魔王様と過去の話⑤
「ちょっと自国の情けない話になるんですが……パノス聖王国にはいくつか派閥が存在している事はご存じですか?」
彼女の言葉に私は頷く。よーっくご存じです。ちなみに割と有名な話だから、私が知っていたとしても何か疑われるような事はない。
実際彼女も特に気にする様子はなく、そのまま話を続ける。
「私は、穏健派と呼ばれる派閥に所属しているんですが」
よし。
これでいきなりバトルになる可能性は低くなったかな。まぁ戦闘になっても負けやしないけどさ。
「現在パノス聖王国で強い勢力を持っている派閥は敵対派と呼ばれる派閥です。私達穏健派はトップのシェルハ様がいますので、潰されるような事はないんですが……」
うん、これも知ってる。国の内情が漏れまくってるのもどういうものかという気がするけど、これも割と有名な話だ。ちなみに穏健派トップのシェルハ・ヴァーミリオは現行聖騎士の中では最強と言われている人物である。実際現在人数の少ない穏健派が過激派・敵対派に対してのある程度のストッパーになっているのはほぼ彼の存在が理由だとは聞いている。
「それで……」
そこで、何故か彼女が言葉を詰まらせた。なんだろう? 自国の事で言いづらい事があるのかな? まぁ私の正体もわからないのに国の事をぽろぽろこぼすわけにはいかないのかしら。
「あの、私自国では赤毛の聖女って呼ばれてるんですが……」
うん? あれ、ジルバさんの顔がちょっとだけ紅い?
「実は、その、最近国では私の人気が結構広がってるらしくて、ですね?」
……あー、成程。自分をそうやって持ち上げるような事を口にするのに躊躇があったのね。ちょっと反応が可愛いから少し揶揄って上げようかしらとも思ったけど、話が進まなくなりそうなのでやめておいた。
「それでですね、これまでほぼシェルハ様のワンマンともいえたウチの派閥の勢力が増してまして」
「ああ、成程ね」
単純な話だ。単純でくだらない、話。
「今後邪魔になりそうな貴女を、ここで消してしまおうとした可能性が高い訳ね」
私の言葉に、ジルバさんは頷いた。
「まさか本国からの指令の実行中にこんな暴挙に出るとは考えたくないんですが……その可能性が高いと思います」
彼女はやや言葉に詰まりながら、しかめっ面でそう口にする。本来なら部外者に対して口にする事ではないだろう。だがそうなった場合私は完全に巻き込まれた形になる事、そして、今後助かる可能性が低いと考えているから、口にしたのだろう。
「ダンジョンが手に余る場合は入り口を塞ぐというのは、一応ちゃんとした手順です。万が一私が無事に脱出できたとしても、ゴーレムにやられたと思ったと言い逃れが効くと考えての行動でしょう」
「姑息な連中ねぇ……ちなみに同行者は別派閥だったの?」
「過激が2に敵対が2です」
伝え聞く派閥の人数の割合を考えたらおかしな配分ではないけれど……可能性としてはそもそもこの行動自体が本国の指示の可能性もあるわね。カリスマ性の強い子が新たに生まれて民意がそっちに流れれば自分達の今後の行動も制限される。そう考えた可能性もあるわ。
──ま、私の知ったこっちゃないけどね、この辺り。所属国が違うどころか、種族すら違う。たとえ私が考えた事が真実だったとしても、私がそこに介入する事はありえないというか介入したらそれこそうちの領地、あるいは下手すると種族間の全面戦争になるわよね?
ただ、こうなるとこの子はここから出してあげたくなるわね。
先ほど彼女が口にした通りたとえ彼女が脱出したとしても同僚を放置して逃げ出したことは事実。彼女がその時の事を伝えれば、間違いなく在る程度の処罰は降りるでしょう。逃げ出した者と取り残された者、どちらの方が説得力があるのは明確よね。それに人間と戦争する気がない私としては、穏健派の勢力が落ちるのは芳しくない。
だとしたら、どうせこちらも脱出口を探すのだ。連れて行っても構わないんじゃないかしら? 後正直彼女は聖女と呼ばれるだけあって(前世の記憶から聖女は美人というイメージがある)、とても可愛らしい。じめじめして何の娯楽もないこの地下ダンジョンの中では丁度いい目の保養にもなるし。
ただ、その場合は──
「ねぇ、ジルバさん」
「はい、なんでしょうか?」
「私魔族なんだけど、どう思う?」




