魔王様と王都ハイランディア③
というわけで、しばらくはアーシェとカフェで雑談に興じる事になった。
話す内容は基本的に旅の話だ。フレアとかアヤネの一件自体は内容がアレなので話すわけにはいかないが、それ以外でも話す事はいくらでもあるからな。ちなみに同行者がいる事を話したら結構いろいろ聞かれた。んー、シエラは地元の仲間といえばそれで終わる話なんだけど、他の3人はいろいろ説明が難しいんだよなー。まぁ適当にごまかしたけど。いや俺の正体を知っているアーシェには話していいのかもしれないが、こんな誰が聞いているかわからない場所で話すわけにはいかないよな。
でもまぁ、見ている感じこっちを探っている感じの奴はいないから大丈夫そうではあるけど。シエラみたいに確実に探れるわけじゃないけど、こっちを気にする気配を見せている奴はいないし、魔力的にも普通の奴しかいない。
とりあえず問題なさそうだな、という事で雑談を切り上げ場所を移動することにした。普通に雑談してるのも楽しいけど、それが主目的じゃないからな。
移動先はすでに目星をつけている。
王都は人口密度が高い。とはいえ、どこもかしこも人がいるわけじゃなく探せば人の少ない所もある。
俺達が来たのは観光スポットや商業地区から離れた、水路沿いにある倉庫街の近くの場所だ。そこに小さな公園みたいなところがあるから、そこにした。人の流れから離れた所にあるからここならあまり人が来ないだろうって事で。せいぜい倉庫の警備員が休憩で来るくらい?
その分変なのが来て絡まれる可能性があるかもしれないが、その程度俺なら問題なく対処できるからな。問題ないだろう。
「そこに座ろうぜ」
「ええ……」
おあつらえ向きにベンチがあったので、中央から右寄りに腰を降ろす。するとアーシェはベンチの左端へ腰を降ろした。
「……いや、もうちょっと近くに座らない?」
「いやよ、こんな場所でそんな近くに座ってたらこ、恋人かと思われるかもしれないじゃない」
いや、そんな事思われんだろ。一緒に帰ったら学校で噂れると思っている思春期の学生か?
アーシェなぁ、以前も思ったけどあまり親しくない相手なら適切な距離で対応するのに、親しい相手には距離感妙になるよな? あと男慣れしてない。前この姿でお姫様抱っこしたときも体固くしてたし。
あまり大きい声でしゃべる話じゃないから出来ればもうちょい近くに座って欲しいんだが……このまま距離詰めたらどう反応するかな? とかちょっと考えたけど、話が進まない気がしたのでやめる。まあ、人の姿は少し離れたところにしかないし大丈夫だろ。
「それで……いやどうした?」
「なんでもない……」
話をしようとしたら、何故か「えっ」という顔したをしたので聞いたら、何故かちょっと困ったような顔をされた。なんやねん。まあいい、話を続ける。
「……で、だ。まず最初に聞きたいんだけど、そっちの国の派閥闘争ってまだ続いてるのか?」
「……何よ、敵情視察?」
目に見えて期限が悪くなった。魔王に、そういった存在を(基本的に)敵対視している国の事を聞かれたらそうなるか。
「こっちはわざわざ仕掛けに行くほどアレじゃないぞ。ちょっと話の内容に絡むからだし、別にそんな詳細はいらんぞ」
「まあ、ちょっと調べればわかる事だしね……相変わらずよ、むしろ最近は敵対派と過激派が幅を利かせてるわ」
「純粋培養されている連中は大体そっちの派閥に行くだろうからな」
「……そうね」
パノス聖王国の聖騎士は大きく分けて2種類存在する。一つは王国内の騎士養成校などからあがる純国民の騎士。もう一つはその実力から外部スカウトされている組だ。アーシェはスカウト組だな。
スカウト組は魔族絶対ぶっ殺すマンもそれなりにいるが、アーシェのように魔族に対してそこまで明確な敵意を持っていないのもそこそこいる。聖騎士は報酬がいいらしいので普通にお仕事としてやってるタイプだ。それに対して養成校組は子供の頃から魔族は悪!って教育されているエリートだからな。そりゃ過激派や敵対派になりますよねって話。勿論融和派や穏健派に流れるのもゼロじゃないけどな。
特にここ近年の教育はアレだったらしく、そのせいで過激派や敵対派がさらに増えているんだよな。
「以前のアイツらは、さすがに処分されたんだよな?」
「さすがにね。ウチのリーダーも動いてくれたし、やらかしたことがやらかしたことだから。でもその結果更に目の敵にされるようになったけど」
「完全な逆恨みじゃないか」
「うん」
流石に派閥が違うとはいえ、同じ組織に所属する仲間を見捨てた上に閉じ込めるなんてやらかした相手を処罰しないなんてことしなかったみたいだが……ほんと面倒だな、パノス聖王国。
「って事はやっぱり狙われているのか、お前?」
「直接的って事はないけどね。いろいろ面倒で……リーダーは頼れるけどいかんせん規模の問題があって。お給料はいいけどちょっとしんどくなって来たなぁ」
ふむ。ご不満がでてきているようですね?
アーシェは間違いなく善人に含まれるタイプの人間ではあるが、自分を犠牲にして誰もかれも助けたいとかそういうタイプではない。そして彼女はビジネス型だ、王国に完全に忠誠を誓っているわけでもない。
更に、確定ではないが今後起こりうること考えると──
これは、チャンスなのでは?
そう思った瞬間、俺の口は勝手に言葉を紡いでいた。
「なあアーシェ」
「うん?」
「俺と一緒に来ないか?」
「ほえ!?」




