だけどまぁ、
「5、は確実とはいえないけど4、は確実よ」
"樹海の王"ドリアネの所は直近まで人間と戦っていた以上確実とはいえないが、他の4人は余裕でいける。"怠惰"とか説得がいるのか? ってくらいだし。
「ただし伝えた通りあくまで不戦協定。もしそれぞれの陣営の人間が害を為した場合はそれぞれの陣営で処理をする。基本的にお互い戦争などを起こした時に援軍等は求めない。よろしいかしら」
「ひとつよいだろうか」
どうぞ、と頷いて続きを促す。
「協定を結んだ場合、魔族に組したとしてパノス聖王国が動く可能性は?」
その言葉に私は隣に座るシェリーに視線を振ると、彼女はコクリと頷いて喋りだす。
「魔族の傘下に入ったならともかく、不戦協定や貿易協定などでは動けないでしょう。その程度なら現在の"暴食"も含め過去にもいくらでも前例がありますし、ここから聖王国は大きく離れていますから国家規模で直接手出しは無理があります。更にこの近郊で敵対派や過激派よりの思想を持っているのは4国だけ。しかもその内3国は──」
「"獣化""幻惑"との交戦中で他所に向ける余力無し、もう一国はそもそも国力が弱いわよね?」
人間サイドの方に視線を振ると宰相さんが頷いてくれたので、私はそのまま言葉を続ける。
「そもそもの話、その"獣化"や"幻惑"を討伐できない時点で、そんな事できるわけないわよ」
明確に人間側と敵対中の魔族を討伐することもせずに、魔族と不戦協定を結んだだけの国家に対して手を出したら批判を受けるどころの話ではないだろう。過激派が最大勢力ならやりかねないが最大勢力である敵対派はそこまで強引な手法に出る事はない。それだからこそ裏でロクでもない事を画策するくらなのだから。
ただまぁ……こんな話は彼らもわかっているだろう話しだ、聞きたい事はそこではないだろう。
うん、まぁ明言したくはないんだけど……実際そうなった場合はそうせざるを得ないだろうから、仕方ない。
「"天位"持ち及び"聖位"持ちの聖騎士が何かしら仕掛けてきたのなら、魔王側で相手をするわ」
「……そうか!」
数は極わずかだが"天位"持ちは魔王クラス、"聖位"持ちは魔王の側近に近しい実力の持ち主の聖騎士が持つ称号だ。
国家規模で何かをしてくる事はないだろうけど、過激派の馬鹿が個として何かをやらかしてくる可能性は否定できない。その場合、国家にもよるが対応が難しいのだ。そのクラスの人間とか早々いないからね。まぁそいつらが出てくるということは最終目標は間違いなくこちらになるから、相手をするのは仕方ない。仕方ないんだけど……どこに現れても私が相手することになるんだよなー! "怠惰"は絶対動かないし、"破眼"は自分達の領域に手を出されない限り動かない。そして"暴食”アージェを動かすくらいなら私が動く。ドリアネも能力的に自領域から出ると戦力的に落ちるからなぁ……
まぁ過激派に該当する馬鹿は2、3人くらいしかいないって話だから余計な動きをしない事を祈ろう。
──結果、私がこの宣言をした後は話はとんとん拍子に進んだ。そもそもドリアネの所を除けば現状すでにそのような状態になっているところを明確に契約という形にするだけで、人間サイドにさほどデメリットはない話なのだ。細部の詰めに関してはこちらから人員を入れてちゃんと書面として締結すること、ウチとアーシェの所を除いた魔王との協定に関しては魔王側の同意が出てから各国との調整に動くとのことでこの話は終了となった。
「元々貴女に王が変わって以降目立った被害は聞いていないが、国境線近くの国民達はこれでより安心して過ごす事ができるだろう。この協定、長く維持していきたいものだ」
「私が王に君臨している間はそちらから手を切ろうとしない限り続くと思いますわよ? 私、争いごとなんていう面倒毎は好みませんので」
王の言葉にフフ、と笑いながらそう返すと、国王は今回の会談の中で初めて見せる表情を大きく崩した笑いを見せた。
「ハハハ! 美しい貴女のような方に出来るだけ長く王の座にあってもらう事を我々は祈らせてもらうとしよう!」
あらお世辞? 悪意のある奴じゃいからありがたく頂戴しますけども。
さて、これで用件1は終わり。後はっと。
「ところで国王陛下、協定の話が終わった上でちょっとご協力頂きたい話があるのですけどいいかしら?」




