魔王様と過去の話⑥
「……へ?」
間抜けな声を口から漏らした後、ジルバさんは目を大きく見開き──座ったまま半歩程度程後方に下がった。
うん、まぁそういった反応になるよね。いくら彼女が穏健派だといっても、別に魔族と仲良しこよしってわけでもないし。というかどちらかというと穏健派は"必要なければ関わらない"派閥だろう。
ちなみにこれが過激派相手だった場合は事態を飲み込んだ瞬間にこっちに殴りかかってきてるわね。
「安心して、私は人間に対して友好的な魔族だから。そういった魔族がいるの、知ってるでしょ?」
ジルバさんが言葉を失ったまま固まってしまったので、私はそう言葉を続けてあげる。
「具体的に言うと、私アージェ様の下についているのよ。アージェ様が人間に対して友好的なのは知っているでしょ?」
私の言葉に、ジルバさんは少ししてからこくりと頷いた。
暴食の魔王と呼ばれるアージェは人間に対して非常に友好的な魔王として知られる。何せ彼女は自分の領土の近隣の街の酒場でよく食事をしているのが見かけられるくらいなのだ。──ちなみに大物の獣を仕留めてそれを売り払った金で酒場の皆におごったりしているので現地での人気も高いらしい。美人だし。
彼女自身がそんな存在なので、人間に対して敵意を持っておらず友好的な魔族は彼女の元に集まっている。獣化、死霊、幻惑、樹海の4魔王は敵対しているし、怠惰と破眼は引きこもり気質だからね。私の所は今後友好的になる予定だけど今の所産まれて間もない勢力だし。だからアージェの所の所属だといえば、人間に対して友好的だとは思わせられるだろう。──何の証拠もないけどね!
ちなみに魔王の一角である私は当然アージェの部下ではないんだけど、精神的には私はアージェの為なら何でも動くつもりなので、半分くらいは嘘は言っていないつもりである。
ジルバさんはまだ混乱しているようだった。顔は青ざめ、口を小さくパクパクとしている。ただこちらに対する害意は全く見て取れなかったため落ち着くのをまっていると、たっぷり十数秒ほどたってからようやく彼女が口を開いた。
「瞳の……色は?」
──ああ、彼女はまだあまり魔族に対して詳しくないのね。
「ああ、魔族はそれぞれ固有の能力を持つっていうのは知ってるでしょ? 私の能力は瞳の色を変えれるのよ」
魔族の特徴ともいえる紅い瞳。当然そんなものひらけだしたままそこら中人の領域歩くわけいかないので、瞳の色を今私は変えている。──薬で。ちなみに私の変身能力を使えば瞳の色も変わるから嘘はいっていない。今は使ってないけど。
人間社会に紛れ込んでいる魔族は極わずかだがいるので、そういった手法はいくつか魔族の中で広まっている。人間の中でも一部は知っている情報だろうが、彼女は知らないようだ。だったらわざわざ教える必要がない。
ちなみにそういった存在を暴き出そうとする奴はまずいない。
人の中に紛れ込むにはそもそも元から人間の姿をしている必要があるが、魔族の場合人の姿に近いほど高位な存在となる傾向がある。しかも高位の感知術式でないと発見できないのだ。特に何かしでかした場合でもない限り、探し出してもワリに合わなすぎるのである──さすがにパノス聖王国本土なら感知位はしているかもしれないけど、我々魔族もそんなところに行くほどアレではないし。
「……どうして、正体を明かしたの?」
とりあえず瞳の件は信じてくれたらしく、次の質問が飛んできた。だがこれは簡単な答えである。
「だって一緒に行動したらすぐにわかっちゃうじゃない。だったら先に説明しといた方がいいでしょ」
「一緒に?」
「こんな状況下なのに協力しあわない理由ある?」
魔族と人間の力の質は違うので、力を使って見せればわかる人間にはすぐわかる。私の場合人間に変身すれば人間同様の力が行使できるけど、残念ながら今はストックに人間がない。
「協力するって……」
「もちろん脱出の為によ」
「でも、入り口は塞がれたわ」
諦め早くない? この子あんまり冒険者経験ないわね。冒険者ならこの程度序の口……いやさすがにそれは言い過ぎか?
「私は少し前からここに潜ってるけど、ちょっと歩いただけでもかなりの広さがあるとわかるわ。これだけ広ければ他に出入口がある可能性が非常に高いし、そこが埋まっていても地表に近ければなんとかなるわ。私の力物理打撃系だし」
私の力っていうかまぁ普通に魔力ぶつけるだけだから魔族ならだれでも出来る奴だけど。
「貴女は? 何が出来るの?」
「……回復や結界なら」
「結界なら生き埋めをさけて掘削ができるし、一時的に補強も出来るわね。ほら諦める理由どこにもなくない?」
そう告げた私の言葉に彼女の表情が変わった。困惑と悲嘆から、前を見るものへと。
「そうね。まだ悲観するのは早すぎたわ。協力すればなんとかなるかもね」
実際の所は協力しなくてもいけるんですけどね。じゃあなんで協力するかっていうと、一人で出口を探し続けるのはさすがにちょっと気が滅入るし、元が男のせいか意識が女性に傾いている今でも可愛い女の子好きなので美人さんの彼女は目の保養になるし、後は──
「そうよ、脱出して貴女を陥れた連中にざまぁをしましょう」
「ざまぁ?」
「痛い目を見せるってこと。死人に口なしと思ってる奴に一泡吹かせるのって最高じゃない?」
私元の世界で小悪党共にざまぁするお話しってわりと好きだったのよねー。




