魔王様と王都ハイランディア④
俺の言葉に横に座ったアーシェはわずかに腰を浮かせ、そのままの体勢で器用にベンチの上で俺との距離をとる。そんな彼女にこちらもベンチ上を移動して距離を詰めると、彼女は自分の体の前で手をわたわたと振る。
「ちょ、ま、突然何を言い出すのよ?」
「……以前から、割とお前の事欲しかったんだけどな?」
「ーーーーーーーっ!?」
おお、顔が真っ赤だ。というか何を考えているのか概ね予測つくけど思考ぶっ飛び過ぎじゃない?
せいぜい俺の家に来ないかとかその程度の話では?
……いや、多分男相手には初心このうえないアーシェにとってはアレな聞き方だったか。あとその次に言ったセリフ合わせるとアーシェちゃんだったら勘違いしちゃうかぁ。
この子、余り親しくない子相手だと割と事務的に冷静に対処できるっぽいんだけど、親しい相手だと逆に慌てたりするっぽいんだよね。普通に逆じゃね? まぁ聖女って呼ばれているくらいだし、見ず知らずの人間を相手にする事も多いからそうなってるのかもしれないけど。
後は普通に情緒が激しいタイプで、親しい相手だとその情緒が表に出ちゃう感じかね?
まぁ分析は別にいいや。とりあえず反応可愛いからもっといじりたいところではあるが、そのまま変に怒らせちゃったりするとその後の話がしづらくなるかもしれないからな。やめておこう。
話を本筋に戻す。
俺はアーシェの両肩を掴み、「えっ、えっ」とあたふたする彼女の瞳を覗き込み……告げる。
「というわけでだ、ウチのパーティーに入ろうぜ」
「え? え?」
「アーシェが加入してくれると、バランスが丁度よくなるんだよ」
アヤネが前衛、フレアが後衛火力、本拠にいるヘイゼルが遊撃と考えれば、護り方面で能力が高いアーシェが加入するといい感じになるんだよな。タンク役がいないのがちとアレだが、アーシェの術があれば代用が効くだろう。ユキは能力は強力だけどちょっとピーキーすぎて基本戦術には組みづらいかな。
そんな事を考えつつ言った俺の言葉を聞いたアーシェが、わたわたしていた動きを止めた。
そしてその整った顔から徐々に表情が消えて、やがて完全に無になってから彼女は口を開いた。
「能力目当てか」
「まぁ、アーシェ並みの実力者はそうはいないからなぁ」
ここで体も目当てだよ? とかいってみようかと思ったけど、またわたわたモードになりそうな気もするし、言葉のままの意味でとられたらひっぱたかれた上で立ち去られそうな気もするし。
というかわざわざ妙な言い回しをして揶揄いを入れるのは、マジでそろそろやめておこう。なんかだんだん目が座って来たし。
「勿論、アーシェという人間が気に入ってるってのが前提だけどな」
「……………………あ、そ」
そっけない回答が返って来たが、大分間が空きましたね? ま、そこを攻めたりはしないけども。
そのまましばらく見つめていると、アーシェは少しだけ頬を染めたものの視線を逸らし、そして大きくため息を吐いた。
「……魔王が、よりにもよってパノス聖王国の聖騎士を勧誘とか無茶苦茶すぎるでしょう」
「アーシェはスカウト組だから別に魔王絶対ぶち殺す思考じゃないだろ」
「そんな思考持っていたらそもそも今ここにこうしていないでしょ」
「だったら別に俺達と一緒に来てもいいんじゃね」
「話が飛躍しすぎでしょう……」
呆れ顔のアーシェに、俺は言葉を続ける。
「仲間のハズの連中に命を狙われたり悪意を向けられるくらいだったら、自分に好意を向けてくれている魔王の勧誘に乗る方が良くない?」
あ、またぴくっとした。チョロくないですか、アーシェさん。
だがそんなアーシェは顔にはそのチョロさを出す事なく、返事を返してくる。
「ないわね、さすがに。私が無派閥だったらまだあったかもしれないけど……穏健派の派閥長にはこれまでいろいろ世話になってるし……あの人に迷惑をかけるわけにはいかないわ」
──うーん、表情を見る限りは恋慕って感じじゃないし、素直に恩義とかそんな感じかな。だとしたらまぁ攻める方法はあるな。
「だとしたらその人にとって大きな利となる実績を残してやればいいんじゃないか?」
「そんな実績、簡単に作れるわけないでしょ」
「いや、簡単な奴が一個あるぞ」
ここで”魔王討伐”と言い出したいところだが、その話はまだ早いだろう。それにもっと簡単にする方法がある。
「それって一体何よ?」
多少は興味を惹かれたらしいアーシェに対して、俺は答えを返してやった。
「穏健派なんだし、魔王達と人間側の近隣諸国との不戦協定の構築とか、どうよ?」




