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TS転生魔王様の異世界漫遊記  作者: DP
Episode.3 赤毛の聖女は側にいたい
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魔王様と過去の話③

声に釣られてそちらに振り返れば、少し離れた場所に一人の少女が立っていた。


一応急所部分が皮で補強された服を着ているが、ぱっと見武器のようなものも持っていないし線も細い感じがして戦士という感じではない。


特徴的なのは燃えるような赤毛だった。それに肌の色も白く整った顔立ちをしている。正直こんな所にいるより着飾って王城にでもいる方が似合いそうなその少女は、だが今はその美しい顔に絶望に近い色を浮かべていた。


「出口が……」


精神への負担により力も抜けてしまったのだろう。彼女はそう呻くとぺたんと地面に座り込んでしまう。


──まぁ、自分が入って来たところが崩れていればそうもなるかな。


私は一応シエラの能力と自分の魔力を使えばどっかからごり押しで脱出出来ると思ってるけど、大抵の人間はそうはいかないだろうし……って


「いたっ!?」


突然頭に何かが当たって、ちょっとした痛みが走る。見れば上から石のようなものが落ちてきて頭に当たったらしい。この私にほんのちょびっととはいえダメージを与えるとは、やるな石ころめ。


というか、他にもパラパラと石やら細かい土くれが落ちてきてるわね。てかこの場で爆発があったのなら当たり前か。


「あ、あの……」

「ん?」


周囲を見渡している内に、気が付けばぺたんと女の子座りしていた少女が立ち上がっていた。


「大丈夫? 怪我したの?」


その表情を塗りつぶしていた絶望の色は引き、今は心配そうにこちらを見ていた。ああ、先ほど悲鳴あげちゃったから気づいたのね。さっきまで絶望してたのに、見ず知らずの私の心配するとかいい子だわー。


「平気よ」


私は言葉と共に、態度でも無事なことを示すように笑みを彼女に向ける。それから周囲に視線を送りつつ言葉を続けた。


「それより、ここから今すぐ離れましょう。危険だわ」


相変わらず周囲にはらパラパラと土が落ちてきている。どう見ても不安定な状態で、二次崩落の起きる可能性は高そうだ。シエラに変身してヴリトラを使えば生き埋めになることはないだろうけど、見ず知らずの少女の前で変身するわけにもいかない。人間に私程完璧な変身技術はないので一発で魔族とばれてしまう。この子の魔族に対するスタンスがわからない上にこんな逃げ場のない密閉空間にいるうちは隠しておいた方がいいだろう。


とにかく今は退避だ。来る途中は落盤とかそんな気配は全くなかったので、とりあえずここから離れればひとまずは大丈夫でしょう。


私の言葉に少女はコクリと頷いたけど、意識に体がついていってないのかその場から動かない。仕方ないのでその手を取ったら、少女は震える手できゅっと握り返してきてからついてきた。やめてよきゅんとしちゃうじゃない。


◆◇


とりあえず、安全が確認できている私が歩いてきた道を逆走してしばらくすると後方から振動が来た。やっぱり2次崩落があったらしい。とっとと退避して正解だったわね。


手を引いている少女は無言のまま私の後をちゃんとついてきている。その顔に浮かぶ表情は歩いている間に絶望から困惑に変化し、今は何かを考え込んでいるようだった。ただその変化につれて足取りもしっかりして来たのでそっとしている。


そうしてしばらく歩いて。比較的広く近場にゴーレムも出現しないと確認済みのエリアに辿り着いた私は彼女の手を離し告げた。


「ここまで来れば崩落が起こる事はないでしょう。ひとまず休みましょうか」

「そうですね」


ここまでほぼ無言だった少女だったが、応答はすぐ帰って来た。その表情は沈痛なものになってはいるが、先ほどと違い絶望といった感じではないのでひとまずは安心かしらね?


荷物を床に降ろし、続けて腰も落とすと、少女も私に倣うようにして続いた。それから大きなため息を吐く。


「大丈夫?」

「あ、大丈夫です……えっと」

「スズよ」


言葉に詰まったのを見て、そういえば名乗ってなかった事を思い出し、ここ最近使っている偽名を名乗る。


リンなんて人族でもそこら中にいるような名前だし、私はまだ魔王のキャリアが極短い上に人間の領域で殆ど目立つような活動はしていないから顔はあまり知れわたっていない。だからそうそう私が魔王と気づくようなことはないだろうけど、いかんせんこんな所にやってくるようなのは冒険者とかその類な訳で、普通の町人よりは感づかれる可能性が高い。態々本名を名乗る必要はないでしょう。


「スズさんですね。先ほどはありがとうございました。ちょっと状況が受け入れられなくて……」

「こんな事態ですもの、仕方ないわよ。ところで貴女の名前を聞いていいかしら?」

「あ、はい、すみません。私はアーシェリカ・ジルバと申します」

「ジルバさんね、よろしく」


そう言って笑いかけると、ジルバさんは一度眉を顰め、うつ向き、一度言い淀んでから改めて目を見開き強い視線でこちらを見ると口を開いた。


「あのっ、ごめんなさい!」


頭を勢いよく下げながら。

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