魔王様は飽きてしまった②
数年くらいはわりとそれでも良かった。だらだら本読んだりとかしてのんびり過ごさせてもらっていた。でもそれが何年も続くと本当に退屈になるわけで。
かといって今更部下に任せていることを私がやるのも微妙過ぎる。だってウチの子普通に優秀だから私がやるよりうまくこなしてくれてるし。
さあ困った、じゃあ私はこの退屈をどう過ごしていけばいいのか。そんなことをある時期から考え始めた。
魔王らしく人間に対して宣戦布告する?
する意味がない。今の私の意識は完全に魔族だけど人間に対してどうこうって意識もないし、そもそもこの世界の魔族はあくまで起源を別とする別種族だっていうだけで必ずしも人間と敵対しているわけじゃない。いや敵対している連中もいるけど。
じゃあその人間と敵対している魔王を滅ぼす?
なんで私がそんなことを? という感じだ。私は別にバトルマニアじゃないから戦いたいわけじゃないし、そんなことしたら全面戦争になって領民にも迷惑かかるだけだし。それに人間の為に戦う理由もないし。
私が元人間だからって? この世界の人間と元の世界の人間は別の種族でしょ、生まれた起源だって違うし。私にはこの世界の人間の事を同族とは思っていない。だから人間と魔族が戦っていても無条件で人間側に味方するとか、そんなことはありえない。
そんなわけでいろいろ考えていた中で、ようやく思いついた退屈を処理するための方法。
一つは自分の領地の発展。
魔族は人間に比べて全般的に寿命が長いし体も強靭なのもあるせいか、あまり生活環境の改善とかを考えない節がある。出生率が低いから人間ほど食料を必要ともしないしね。でもだからといって生活が豊になっていくことは悪いことじゃないだろう。私SLGとかとかで勢力圏あまり広げずにひたすら国力の強化をするのは好きだったんだよね。
でもう一つはRPG。せっかくファンタジーの世界に来たんだもの、魔王討伐する勇者の姿見たいじゃない?
え、さっき魔王と戦う気はないって言わなかったって?
言ったよ。だって私が戦う気はないし。
私はあくまでライブでヒロイック・サーガが見たいだけであって自分が主役になりたいわけじゃないからね。
だから魔王を倒せる勇者をこっそり育てるのだ。育成ゲーム要素も出てくるね!
幸いな事に、討伐対象に出来る魔王もいるし。
現在人間と交戦関係にある魔王は4人いる。
樹海の王ドリアネ。
幻惑の王ナオ。
獣化の王ヴォルフェン。
死霊の王カルガルカン。
だけど、まず樹海の王ドリアネは対象外。彼女は私と交友関係があるし、そもそも彼女の場合は先に彼女の領土に侵攻したのは人間側だ。義は彼女の方にある。
次にヴォルフェン、彼もパス。彼や彼の傘下の魔族は人間を食料とする一派だ。すなわち人間が食事の為に動物を狩るのと一緒。それを妨害するのは彼らにご馳走を我慢しろという話で、私にはそんなことはいえない。
あとそういう種族は彼の所に集まってるので、彼の所がなくなるとそういうのがこっちの領土に来て人間と開戦する羽目になっちゃうんだよね。
幻惑の王ナオ。こいつは人間を苦しめるために行動するある意味に魔王らしい魔王。いやらしい性格の男だけどコイツもパス。理由は私と目的が被っていること。こいつは人間達にストレスを掛けることでその中から優れた英雄が現れるのを待っているのだ。そしてそれと戦うのが彼の目的。ある意味魔王の中で一番バトルマニアと呼べるかもしれない。
とにかく彼の所は、放っておけば私の見たいことを勝手にやってくれる可能性があるのでノータッチ。
というわけで死霊の王カルガルカンだ。こいつはそもそも能力が邪悪と呼べる魔王オブ魔王だ。なにせその通称の通り、こいつは死んだ人間を操り自分の軍勢を増やす。そのためヴォルフェンやナオに比べても多い数の虐殺を繰り広げている。能力の強さはおいておいたとしても、尤も討伐が求められる王なのは確実だ。あと名前が呼びづらい。カンカンカンでよくない?
まそんなわけで私のこの世界での当面の目標は決まった。
一つは自国領土を富国強兵すること。
一つは魔王カルガルカンを討伐するパーティを育てる事。
それにはどっちも人材が必要。富国強兵に関しても私そっち系の知識はそんなないしね。
そして人材を集めるのは、自分の部屋の中では無論無理。なによりそういう人材は折角だから自分の目で見つけたい。
というわけで、魔王リンの異世界諸国漫遊記が始まったのであった!
あ、領土の運営は優秀な部下に任せております。