魔王様と過去の話⑨
「本当っ……に広いわね、このダンジョン」
後ろでぼそりと呟いたアーシェの言葉に、私は「そうね」と返す。
あれから、4日が経過した、まぁ空が見えないから時間がわからないので、あくまで感覚として4日、って事になるけど。
その間、寝ている時間と休憩の時間以外は基本ずっと散策をしているわけだけど、未だに出口は見つかっていない。ついでにいうと私の目的のモノもまだ未発見だ。
……そういや、目的のモノの破壊どうしよう? アーシェの前で破壊するといろいろ疑われそうだし、最初の頃は一度外に出た後戻って破壊しにくればいいかなと思ったけど、残り食料が心許ないからなぁ……一度食料補給してきてもいいけど、その間に別の冒険者に発見されるとか避けたいし。
まぁここまで探してまだ見つかってないから、すでにこのダンジョンにはない可能性も否定できないけど。
「スズ、どうかしたの?」
ちょっと考え込んでいると、それに気づいたのかアーシェが顔を覗き込み声を掛けて来た。私はそんな彼女の肩を掻き抱き「何でもないよー」と答えたら、「ちょっと!」と手を払われた。
ま、まだ会って4日目なのになれなれしくするなって態度だけど、アーシェが匂いを気にし始めてるのを私知ってるよ。一応湧き水で体を拭いてはいるけど、ちゃんとは洗えてないからねぇ~。今もどっちかっていうとそっちを気にして離れたでしょ。知ってる知ってる。
「あ……えっと、ゴーレムの数も殆ど見えなくなってきてるし、きっと出口も近いはずよ、うん」
結構勢いよく払ってしまったのを気にしたのか、払った俺の手と顔をちらちらと見つつ、アーシェがそう口にする。
「そうね。明らかに数が減ってきてるし、その可能性は高いわよね」
彼女にそう答えつつ、私はアーシェの顔を見る。うん、可愛いなぁ。日をおって彼女の表情は感情豊かになっている。いや、元から無感情だったわけでもないけどさ。
出会ってからわずか4日ではあるけど、ずっと二人っきりで過ごしての4日だ。話し相手もお互いしかいないし、幸いな事にアーシェが私が魔族であることに関して多少気にしている節はあるものの(特に聖王国の話に関しては気を使ってるっぽい)忌避した態度ではなかったので、どんどん親しくなっていったわね。特に私は気に入った相手には割とがつがつ行くし。アーシェはそんな私に対して最初の頃は距離を取ろうとしてたけど、どんどん絆されて行った。いい傾向である。
んで、そうなってきてわかったんだけど、この子は割と親しくなる方がいろいろな事に対して照れが出るっぽい。例えば最初の頃は手を繋いで移動する事とか特に気にしてなかったぽいけど、私ががつがついってみたら、だんだん恥ずかしがるようにそぶりを見せるようになってきた。
これ多分あれね。余り親しくない相手なら事務的な対応が出来るけど、親しい相手だといろいろ感情が出て来ちゃうタイプよね。
非常に揶揄いたくなるタイプではあるんだけど、さすがにこの状況下で下手に怒らせたりすると面倒な事になりそうなので、ちょっとだけで後は自重しておく。
うーん、こうやって過ごすのも悪くないんだけど、さすがにそろそろゴールは見つけたいなぁ。今日か、最低でも明日には。一応比較的地上が近いところはみつけてあるからそこを強行突破する手もなくもないけど、それでも結構遠いので出来ればもっと近い場所を見つけたい。
理想を言えば、出口自体を見つけたいんだけど……そう思いながら、私は魔力感知を走らせる。
……ん?
なんだろう、ちょっと離れた所に力の反応があるな。ゴーレムとか……じゃない。むしろもっと強い反応が一つと、その側にもう一つ。特に片方は明らかにゴーレムとかとは異なる異質な反応。
……これは……ビンゴかな?
感じる力が、神代種族の持つそれに近い。まぁゴーレムとかも神代種族に作り出したものではあるんだけど、あくまでゴーレムは魔力で動いているだけって感じがするのに対して。反応の一つが持つものは神代種族の力そのものだ。
そっかー、先にこっちが見つかっちゃったかー。
さて、どうしよう。
アーシェだってこういったダンジョンに派遣されるくらいだ、こういった所に何があるかくらいは知っているだろう。そしてこの反応、かなり強力なので近くに寄ったら彼女も気づく可能性が高い。そうしたら……私が魔族と知っている以上、素直に破壊させてくれる可能性は低いだろう。
となると、やっぱり先に出口作って彼女を送り出してから戻って破壊かしらね。そう考えて、反応とは逆方向に体を向ける。さすがに出口すぐ側に貴重品アイテムをおかないだろうから、少しでも地表に近づくとなれば逆方向でしょう。
「向こうの方が地表が近い感じなってるわ。行ってみましょう」
実際はそんな事はないんだけど、嘘をついて進行方向を指し示した──その瞬間だった。
地面の下に、突如力の反応が現れた。
──トラップ!?
そう思った瞬間、私の体は強く横に吹き飛ばされた。




