魔王様と過去の話④
「……何に対する謝罪なの?」
先ほどあったばっかりの人に、いきなり謝罪をされても当然意味が解らないわけで。別に彼女のせいで危険な目にあったわけじゃないし。
「とりあえず顔を上げてくれる?」
私の言葉に、ジルバさんはゆっくりと顔を上げた。その顔には申し訳なさそうな表情が浮かんだままだったけど。
うーん。
「……とりあえずここまで来れば連鎖して崩落の恐れはないだろうし、一息つきましょう。それから具体的な話を聞かせてくれる?」
そう彼女に告げながら私が床に腰を降ろすと、彼女も小さく頷いてからそれに続いた。
ん-、お湯でも沸かしてればお茶でも入れてあげたんだけど。ないものはしょうがないのでこのまま話を続けましょう。
「それで、さっきの謝罪は一体何に対してなのか聞かせてもらっていいかしら」
「はい……その、先ほどの崩落ですけど、恐らく私のせいであなたの事を巻き込んでしまった可能性が高いんです」
「どういうこと? 貴女が何かして崩落を起こしたということ?」
私の問いかけに彼女は首を振った。
「いえ、私自身が起こしたのではなく……同行者が恐らく起こしたものではないかと」
「同行者?」
「はい。……あの、私パノス聖王国の聖騎士なんですが」
「……へぇ、話に聞く?」
やば、聞いた瞬間身体がビクッとしちゃった。よりにもよって私達とがっつり敵対している聖王国の人間かー。どうしよう、さすがにこんな所に実力トップクラスがいるとは思えないし、1対1で負ける事はないと思うけど、面倒な事になりそうだしとっとと逃げだした方がいい?
だけどその前に情報はもらっておくべきね。
「という事は同行者も聖王国の人間ね?」
先を促す意味もかねての私の言葉に彼女はまた頷くと事情を話し始めた。
彼女は別件でこの近くの地域に来ている時に今回の地震が発生した。
彼女の能力は回復・支援系に偏っているらしく、自分であれば被災地で役に立つだろうと王国の方に連絡を入れて自らの意思でこっちの地域にやってきたそうだ。
そうして救助、支援活動を行っていた所に本部から連絡が入った。
神代種族の時代からのものと思われるダンジョンが見つかったので、そこから現れるであろう危険な要素の排除および探索を行えという指示だ。これは聖王国では当然の任務らしい。
「こういったダンジョンからは危険なモンスターがあふれ出す事がありますし、それに民間に流出すると不味いレベルの危険な性能を持つアイテムが埋蔵されている事もありますから」
ソウデスネー。特にここにあるのは民間というか人間側に流れ出すと魔族が結構迷惑被る奴だけどね!
まぁそれはさておき、その指示をうけ、他にこの近郊地域にいた聖王国関係者数名と一緒に彼女達はこのダンジョンに突入したらしい。
ただ、正直このダンジョンに存在しているゴーレム達は彼女達の手に余る存在だったようだ。
彼女自身は直接戦闘はあまり得意ではなく、また他の同行者はそれほど実力の高い面子ではなかったため、早々に苦戦する羽目に陥った。何せタンク役がゴーレムの攻撃に全然耐え切れず、その結果戦闘能力はないが相手の攻撃を防げる障壁がはれる彼女が前線に出てゴーレムの足止めをする羽目になったからだ。
そしてひどい話はここからだ。
なんと他の面子が最前線でゴーレムを障壁で防いだ彼女を残したまま逃げ出したのである。なにが聖王国って感じの話よね。
複数のゴーレムを防いでいた彼女はそれを追う事が出来ず、それでもなんとか後退しつつ狭い通路に入ったところで強力な障壁を張る事でなんとか離脱した彼女が出口に向かったところで先ほどの崩落に遭遇したそうだ。
恐らく崩落は、先に逃げ出した彼女の仲間の仕業で間違いないだろうとのこと。
聖王国のマニュアルとして新規に出現したダンジョンが自分達の手に負えるレベルになく、尚且つ近郊に他の聖王国の関係者がいない場合は入り口をふさぐというのはマニュアル道理の行動ではあるらしい。だから今回も仲間の一人が爆薬を携えてやってきていた。その爆薬を使って地上への唯一の通路を崩落させたのだろう。
「でも貴女を残したまま……貴女はゴーレムにやられたものと判断したのかしら」
仲間というか同僚を置いて逃走するクズとはいえ、後をゴーレムが追ってきていないのは解るはずだしそこまで焦って入り口をふさぐ必要はなかったハズ。クズだから同僚を捨てて逃げたのが発覚して責められるのを恐れて暴挙に踏み切った可能性もあるけどこれは口に出さないでおく。
私の言葉に、彼女は今度は頷かなかった。
「……正直考えたくもありませんが、もしかしたら私をここで生き埋めにさせるためにあえて爆破した可能性もあります」
……私と同じ、証拠隠滅の為の行動ではないかと思いいたったのかしら? そう思ったのだけれど、彼女の口から漏れ出た言葉はそれを超えるものだった。
「彼ら……というか彼らの派閥にとって、私の存在は邪魔だと考えられているかもしれませんから」




